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路地裏に入り、人が見ていないことを確認する。
さて、とまずは存在消し魔法を掛ける。これで誰にも見えない。さらに近くに人間がいないか探知魔法を使ってみると誰もいないことが分かる。よし、オーケーじゃな。
周りを警戒しながら先程買った服にささっと着替える。ぶかぶかなそれだが、次に掛ける魔法でぴったりになるじゃろう。
次にワシは幻影魔法を自分に使って十五、六歳頃のワシ(のイメージ像)を作り出す。おお、こう使えばワシ自身の目線も高くなるのぅ。どこからどう見ても幼児ではなく若者じゃな!
「よし!」
あ、声も少し大人びたものに変えた方がいいじゃろうか。今の声はやはり年相応のたどたどしさがあるからの。
ええと、何の魔法を使えばいいか……
「……いい魔法を思い出せん。」
記憶力の無さがここで出てしまった。ううむ。
仕方ない。ワシの年寄りじみた口調でプラマイゼロ……ということにしておこう。うん。
くるりとその場で回ってみると、フレアワンピースがふわりと舞う。うん、これにして良かったのぅ! 気分も上がる。
さて、と存在消し魔法を解き、路地裏を出る。
「きゃー!」
その時声が聞こえてきた。ん? なんじゃ?
声がした方を見るとでかい熊のようなものがいた。そして声の主は多分熊の前でへたり込んだ女の人じゃろう。
熊は今にも女の人に襲いかかろうとしていた。
「ふむ、このまま見過ごすことは出来んの。」
もしかしたら素材として売れるかもしれんしのぅ、あまり傷は付けたくない。なら……
「前世でもよく使ったあれを……」
瞬間移動の魔法を応用して、あの熊の血を一気に抜く。するとバタリと熊は倒れた。
はいいが……あー、抜き取ってワシの手の上でふわふわ浮いているこの血はどうするか……。
売れるものかの? まあ要らなければどっかに捨てればいいか。深く考えることを放棄した。
さて、ワシが今持っている斜めがけ鞄(の中に収納魔法を掛けたので無限に収納出来る優れもの)に熊を入れる。
これで幾らぐらいになるかの? 実に楽しみじゃ。
ほくほく顔でまた歩き出そうとした時、女の人の声が聞こえてきた。
「あ、あなた様が倒してくださったんですね! ありがとうございますっ!」
声の主は熊の前にいた女の人じゃった。しかしこちらを見て拝んできて……拝んできた? 何故?
「ん? ああ。……この熊、貰ってくぞ?」
それだけは譲れん。
「はい! もちろん! ……あ、それよりお礼をさせてください!」
「要らん。ワシはこの熊が目当てじゃったからの。」
「そう言わずに!」
なかなか引かない女の人。ふむ、ならば頼み事をした方が穏便に済ませられるかの。
「……ならば、二つ。安くて良い宿と、信頼出来る質屋を教えてくれ。ここら辺には疎くての。」
「はいっ! なら私が経営する宿屋なんていかがでしょう! お安くします! 命の恩人ですから!」
「なぬ! それは良いことを聞いた!」
今のワシにとって安く済むならなんぼでも安くしておきたい。
「後は質屋ですよね。それなら……」
女の人は親切に教えてくれた。




