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聖女国家ステラ

 


 話はとんとん拍子に進み、私とウラヌス卿の婚約はあっという間に成立してしまった。

 当たり前のように私に拒否権はなく、両親への連絡も手紙で一報するのみとなった。


 そして私は大急ぎで身支度させられ、サザンクロス大聖堂を追い出される。

 現在は、ウラヌス卿とともに馬車に揺られている最中だ。



「…………」



 向かいに座っているウラヌス卿は、頬杖をついて私に視線を向けている。

 私なんかを見て何が楽しいのかわからないけど、その表情は穏やかで僅かに笑みを浮かべていた。

 ジロジロ見られているというのに、どういうワケか嫌な気持ちにならないのが不思議だ。



「……やはり美しい」


「えっ!?」



 唐突に、ウラヌス卿が信じられない言葉をつぶやく。

 美しい……? まさか、私が……?

 いやいやいや、それはない。

 だって私は平民で、貴族とは違って化粧なんてしていないし、肌や髪の手入れも聖水で洗うくらいしかしていない。

 格好だって支給品の修道服のままだし……って、服に関しては手持ちで一番まともなのがこの服だった。

 もしかしてウラヌス卿は、この修道服を見て美しいと言ったのだろうか?



(優し気な紳士に見えるけど、実は何か特殊な趣味をお持ちなのかしら……)



 見た目は全くそんな風には見えないけど、実はとんでもない変態という可能性もないワケじゃない。

 いや、私なんかを娶ろうとするのだから、むしろ変態である可能性の方が高いかもしれない。

 私は恐る恐る、ウラヌス卿のことを観察してみる。



(…………ダメ。男の人が何を考えているかなんて、私にはわからない……)



 私が人生で関わったことのある異性なんて、お父さん以外じゃ近所の子ども達くらいだ。

 その程度の人生経験では、仮にウラヌス卿に(よこしま)な本性があったとしても、見抜くことなんてできるハズもない。



「この馬車の乗り心地はどうだい?」


「っ!? ひゃ、ひゃい! しゅごく良いです!」



 悶々と悩んでいるところにいきなり声をかけられたので、声が裏返ってしまった。とても恥ずかしい……



「それは良かった。この馬車は隣国のグリールから取り寄せたものでね。バネというパーツで揺れを最小限に抑えているらしい」


「グリール、ですか……」



 軍事国家グリールは、聖女学校時代によく耳にした名前だ。

 自ら軍事国家を名乗るだけあって兵器開発を得意とし、様々な国に武器や戦力を提供している。

 この国のお得意様であり、同時によく似ている(・・・・・)と揶揄されることもある。



「ふむ、その表情から察するに、グリールに対しあまり良い印象は持っていないようだね」


「それは……、はい……」



 一瞬否定しようかと思ったけど、私は嘘をつくのが得意ではないので素直に白状することにした。



「あの国は武器を……、暴力を、世界中にばら撒いている国です……。この国、ステラとは正反対なのに、同じように扱われるのが、どうしても……」


「……君の言いたいことは理解するよ。しかし、聖女という力を世界中に提供している我が国も、他国にとっては同じように見えるんじゃないかな」



 この国――ステラは、他国からは聖女国家と呼ばれている。

 理由は簡単で、聖女はこの国からしか生まれないとされているからだ。

 その原因は解明されていないが、一説によると地脈が関係しているのだとか噂されている。


 この国の女児は回復魔術を発現しやすく、その成長の伸びが非常に良い。

 私もその才能を見込まれ、平民でありながら聖女学校に入学することとなった。

 より多くの聖女を生み出すため、聖女学校は才能があれば誰でも入れる仕組みになっているのだ。


 そうして生まれた聖女の多くは、他国に出荷(・・)されることになる。

 それが、ステラがグリールとよく似ていると言われる所以(ゆえん)だ。



「同じなんかじゃ……、ないです! 私たち聖女は、人々を癒すために存在するんですよ!? 癒しと暴力を同一視されたくありません!」


「しかし実際、聖女は戦場に駆り出されているだろう。戦場の癒し手が敵にとってどれ程脅威かは、君も習っているんじゃないか?」


「それは……」



 言い返したかったけど、言葉が出なかった。

 聖女学校では聖女の戦い方についても習っており、その脅威性を教師に散々聞かされていたからだ。



「ただの兵隊を、半ば不死身の兵士に変えることのできる聖女は、戦場においては悪魔に例えられることもある。これも暴力の一つのカタチと言えるんじゃないか?」


「そんなの……、聖女を扱う側の問題じゃないですか……。私たちの……、ステラの思想とはかけ離れた扱いですよ……」



 ステラの思想は、全ての病める人々、苦しむ人々に癒しを与えるという尊いものである。

 傷ついた兵士を癒すこと自体は否定しないが、それを盾に何度も戦場に立たせ、苦しめるというのは、あってはならないことだ。



「……残念ながら、この国は君が思うほど清廉ではないよ。いや、はっきり言おう。今のステラは、醜悪だ」


「っ!? な、なにを言うんです!? この国を支える貴族様が、言っていいことではありませんよ!?」



 しかもウラヌス卿は伯爵だ。

 この国の上流階級である方が、自分の国を悪く言うだなんて……、信じられない。



「私だって自分の国を悪く言いたくはないさ。しかし、事実この国は腐っているよ。聖女の扱いを見ればわかると言うものさ。証明もできる」



 そう言ってウラヌス卿はゆっくりと右腕を上げ、指先を私に突き付ける。



「君がその証明さ。……君は、売られたんだよ。私にね」





 ………………え?





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聖女になれなかった私は、冷酷伯爵家に売り飛ばされてしまった ~私、幸せになれるのでしょうか?~
― 新着の感想 ―
[一言] な、なんだってー!?
[一言]  平民出身の聖女を貴族世界に組み込むということかな?  それとも、ステータスとして貴族が欲しがるとか?
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