2-11 幌の中
「…んむ?」
ここはどこだ。
幌の中で荷物に囲まれている。
…そうだった。荷馬車に乗ってカランティーノの街へ向かっているんだった。
馬レンタルで爆走じゃなくて、こっちの方が目立たないんじゃない?って提案したんだった。
血の力もまだ貯まりきってないし、急ぐ必要無いって…
「!?」
段々意識がはっきりしてきて、やっと肩の重さに気が付いた。
リューの頭が肩に乗ってる。
デジャヴか?昨日もあったぞ!?
恐る恐る様子を伺うと、リューはあどけない顔でスヤスヤ寝ていた。
…かわいい。
なんだろう、時々母性本能をくすぐられる。
トラになったりリスになったり、本当にリューはどうなってるんだろう。
右手で頭をナデナデしようとして、リューに握られてるのに気が付いた。
左手でサラサラの暗赤色の髪を撫でる。
正直、色恋沙汰にはかなり疎い。
人を見る目はおばあちゃんにビシバシ育ててもらったが、それぐらいだ。
一度そういうのは勉強しなくていいの?とおばあちゃんに聞いたら、
『それを教えるのはあたしじゃないよ。先に知っちまったらつまんないだろう。』
と、よくわからないことを言ってニヤリと笑っていた。
だから余計わからない。
私とリューの今の関係は、一体何というのだろう。
好きだと言われた記憶もないし、恋人になったと言うには遠慮がある雰囲気だ。
と言っても手を繋いだり、その、昨日みたいに、ぎゅっとしてきたり…
琥珀のブレスレット、これは間違いなくリューの色だし。
これはあれか?友達以上恋人未満というやつか??
眠るリューの顔をじーっと見つめる。
あまり不誠実なことをする人には見えないんだけど。
そこで、はっと気が付いた。
もしかしたら。
私の知らない王子様的な理由があるのかもしれない。
立場のある人だ。
安易に確定した関係性は持てないのかもしれない。
大体、私はただの平民のルディアだ。
『リュー』と呼ぶのも恐れ多いのだから。
それに、サラディーニは通常夫婦は一人ずつだが、
まれに一夫多妻となる富豪もいる。
一夫多妻や多夫一妻も制度としては本人たちの合意があれば、認められているらしい。
そして、サラディーニの国王は、側室を持つことが多い。
現に、今のサラディーニの国王は、正室と側室が一人ずついる。
後宮もあるし、非公式の愛妾がいたって不思議はない。
手を付けた平民の女。
その行き着く先を考える。
私の常識が違うだけで、そういうものなのかもしれない。
サラサラした暗赤色の髪が指の間を通り抜ける。
第一、私自身この先どうしたらいいのか、結論など全く出ていないのだ。
好きです!と言うには良く分からない自分の気持ち。
そしてもし…リューと共にありたいと思ったとしても…私は王位継承権まで持つこの人の隣に居続けるという選択をするのだろうか。
そこには、他の女性もいるかもしれない。
そして私は、精霊の民だ。
外はだいぶ日が傾いてきている。
私はリューのことが、好きなんだろうか。
もう一度リューの方に目をやると、藍色の目とバッチリ目があった。
「百面相して、何考えてたの?」
「えっっ」
い、いつから起きてたんだろう…
「優しそうな顔したり、難しそうな顔したり、寂しそうな顔したり。」
「…寂しそう?」
「うん。」
リューが繋いでない方の手で、私がしたのと同じように私の髪を撫で、少し心配そうな顔で覗き込まれる。
「…何か悩んでる?」
「悩んでない…」
「…目が泳いでるよ」
「……」
リューにごまかしは全く効かないみたいだ。
正直どうしていいか分からない。
少し、今の状況を考える。
自分の気持ちをはっきりさせたらスッキリするのだろうか。
確かめるのならどうしたらいいんだろう。
そういえば、確か。
こういう人間関係のときは、素直になったほうがいいんじゃなかったっけ。
素直に伝えるなら、何を伝えよう。
暫く考えて、恐る恐るリューに投げかける。
「リュー、あのね、」
「うん。」
こちらを伺うリューは、優しさと心配さが滲んでいて、落ち着かない気持ちになる。
素直に…素直に?なっていいのかな?
またグルグルふわふわしてきた。
何が正解かよくわからないのだけど。
いいかな。いいよね。
「…髪の毛…」
「髪??」
私は繋いだ手をキュッと握って言った。
「も、もうちょっと撫でてほしい」
沈黙。
カタカタと荷馬車の音だけが響く。
何か間違っただろうか。
怖くてリューの顔が見れない。
「…その、ごめんなさ…」
ぽすっとリューの肩口に頭を抱き寄せられ、撫でられる。
やっぱり、ふわふわクラクラする。
でも。
なんだか幸せだなぁと思った。
カタカタと響いていた馬車の音が止まる。
「着いたぜー!兄ちゃんたち!」
「!!!」
ガバッと起き上がる。
わ、私は何をしてるー!!
慌てふためいていると、両のほっぺをムニュッと掴まれた。
「ふふ、変な顔」
「!?」
リューは私の頭をぽふぽふすると、出ていってしまった。
おじさんと何か話してる声が聞こえる。
私は恐る恐る、掴まれたほっぺたを触った。
すごく、熱くなってる気がする。
これは、困ったことになった。
さっき、私のほっぺたを掴んだリューの妙に嬉しそうな顔が、なんだか目に焼き付いて、離れない。
やたら輝いて感じるおかしな感覚に、私はうぐぅと変な声をあげて、両手で顔を覆った。
頬の熱はなかなか冷めなかった。
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