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「ようこそ我がキール家へ!」
「歓迎しますわ。」
応接間に通されたワシらを待っていたのは二人。多分ミネルのご両親なのだろうことが分かった。
「お招きいただきありがとうございます。レタアと申します。」
「おっ、お招きいただきあ、ありがとうございますっ! え、えと、アルタですっ」
これでも六年程令嬢として過ごしてきたんじゃ。礼儀やマナーも教えられたのじゃが、まさかここで役立つとは思わなかったな。
あ、ワシも普通の喋り方が出来ると驚いているのじゃろう? ぐふふ、勉強の賜物じゃ。
アルタも吃りながらも挨拶したようじゃ。
「ああ、そんなに固くならなくていいよ。」
「そうですよ、ミネルヴァのお友達さんなのでしょう?」
「はい。」
「そうですね。」
「それなら歓迎しないわけがないじゃないですかっ!」
ミネルのお母様(仮)がきゃあっとはしゃぐ。娘に友達が出来たのがとても嬉しいらしいことが見て取れる。ワシの隣に座るミネルもどこか嬉しそうじゃ。
「ああ、自己紹介が遅れたね。私はキール伯爵家当主でありミネルヴァの父、グォンダ・キールだ。」
「ミネルヴァの母のニーナ・キールと申します。」
とても優しそうなご両親じゃ。ワシもこの前まではこんな風に家族の輪の中で笑っていたっけなぁ……
しみじみ思いふけっていると、ミネル父が話を切り出してきた。
「それでレタアさん。早速なんだけど、ミネルヴァの魔法の先生になってくれないかい?」
来た。だがワシで良いのじゃろうか。ワシは魔法の天才とまで呼ばれてはいたが、教えることに関して言えば無知の無知。上手くいくとはあまり思わんが……
「あんなにすごい魔法を扱う方にご教授頂ければ、きっとミネルヴァも魔法を扱えるようになると思うのです。」
あんなにすごい魔法……? しかし多分この二人が見たのはワシの伝達魔法じゃろう? 基本中の基本である(とイーニャお婆ちゃんが言っていた)伝達魔法を見て何故『すごい』という感想が出てくるのじゃろうか。うーむ、分からん。
「あらレタアさん、あの魔法のすごさを実感していらっしゃらないの?」
「ええ、まあ……」
「あらあらまあまあ!」
「ほぅ、そんなことあるんだね。……いいかい、レタアさん。伝達魔法というのは普通、手紙を鳥の形に変えることで相手に手紙を渡す、というものなのだよ。だから音声を伝えることが出来るあの魔法は高度中の高度なんだよ。」
「ほえー……」
字を書く時間が惜しかったから、前世の頃から伝達魔法は音声にしていたが……成る程、普通は手紙なのか。知らんかった。
「で、だ。ミネルヴァの教師になってくれないかい?」
「あ、ワシ……私は魔法は操れど、教えることはしたことがないのです。だから上手く行くかどうか……」
「頼む! 藁にもすがる思いで教師を探していたんだ! 前の教師には匙を投げられてしまってミネルヴァも落ち込み気味で……」
「人に教えたことのない人間でもいいのですか?」
「ああ!」
「……ワシ……私は他にも仕事をしていますので、毎日とはいかないかもしれませんが、それでもよろしいですか?」
「もちろん!……」
…………
……
それからは詳しい日程の調整などを話し合うのじゃった。




