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お泊まり会を楽しんだ翌日。この日も休日だったが、レタアは約束という名の報酬を受け取りに行った。
「ディエゴ、来たぞー。」
指定された場所、魔術師団長の執務室にまでテコテコ足を運び扉をノックすると、中から気の抜けた『どうぞ〜』という返事が聞こえてきた。
「お邪魔しま〜す。……あ、今日は前より整頓されているんだな。」
「まあ、魔物の一件はレタアさんが片付けてしまわれましたからね。一般の方々を混乱させないためにその情報は表に出さないとしても、あとは既に活性化した魔物を狩っていけばいずれ落ち着きを見せるでしょうから。」
ディエゴはそう言いながらワシに席を勧め、お茶をも出してくれた。それを飲みながらワシはまた話を続ける。
「あれ以降で活性化した魔物が新たに出現したりはしていないか?」
「ええ、おそらくは。」
ここら一体に広がっている魔物の総数を逐一正確に把握するなんて相当難しいことだ。この国の道に落ちている石ころの総数を把握するようなものだからな。
だからこその曖昧な返答だが、調査している分ではそうなっていない、ということなのだろう。
「また困ったことがあれば言えば良い。ワシの力は有用だからな。」
「……ありがとうございます。しかし以前も申し上げましたが、あまり自分を安売りしないで頂きたい。ラールルの時の環境はハッキリ言って劣悪です。それを普通だと思わないでください。」
「あ、ああ、わ、分かっている……多分。」
やべ、ディエゴが怒った。長年に渡って培われた癖みたいなもの──ディエゴ曰く自分の安売り──を矯正するのはなかなかに難しいもので、言ってから後悔しタジタジになってしまう。
「……まあ、一度や二度言ったところで考え方が変わるとは思えませんからね。何せその思考回路へと歪ませられてウン百年経っていらっしゃいますし。」
ハア……と溜息を吐いて眉間を揉むディエゴ。その様子にワシは気押されるが、長々言う意味もありませんし、とディエゴがため息一つで話を変えてくれた。
「で、肝心の報酬、でしたよね。それのことなんですが、私では力不足なので助っ人を呼びました。もうすぐ来ると思います。」
ディエゴがそう言った時、ちょうどコンコンとドアをノックする音が聞こえた。きっと件の助っ人だろう。
「ベルキです。」
「ああ、入ってくれ。」
ワシ以外の人間相手だからだろうか、ディエゴはパッと威厳のある雰囲気へと変わっていた。
それを見てさすが魔術師団長だな、だなんて緊張感のない感想ばかりが頭をよぎる。だってワシの前ではそんな威厳も何も無……ゲフンゲフン、なんでもない。
「失礼します。」
そう言って部屋に入ってきたのは、結構お年を召した──勿論ワシほどではないが。一般的な人間としては、だ──お爺さんだった。




