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「ああああなたは何者ですかぁ!? 見たことない方ですよねぇぇ!?」
担当の人は賑やかな人なのじゃな……。少し煩いとは思うが、まあ、この人の性質なのじゃろう。あまり口出さないでおくとするか。それよりまずは返事せねば。
「ただのひよっこ新人レタアちゃんじゃっ!」
ニッコリ、ワシが今出来る最高の笑顔でそう答える。
「新人……? 新人がビッグベアを……?」
あれ、ワシの可愛さが伝わっていないようじゃ。それ以上に混乱しているように見える。……混乱? 何に混乱しているんじゃ?
「そのなんとかベアってなんかあるのか?」
「なんかも何もありません! ひよっこの新人が相手して勝てる強さではないんですよ! ビッグベアはAランクの魔物ですよ!? パンチ力とか半端なくて、一撃でも受けると死ぬとまで言われてるんです!!」
「ふーむ?」
一瞬で倒したが? ……まあ、倒したと言ってもただ全ての血を抜いただけじゃが。血を抜けば酸素が身体中に行き渡らずに死んでいく、ただそれだけ。それの何がおかしい?
「それに無傷ってどういうことですか!?」
「じゃから普通に全部の血を抜いただけじゃよ。」
「普通とは一体……? ち、ちちちちょっと待ってて頂けませんか?」
「うん? いいが……?」
「ありがとうございますすすすす」
バタン、と慌てた様子で担当の人は部屋の外へ出て行った。何を慌てていたのじゃろうか。うーむ、分からん。ハテナが頭の上で渋滞しているのぅ……
「ここここちらへ来て頂けませんか?」
「うむ、分かったのじゃ……?」
あれから数分でどこかから戻ってきた担当の人は怯えながらワシをどこかに案内し始めた。……ワシ、怯えられること、何かしたかの?
そんでもってワシはこれからどこに行くのやら? と首を傾げながら歩く。
結果から言えば辿り着いたのはこの建物の最上階じゃった。階段じゃったから少し疲れた。
しかし……ここに来てからわけ分からんことだらけじゃな。一体全体何があったと言うのじゃ。
「長、件の方をお呼びしました。」
「入れ。」
長? 偉い人か。何故ワシは偉い人の所に来たんだ?
……まあいい、取り敢えず入れと言われたからには入らねばじゃな。
「失礼します、なのじゃ。」
部屋に入ると、目の前には対面ソファとテーブル、そしてその奥には大きな机が一つ置いてあった。
そこに座るごっついオッサンが一人、この部屋に既にいた。髭がもじゃもじゃしているし、ヒゲもじゃと仮の名前を与えよう。そのヒゲもじゃは机の上で手を組んで顎を乗せていた。人を殺せそうなくらい目が鋭いが……まあ、ワシの敵ではないの。
「まあ、座れ。」
「はーい。」
言われた通りソファにぽすりと座ると、その質の良さをお尻が感じ取った。おお、これはとても座り心地が良い! しばらく座っていたいのぅ!
そんなワシのウキウキ気分を察したのか、対面のソファに座ったヒゲもじゃはごほんと咳払いをした。
「さて、単刀直入に聞くが、お前さんは何者だ?」
「何者……冒険者ひよっこ新人のレタアちゃんじゃ。」
「ふむ、言わないつもりか。」
「何をじゃ?」
「お前さん、自分に掛けられた魔法についてはどう説明する?」
まさかそれについて聞かれるとは……驚きすぎてワシは言葉を発することが出来んかった。




