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おおう!? ワシが自分に掛けたものが魔法だとヒゲもじゃは見破ったのか!?
このヒゲもじゃ、只者でないな!
「お前さん、何者だ?」
「……それは、言わなければならないことなのか?」
「まあ、普通冒険者ってのは身元が分からない奴も多いからあまり聞かない質問だが、しかしお前さんが何重にも魔法を掛けられているのは異常だ。だから敢えて聞く。」
「ふむ。」
何重にも、か。ええと、ワシ自身に掛けている魔法は……といっても感知阻害魔法と幻影魔法だけじゃが?
「二つしか掛けていないが、それでも異常か?」
「何、自分で掛けているのか?」
「もちろんじゃ。」
「それなら余計に異常だな。常時自分に魔法を掛け続けるなど、いくら魔力があっても足りない。それをやってのける異常さは理解出来るか?」
「ふむ……?」
「……それは自分で魔法を解くことも出来るのか?」
「もちろんじゃ。自分で掛けたのじゃから。」
「……解いてみせてくれないか?」
「何故じゃ?」
「俺はここのボスだ。だからここのギルドに危害を加える奴かどうか見極めなければならない。」
「ふむ。なるほど、分かった。じゃあその前に、この部屋に魔法を掛けてもいいか?」
「危なくないか?」
「無害じゃよ。」
「じゃあ許可する。」
「では……」
ユアに話した時と同じように、部屋に防音魔法と感知阻害魔法を掛ける。
「じゃあ解くぞ。」
ふっと自分に掛けた二つの魔法を解く。あ、服がぶかぶかになってしまった。……まあいいか。
「何!? 幼子!?」
「ひよっこ新人レタアちゃん、ちなみに六歳じゃ!」
きゅるるん、幼児の可愛さを前面に出した笑顔を振りまく。危害を加えない者だと分かってもらうために。
「六歳児が魔法を無詠唱で、しかも一度に何種類も……それにこの魔力量は……。お前さん、本当に人間か?」
「酷いのじゃ! ワシは正真正銘の人間じゃ!」
なんなんじゃ、このヒゲもじゃは! 失礼にも程があるじゃろう!
頬を膨らませ、ぶんぶんと有り余った袖を振り回してヒゲもじゃに抗議する。
「百年生きてきて初めてだな、こんなことは……」
「ふん! 百年ぽっちで偉そうに言うな!」
「百年ぽっち……だと?」
「あ。」
しまった。ワシの感覚で喋ってしまった。ワシの中では百年など人生のうちの十分の一。じゃからぽっちと言ってしまった。
しかし魔力を持つ人間は平均百五十年程で死んでしまうのを忘れておった。そう考えるとヒゲもじゃは平均寿命の半分以上は過ぎているのじゃな。ぽっちではないな。
「お前さん……人間じゃないな?」
ヒゲもじゃの目は鋭くなる。




