散歩の千四十二話 無謀な特攻
「そうそう、念の為に言わなければならぬのう。今のうちに無条件降伏するのじゃ。さすれば、手荒なことはせぬ」
「「「「「ぐっ……」」」」」
王妃様は、鉄扇を反対の手でぽんぽんとしながらデヨーク伯爵一家に最後通告をします。
激怒状態でも、頭の中はまだ冷静みたいですね。
しかし、目の前の五人は全く冷静ではありませんでした。
嫡男と令嬢が、執事やならず者が放棄したナイフなどを手に取ったのです。
「「くそー!」」
ブオン!
そして、叫び声をあげながらナイフなどを僕たち目掛けて投げつけたのです。
すぐさま魔法障壁を展開したけど、この人は既に魔法障壁の前に出ていました。
「ふん!」
「「なっ!?」」
バキン、バキン!
王妃様が鉄扇でナイフを叩き落とすと、嫡男と令嬢は目玉が飛び出るくらい驚いていました。
あの、呆けているととても危ないですよ。
ザクッ、ザクッ!
「「ギャー!」」
王妃様が鉄扇で跳ね返したナイフが、嫡男と令嬢の左腕に突き刺さったのです。
ナイフを跳ね返した目標が右腕じゃない辺り、王妃様の優しさですね。
僕としては警備対象に前に出られては困るので、直ぐに王妃様の隣に移動します。
シャキン。
「死ね、小僧!」
今度は、デヨーク伯爵が剣を抜いて僕に斬り掛かってきたのです。
何で王妃様に斬りかからないのかなと思いつつ、直ぐに迎撃に入ります。
パシッ。
「えっ?」
僕がデヨーク伯爵の剣を白刃取りすると、デヨーク伯爵は自身の子どもたちと同じ様にかなりびっくりした表情を見せています。
本人としては全力で剣を振り下ろしたつもりらしいけど、レンちゃんの木剣よりも遅いですよ。
「ふん!」
ブオン、ゴスッ。
「ゲフッ……」
間髪入れずに、王妃様はデヨーク伯爵の鳩尾に拳を突き刺したのです。
わあ!
床に倒れたデヨーク伯爵の口から、キラキラが出ているよ。
取り敢えず生活魔法でキラキラを綺麗にすると、またしても愚かな行為をしたものが。
「くそー!」
僕たちに隙ができたのかと思ったのか、デヨーク伯爵夫人が両手でナイフを握りしめたまま王妃様目掛けて突っ込んできたのです。
目が血走って口から涎を垂らしながらの姿は、かなり異様ですね。
ガシッ、ブオン。
「ふん」
「へぁ?」
ドカン!
王妃様は全く油断しておらず、突っ込んで来るデヨーク伯爵夫人の威力を生かして執務室の壁を目掛けてぶん投げました。
デヨーク伯爵夫人は、悲鳴を上げることなく壁に激突して気絶していました。
「さて、残るはお主だけじゃのう」
「ぐぐっ……」
王妃様は、息も切れる事なくニヤリとしながら鉄扇をズバッと先代夫人に突きつけました。
一方で、先代夫人は袋小路に追い詰められたネズミ状態ですね。




