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さすがに十人となると大変じゃからの、動体視力強化の魔法は保険的に掛けておこう。
「ちょちょちょ! レタアちゃん!? やめときなよ!」
アルタの焦った声が聞こえてきた気がするが、まあ、崖から落とそうとする人間の言うことなんて聞かなくていい。むしろ今のこの状況はアルタにとっていいものじゃなかろうか。自分で手を下さなくてもいいんじゃから。
「おりゃあああ!」
さて、右から飛び蹴りしてきたオッサンを後ろに下がって避けると、ワシに当たることなく通り過ぎていき、近くの木に激突していった。まずは一人。
ワシの後ろと前から攻撃しようとしているのに気がついたワシはしゃがむ。すると前後のオッサンがお互いを殴る、というなんとも言えない感じに。そしてお互い倒れる。よし、これで三人。
すると前後のオッサンが倒れた直後、上からオッサンが降ってきた。このままだと踏まれる。右には前後のオッサンが倒れているので左に転がって乗り切る。
「ちっ」
舌打ちしたぞこの降ってきたオッサン。そんな一発当たらないくらいで怒っているようでは駄目じゃな。ワシなんて宿敵(笑)とやり合う時は攻撃が当たらない確率の方が多いからの。カッカしても意味がない。むしろ怒りの感情に支配されて頭を上手く使えなくなるから駄目じゃな。まあ、これはワシの場合は、じゃが。
ワシは体勢を立て直して降ってきたオッサンと向かい合う。
「チビっこの癖にちょろちょろするんじゃねぇ!」
「いや、チビっこじゃからちょろちょろするのはおかしくはないと思うが?」
「うるせぇ!」
ああ、こいつはあまり強くはなさそうじゃな。それならさっさと……
「おっと」
降ってきたオッサンに気を取られて、他のオッサンに気が回らなかった。と言ってもちゃんと左に避けて、ワシの横を通り過ぎる時に一発殴って気絶させたが。よし、四人完了。
降ってきたオッサンが一番短気そうで五月蝿そうなので、スッと懐に入り込んで鳩尾に一発。一番最初のオッサンと同じ目に遭ってもらう。よし、これで五人。
さて、残り五人となったわけだが、ずっとワシの戦いを見ていたらしい。対策を考えるためじゃろう。ふむ、残った五人は頭も使うのか。
「お前さんの戦い方は素手でのようだからな、俺達は……こうする!」
そう言ってオッサン五人はスラッと剣を取り出した。
「武器を使うなとは言わなかったからな!」
勝ち誇ったようにオッサン達は叫ぶ。




