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「出来上がった新しい魔法は紙面で渡されていたらしく、それを読み解くことから呪文作成は始まるらしいです。」
──碌に魔法について教えられることなく。
そんな嫌味ったらしい言葉まで聞いて、ワシの行動との齟齬を感じ取った。
というのも、ワシは魔法を取りに来た者には魔法の詳細を毎回伝えていたからだ。なのにこの人は『魔法について教えられることはなかった』と言う。
この行き違いのような現象に、薄寒いものを感じずにはいられなかった。
「……言いたいことは幾つかあるが、ええと、そして読み解いた魔法からどうやって呪文を……?」
「ええ、それは学園にある感知魔法が組み込まれた魔道具を使用し、魔法が反応した発音を並べていく、という作業を続け、やがて呪文は完成されます。」
またあれかー。随分あの魔道具が重宝されているものだ。もしあれがなくなったら、この国は生きていけないのでは?だなんて邪推もしてみた。それくらい色々な場面で出てくる。
だが、そうか。魔法の詳細を加味せずにあの感知魔法を頼みの綱にしているからこそ、魔力的に無駄の多い呪文が出来上がったのだろう。
「ふむ……」
それならワシにも呪文の作成ができそうじゃな。指で顎を二度三度さすりながら、これからのことに思いを馳せる。
「で、そろそろ儂にも教えていただけはしませんかね、魔術師団長殿。何故この若いのに呪文について教えろと仰ったのか。」
そしてベルキさんは不自然なこの場について聞きたがった。まあ、それはそうだわな。
だがどうしよう、何も言い訳とか考えてなかった。何せ第三者を呼んで教授するだなんてことすらワシは知らなかったんだもの。
内心アタフタしていると、ディエゴは動揺のカケラも見せずにスラスラとありもしない言い訳を述べ始めた。
「ああ、それならほら、あなたも魔術師団を引退されて、呪文について知る人間が絶えてしまうのは本意ではないと思いましてね。この方は若くして魔法に長けた方ですから、呪文について継承するに相応しい、と私が判断いたしました。」
それでは不足ですか? そう聞き返すディエゴ。おお、さすが魔術師団長。確かにその言い分には説得力がある。何も疑問に思わないだろう。
「いや、説明としては充分だろう。しかし何故わざわざ見知らぬ若いものを起用したのかが不思議でならんのです。」
「見知らぬ、ではありませんよ。この間の魔物討伐で問題解決に一役買ったのがこの方ですから。」
「ほう、それを早く言いなさい。そうとも知らず無礼な態度を……申し訳ない。」
「え、あ、はい……?」
二人で勝手に話が進んで、ベルキさんに頭を下げられた。思わず『何があった?』と言わんばかりな返事をしてしまったではないか。
でもまあ、嫌われてはいなさそうだから良いか! そう思うことにした。難しいことを考えるのは苦手なんだもの。




