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「じゃあじゃあ、ラールルの学生時代の話が聞きたい! 歴史の資料を漁ってもそれは載ってないから!」
「そ、そうじゃな……」
それは聞いてみたい、と他の皆もガウディロの質問に同調した。キラキラとした四対の目がワシを射抜くが、どうしたものかとワシは内心頭を悩ませる。
何せ碌なエピソードが無いからだ。人目が気になってこの小屋に半引きこもりよろしく閉じこもっていたのだからな。
「ええと、そうじゃな……。何が聞きたい?」
「はい!」
「はいユーリさん!」
挙手したユーリを指名すると、興味津々な表情で聞いてきた。
「ラールル研究棟爆破伝説について聞きたい! 研究棟に入る学年以上の人達の間で語り継がれているらしくて!」
「なんじゃその酷い伝説は!! ……あ、いや、確かに研究棟を爆破したことはあったような……なかったよ……いや、あったな。それのことか?」
随分と酷い伝説が語り継がれているようだ。そんな汚名を着せられるだなんて冤罪だ、と一瞬憤慨しかけたが、よくよく思い出せばそんなこともあったような、と淡い記憶が蘇る。
「ラールルは防御魔法で守られている研究棟を魔法でぶっ壊した、としか語り継がれてなくて。他にも色々あったけど真実味を帯びているのはそれくらいで……ね。」
ユーリの情報に、ワシ以外の一同が背中に宇宙を背負う。防御魔法を壊す魔法って、何……?と。
「いや、あれは弁明するなら、防御魔法が脆かっただけなのじゃ! ワシが作った魔法が暴走したのはワシの落ち度だが、初めて作った魔法がまさか暴発するなんて誰も思わないのじゃ!」
何せ初めて作った魔法は、たびたび出てくる『鍵魔法』なのだ。まさか鍵をするだけの魔法が爆発するなんて夢にも思わないだろうに!
そう言い訳がましくペラペラと喋り続けたが、皆ボーッと意識を遥か彼方に飛ばしていたためあまり意味がなかったのは余談だ。
「レタアさん、当時の防御魔法ってそんなにレベルが低かったの?」
「うむ! その一件からしばらくして、防御魔法をワシが新たに作ったからな! 数倍は良くなっているはずじゃ!」
ここでもう一つ余談。レタアが作った防御魔法は高精度過ぎて対応する呪文が作れず、レタア……ラールル自らが掛けた魔法しか機能していない。
今現在巷で使われているのは、ラールルがぶっ壊した防御魔法のままなのだ。しかしその事実を知る者はここにはいないし、確認のしようがない。
「学生で……魔法の作成……?」
「ボウギョマホウ、モロイ……?」
ガウディロは非現実的すぎる話に頭を痛め、グリタリアは防御魔法を壊すイメージが持てずカタコトで単語を発し、ニイナは頭にハテナを浮かべ考えることを放棄したようだった。
一方、質問主のユーリは新たな情報を仕入れられたとホクホク顔だ。それも尾鰭がついた噂ではなく、本人から齎された事実だったから。
それからしばらくの間、ラールルの珍事件話は続いた。
ユーリは一人だけ楽しそうにし、他の皆は非現実的な情報を捌くしかできていなかったようだった。




