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ワシが何者かは分からんかったが、まあ、魔法の才能がありすぎるのじゃろう。やはりこの力は隠さねば。もう一度心の中で決意する。
「ではまず魔法を使うための呪文を覚えましょう。」
うへぇ、要らない情報を記憶するための隙間はワシの頭にはないぞ(訳、めんどくさいからやりたくない)。その気持ちが顔に出ていたらしい。
「レタア様、何ですかその顔は。呪文を覚えないと魔法が使えないんですよ? さあ、しっかり覚えて頂きますからね?」
ズモモ、と音が聞こえてきそうな迫力のある笑顔にワシはたじろぐ。
「じゅ、呪文ってどれくらいの長さなんですか?」
「これくらいです。」
パラ、と教科書らしき本を開いて見せてくれる。魔法の説明の下にぎっしりと小さく書かれた三行程の文字列が。……一つの魔法で三行!?
「うわぁ……」
めんどくさ……。顔が引き攣るのが自分でも分かった。
何度も言うが、要らない情報を記憶するための隙間はワシの頭には~(略)。
「ではまずはこの魔法の呪文ですが……」
それからみっちり三時間程、休憩も無しに呪文を頭に詰め込められた。しかしワシの頭は呪文を覚えられなかったのじゃ。
ひー、無理なのじゃ! 無詠唱で魔法を使えるのにわざわざ呪文を覚えるなど苦行ではないか!
ワシ、もう泣きそう。
「レタア様がここまで物覚えが悪いとは……」
先生の疲れた顔と声。じゃが仕方なかろう。
ワシは前世の頃から記憶力がない。新しい魔法のことしか覚えていられないのじゃから。歴史やマナーなどもほとんど覚えていられん。そういう体質じゃ。
魔法関係だとしても、記憶するのは無理じゃ。
前世で学校に行っていた時も、確か魔法関係と数学以外の授業はすっぽかしていたからの!
数学は覚えることもあるはあるが、答えを解き明かすもの。それが新たに魔法を作ることと似ていたから、そこまで苦ではなかったのじゃ。
まあ、そんな感じじゃったが、それでも卒業は出来た。
「これは死にものぐるいで覚えて頂かないと、私が何を言われるか……。それに、この世界は実力主義。実力がない者はこの世界で生きていけませんよ?」
「ひー!」
やっぱり無理じゃ!
一瞬本領発揮すれば呪文を覚えなくてもいいのではと考えたが、孤独はもううんざり。頭の中からその考えを振り切るためにぶんぶんと頭を振る。
そのワシの行動を先生がどう取ったかといえば。
「レタア様? 今日はこれまでにしておきますが、宿題としてこれを覚えておいてくださいね?」
ドン、と分厚い本が数冊机の上に乗る。
「こ、これを全部……?」
「全部です。」
「ワシには無理じゃ……」
絶望感でぽろりと涙が零れた。