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「アルタ、大丈夫とはなんじゃ?」
ワシの疑問に、アルタは頭を掻きながら言いづらそうに口を開く。
「いやあ……魔力持ちとは言え、か弱いレタアちゃんのことがやっぱり心配で……返り討ちとか言ってるけど本当に出来るかとかも……」
ふむ、か弱い、か。ワシはそんなにか弱く見えるのか? うーむ、まだ(見た目は)十五程の子供じゃから仕方ない……のか?
自分の手を見てみるが、細長くて綺麗であることは分かった。これはか弱い手……かの? 分からんな。
前世の時は宿敵(笑)というか悪友(笑)のゴ、ゴ、……ゴルゴンゾーラだか言うやつとは互角に渡り合えたのじゃがの(こんな名前じゃったかは忘れたな)。今世ではあいつと関わり合いたくないが……
まあ、あいつのことは今どうでもいい。か弱い云々の話じゃったな。
「(前世ではゴルゴンゾーラと渡り合えるくらいじゃったが)もう少し体力的にも技術的にも底上げしておいた方がいいかの?」
「うん。今レタアちゃんがどれくらい動けるのか分からないけど、強くて損することはこの世界では無いと思うよ。」
「ふむ、なるほど。……グリン、警備の仕事は毎日ではないじゃろう?」
「はい。」
「ならば仕事が無い日は狩りに出ればいいな。」
よし、ここしばらくの動き方が決まった。魔法は十歳までに使えば使っただけ魔力量は増えるからの、魔法を使いまくろうではないか。そうすれば寿命二千年くらいの魔力量も現実的になるやもしれん。
「なんなら僕もついて行っちゃ駄目? なんかほっとけないよ。」
「む? アルタ、自衛は出来るのか?」
「もちろん! これでもギルド職員の中でも上位に入るくらい強いんだよ? 現役冒険者だった頃はAランクだったし。」
「おー、アルタはすごい人物じゃったのか。」
確か一番上はSランク。その一個下がAランクじゃった気がする。ということは上から二番目のランクではないか! 相当な強さなのじゃろう。
「うん! たまには動かないと体が鈍りそうだし。いいでしょ?」
「ワシは構わんぞ。」
「やった。……じゃあその間にレタアちゃんを落とさないと、だね。」
にぃ、と笑うアルタ。何か企んでいるかのような笑顔じゃが……
「む? ワシは(崖から)落とされるのか。」
「うん。(恋に)落としてみせるよ。」
崖から落としてどうしたいのじゃろうか。ふーむ、よく分からん。
「……遠慮しておく。だって痛いじゃろう。」
「……えーと、何の話?」
「(崖から落とされるなど)なるべく回避したいということじゃ!」
む、と頬を膨らませる。何の話、だなんてとぼけないで欲しい。落とされるこっちの身にもなれ、というものじゃ。回復魔法はあるにしても、怪我をする瞬間は痛いじゃろうが!
「もう、頬を膨らませちゃって……」
ぷす、とアルタに頬を突かれて空気が抜ける。むむ、何をする。ワシは怒ってるんじゃぞ!
「アルタ、レタアさんはきっと落とすという意味を理解してないわよ。」
「ええ!? それは落とし甲斐があるなぁ!」
な、なんかグリンがアルタのやる気を出してしまったようじゃ。ワクワク顔で落とし甲斐があるだなんて言い放ってしまったのじゃから。やばい、崖から落とされて殺される。
「ぐ、グリン、もう話は全て終わった、よな?」
「ええ。」
「じ、じゃあそろそろワシはこの辺で退散するとしよう! また明日な、グリン!」
命の危機を感じたので、アルタから逃げるようにギルドを出た。




