22 ミネルヴァside
さて、オジョーサマらしく上品にお昼ご飯を食べ終えた私は自室へと戻る。午後はオベンキョーの時間だからだ。
私は前世の記憶があるから算数は楽勝。しかしこの世界に日本語は無いので国語は一から覚え直し、歴史も世界が違えば全く違うので覚え直し……と、あまり知識チートは無し。残念。
さてさて、まずは何の勉強だったかな。……あ、歴史だ。この世界には三千年もの歴史があるので、覚えることが多くてヒーヒー言いながら学んでいる所だ。地頭は前世の頃からそこまで良い訳ではなかったので、どうせ魔法チートも無いのなら記憶力の方にチートが欲しかったかな。
「さてミネルヴァお嬢様、今日学んでいただくのはあるお方のことでございます。」
「あるお方?」
「ええ。この世界の発展において特に重要な人物でございます。」
へぇ、そんなすごい人のことを学ぶのね。この時点でもう既に少し興味が湧いている。
「その名も『ラールル』でございます。」
「ラールル……さん。」
「ええ。この方はこの世界が誕生してから三千年のうちの三分の一、千年もの間を生き抜き、数々の魔法を作り出した『魔法の天才』です。未だにラールルを超える魔法使いは現れていません。」
「へぇ……。」
そんなすごい人がいたんだ。私は魔法が上手く使えないから、魔法を操れる人は尊敬に値する。レタアちゃんもそうだね。転生したとは言え私と同じ歳で魔法を操れるんだもの。後で教えてもらう口約束をしたので、有言実行しようかと思っている所だ。
「この方が新たに作った魔法が、今現在至る所で使われております。……まあ、あの方が生み出した魔法のほとんどは、私達には扱えない程高度な魔法でして、世間一般に定着した魔法は全体の一割にも満たないのですが。」
「ほぇ……」
何という壮大な話なんだ! あまりにも想像がつかない程の話をされてポカンと呆けてしまう。
「まあ、そんなラールルは天才が故に偏屈で森に引き篭もる変わり者でしたが。」
「へぇ……」
やっぱり天才ってどこか変わっているのかな。先生の話を聞く限りだとそうとしか思えないけれども。
「また、ラールルは魔法だけでなく体術などにも覚えがあったようで……」
「あるようで?」
そう言いかけて黙り込む先生。どこか顔色も悪い気がする。何か良くないことでもあるのかな?
「……この世界には魔物も存在するのはご存知ですよね?」
「は、はい。」
ん? 急に話が変わった? 話の方向が分からなくなり、先生に話の続きを促す。
「その魔物を纏め上げる存在、魔王。それとラールルは互角に渡り合える、と文献に残っています。」
「……そ、その魔王はどれくらいの強さなんですか?」
「……今生きている凄腕の魔法使いが束になってかかって勝てるかどうか、という程です。」
「ほぇ……」
「そして晩年のラールルはその魔王を封印した、とも文献に残っています。あ、そうそう、今その封印は解けていませんが、封印が風化してそろそろ解けてしまうのではないか、とも言われております。」
あ、ちょっと次元が違うわ。思っていたよりも凄い。遠い目をしているのを自覚出来る程だ。
「ミネルヴァお嬢様、お口が開いておりますよ。」
口もぽかんと開いていたらしい。慌てて閉じる。
もしそのラールルさんが生きていたら、私が魔法を使えない理由も分かったかもしれないのに。あーあ、どこかで生きてないかな……。
そんなことをぼんやり考えてしまった。




