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宿に戻ってきて幾分かして、そろそろ夕飯の時間になった。帰ってきてすぐオルコットにベア肉を渡したので、きっと夕飯にベア肉をたんまり出してくれるに違いない。渡した時に『楽しみにしててくださいね!』とオルコットにも言われているし、実に楽しみじゃ。
食堂に向かうとちょうどオルコットが土鍋をテーブルに置いたところじゃった。ワシはワクワクしながら席に着き、オルコットが鍋の蓋を開ける……
「ふぉぉぉお……!」
蓋を開けた瞬間、ホカホカと土鍋から湯気が立ち上る。そして美味しそうなベア肉の香り! ワシの目は今これまでにない程輝いているのじゃろうな。それくらいドキドキワクワクじゃ! じゅるり……おおっといけないいけない。垂れた涎を拭く。
「お肉なんですけど……鍋にするには多すぎたので、他の料理にも使わせていただきました!」
「やったあ!」
いろんなベア肉を堪能出来るのじゃな!? それは嬉しいな!
オルコットは他の料理をどんどんテーブルに運ぶ。ズラリと並んだ料理の数々はどれも美味しそうじゃ。お鍋に焼肉、ベア汁、茹でベア肉……
「さ、温かいうちに食べちゃってくださいな!」
「はーい。いただきまーす!」
パクリ、ベア鍋を食べると、蕩けるようなお味じゃった。頬が落ちそうなくらい美味い……
「レタアさん。色々な料理を作りましたけど、それでもお肉が余ってしまったので食後に残った分をお渡ししますね!」
「む? オルコットに全部やるぞ。」
ワシではこんなに上手く調理出来んからの。前世の時から料理は苦手じゃ。……ん? では前世の時はどうしていたか、と?
そんなの、一年中実のなる木を家の前で育てて、それを採って飢えを凌いでいたに決まっておろう。あの時はあまり食べ物に執着しなかったのじゃが、今思えばもったいないことをしたと思っておる。美味しいものを探す旅なんかも絶対楽しかろう。今世ではそこら辺も試してみるのもいいかもしれん。
ズズズ、ベア汁を飲みながらオルコットの言葉に耳を傾ける。いい塩加減でうまうま。
「ええ!? でもこんなに高級なお肉……」
「いいんじゃよ。ワシが持っていても宝の持ち腐れ。それよりは料理出来る者に渡した方がいいじゃろう?」
「レタアさん……」
「で、毎食といかなくてもいいから、ちょこちょこベア肉を出してくれるとワシは嬉しいのじゃが。駄目かの? あ、あと他のお客さんにも出してくれてもいいぞ。」
「レタアさん、太っ腹ですね。」
「む、美味いもんは皆で食べた方が美味いじゃろうて。」
「確かにそうかもですね。」
「あとその肉にはワシが魔法を掛けておいたから腐る心配もしなくていい。」
ワシがそう言うとオルコットは眉を下げる。ん? 何故じゃ? 腐る心配をしなくていいのじゃからいいことじゃろう?
「……なんかレタアさんの人が良すぎてこっちが心配になってきますね。」
「む?」
人には優しくせねばならんのじゃろう? ワシ、何かおかしなことしたか? 首を傾げる。




