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「レタア、やっと来たのね? 随分ゆっくりだったわね?」
「グリタリア、仕方ないよ。レタアは寝不足なんだし。」
一番早く教室を出て行っていたグリタリアには遅いと言われ、二番目のユーリには寝不足だったことをまた掘り返された。
うう、言葉が刺々しくてワシ、心が痛い。泣きそう。自業自得だけど。
「まあ、レタアイジメもこれくらいにして。で、どうしたのさ? レタアが悩むなんて魔法のことしかないのは知っているけどさ。」
「何故魔法のことだと分かった……?」
「そりゃあ、レタアって魔法のことしか頭に無いし。すぐ分かるよ。」
「そんなに分かりやすい、か?」
「まあね。で、何かアタシ達に出来ることはない?」
「ユーリ、レタアが悩むくらいなら、私達が助けられるとは思えませんわよ?」
「あー、それもそうかー……」
「あ、いや、ただ、連休明けのテストってどんなモンなんだろうか、と思って。」
別に隠すことでもないし、と正直に話すと、情報通のユーリは何だそんなことか、と笑って教えてくれた。
ユーリの説明はこうだ。
・テストは連休中怠惰に過ごさないためのものである
・テストという名目上、学年ごとに順位が付けられる
・順位の変動によっては席順が変わる
・しかし魔力量も順位に関係してくるため、席順が変わった前例はない
とのこと。
なるほど、確かにワシらが十歳未満だったら連休中に魔法を使いまくって魔力を高め、席順を変動させることも可能だったかもしれない。
だが、ワシらは魔力が増幅しないとされている十歳というリミットを超えている。それが前例ナシに繋がっているのだろう。
とは言え、ワシらはソレに抗うように訓練を続けてきた。だからテストの結果にどう出るか、少しワクワクしているのも事実で。
まだまだ色々と考え工夫する余地はあるが、このテストが一つの結論になるだろうことも理解した。
「ふむ、それならそのテストの結果によっては、クラスメイト達を驚かせることができるってことだな。俄然やる気が出てきた。」
「あ、そっか。そういう考え方もできるのか!」
「ただ、ギリギリ窓側に入らなかった子がどれくらいの魔力量を保有しているかにもよりそうね?」
「あー、そこまで見通してクラスメイトの魔力量を測っておけば良かったのか……」
もう明日から連休ということを考えると、惜しいことをしたと舌を打つ。
「あ、いや、今回席順が変わらなかったとしても、レタアが『魔力量が増えた』って言ってくれるだけでもアタシ達は嬉しいし。」
「そうね。」
ユーリもグリタリアも欲がない。ワシがちょっと感知魔法を使って魔力量が増えたと言っただけで嬉しいだなんて。
……ああ、いや、違うのか。魔力量が少ないことで周りの大人から心無い言葉をぶつけられ続けてきたから、なのかもしれない。
そう思い至れば、年上のワシが皆を甘やかしてやらなければ、だなんて偽善感にすら包まれる気がした。




