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リィコのことについて話し合う、とは言ったが……まあ、すぐに行き詰まるのは目に見えていた。
魔法の天才であるワシですらリィコの家系に掛かる呪い──便宜上そう定義しておくことにした──がどういう理屈でそうなっているのかが皆目見当もつかないからだ。
頭を突き合わせて皆でウンウン唸っている間にも日が落ちてきていて、この日は方向性も何も思いつくものではなかった。
そろそろ夕飯だから、と寮に戻る皆と別れたワシは一人、小屋に残ってウンウン頭を働かせていく。
「リィコは魔法を使っていない。それはワシの目から見ても明らかだ。魔法を使う時特有の魔力の流れが見えないから。」
高魔力持ちなら皆見える類いの魔力がリィコからは感じられないのだ。もしかしたらワシらよりも良い目を持つディエゴやオリウェンドならまた違った見え方をするのだろうか?
「だが魔法や魔力を可視化するための感知魔法を使えば消えたリィコの姿を見ることが出来る。それなら魔法や魔力が理由で呪いは引き起こされている?」
しかし魔法を使った形跡は見えないから魔法とは言い切れない。だが感知魔法で知覚できる。でも魔法とは言い切れない。
「うがぁーー! 堂々巡り!!!」
頭を抱えて地団駄を踏み暴れてみるが、まあ、何も現実は変わらないわけで。数分ジタバタして疲れたワシは小屋にあるベッドにボフリと横たわった。
「こんな時は……魔法を作るに限る。」
よし、現実逃避しよう。……ああ、いや、良いように言い換えればいいんだ。そう、これは息抜きだ、息抜き。そういうことにしておこう。
あれから一晩、寝ずに阻害魔法を改良していた。これも近々やりたいと思っていたからな、ちょうどよかったと思おう。
アレの難点は『阻害魔法を使った時の魔力が他に漏れ出る』こと。そこをチョチョーイと直してもう一度魔法を組み立てたのだ。
出来たー、と達成感に満ち満ちている時には日は昇り、徹夜の目に滲みた。
「いてて……」
魔法を作って満足したことで一度冷静になり、ハッとあのことに気がついた。
「徹夜したことがユーリにバレたら、怒られるっ!」
ユーリはワシのお母さんのようにやれ『背が伸びないから寝ろ』だの『体にも悪いから寝ろ』だの言われ続けていたからな、このワシですらあの剣幕は忘れられない。
……まあ、今の今まで忘れていたのだが。それはまあ、ええと、見なかったフリじゃ。
それよりも寝ていないことを誤魔化す魔法はなかったか、と徹夜ハイになりながら頭の中の引き出しを漁る。といってもどんなに頑張ってもそんな魔法を作った記憶は無かった。必要を感じなかったからなぁ……
「うがぁーーー! 阻害魔法の前に徹夜を誤魔化す魔法を先に作るんだったぁーーー!」
それを作って使ったのがバレたらまた一悶着ありそうだが、それも見なかったフリ見なかったフリ。
さて、徹夜してしまった事実はもう巻き戻せない。どう誤魔化してユーリから怒られるのを回避するか。目下最大の問題に直面することになった。




