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ゆっくりコツリコツリと歩く音だけが響く。店内の薄暗さは店員さえも見えないようにしているのか? うーむ、何故だろう。分からん。
と、考えている間にある程度近くまで来た音の主は、しわしわな顔と手、白い髪、曲がった腰。いかにも婆さんと言わんばかりな見た目のお婆ちゃんじゃった。
「見ないってことは、旅の者かい?」
「ひよっこ新人冒険者レタアちゃんじゃ!」
「そうかい。わえはイーニャだよ。」
顔をくしゃりとさせて笑った。お、優しそうなお婆ちゃんじゃな。……あれ、名前、アーニャじゃないのか? 店名にはアーニャって……
「で、この店に何か用かい?」
「魔道具を見にきたのじゃ!」
「ふーん? 若いもんにわえの魔道具の良さが分かるってのかい?」
「もちろんじゃ。これは何に使うかは分からんが、術式も機械自体も繊細で、魔道具自体の形状に合致した術式を使っている、ということは分かる。」
まあ、毛が生えた程度の理解力なのでこれくらいしか分からんがな。
「ふーん、まあ、そうだねぇ。それは意識してるかねぇ。」
「じゃろう? ……で、ちなみにこれは何に使うんじゃ?」
ワシの質問にがっくりとずっこけるイーニャお婆ちゃん。
「ここまで分かっててそれは分からないのかい。……そうだねぇ、それはセンプウキってもんだよ。」
「センプウキ?」
「ああ。夏場にそれを使えば魔法が使えない人間でも風を吹かせて涼めるんだよ。」
「へぇ……」
そうなのか。ワシには到底思いつかない使い方じゃな。
暑い日に氷魔法を使って部屋の中全てを冷やす、くらいならワシもやったことはあるが。そうか、風を起こして涼むのか。なるほどなるほど。さすがに時代も進んでいるからか、発想が豊かじゃな。
「これから暑い時期になってくると、このセンプウキは特に売れるね。」
「ほう。」
「……買ってくかい?」
「いや。今日はどんな魔道具が売っているのか知りたくてだな……」
ワシのその言葉にグッと眉間に皺を寄せたイーニャお婆ちゃん。
「冷やかしならやめておくれ。さ、帰った帰った。」
先程までとは打って変わって嫌悪感満載なイーニャお婆ちゃんは、シッシッと手で払ってワシを店から追い出した。仕方ないのでワシは店を出る。
バタン、大きな音を立てて扉が閉まった。ワシはぽつんと店の前に立ち尽くす。
ううむ、うぃんどうしょっぴんぐ、なんて言う言葉を前世の時に辞書で見た記憶があった。じゃから見て回るだけでも良いかと思ったんじゃが……
冷やかしに見えてしまったか。ううむ、なかなか人とのやり取りをする機会が無かった故、どうすればいいか分からん。
「さて、戻ることも出来んし、どうしようか……」
くよくよしていてもいい事無いし、と次の行き先を考えることにした。
まだ宿に戻るには早い時間じゃからの。




