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「もー、全部ワシのせい、みたいな言い方、酷いぞ!」
プンプン、と怒ったように頬を膨らましてみるが、皆の反応はいいものではなかった。
「いや、実際色々あったときの中心人物って大抵レタアだものね。」
「ね」
「ぷん、もういいっ! とりあえず目の前のこと片付けてからもう一度反論してやる!」
そう言い残してからシュン、と一人転移する。その先は現在地からほぼ真反対の場所、研究棟。
今日は休日だし、人も碌にいないだろうと踏んだ場所選びだ。その思惑は見事当たったようで、人の気配が全くしなかった。
「よし、ここならいいだろう。」
で、なんの魔法を使えばいいだろうか。目的もなく魔法を使うことなどなかったが故に迷ってしまう。
ちっぽけな魔法だと多分気付いてもらえないだろうと踏み、難しいとされている感知魔法をこの塔に向けて意味なく使った。
「む、誰かいたのか。気が付かなかったな。」
魔法を使ったワシは魔力の反応を僅かに感じ取った。といってもそれは一人、それもそこまで魔力は多くない部類の人物のもの。
まあ、この学園で仲良くしている人間は今現在森の中にしかいないので、必然的にそれは見知らぬ誰か、ということになるのだが。まあそれは置いておいていいだろう。ワシと前向きに関わろうとする人間なんて稀少だろうし。
さて、話は戻るが魔法を使ったまでは良かったのだが……ここにオリウェンドが来るまで待っていれば良いのか? それとももう戻っても良いものか?
そんなどうでも良い疑問が湧きかけたが、どうせここにいても身にならないと分かりきっているので早々に戻るとしよう。転移魔法を使ってワシの小屋の中に移動する。
転移した先で、今ここから出て行っても良いかと小屋の外の気配を辿ってみる。すると先程よりも一人分少ない人の気配が感じられた。むむむ、オリウェンドとディエゴのどちらがここから去ったのだろうか。魔法を使わないで識別する術もなく、ほとほと困り果ててしまった。
しかしここで二の足を踏んでいても無駄に時間が過ぎるだけ。何か良い案がないかと無い頭を巡らせていると、ここに残った一人の気配がこちらに近付いてきたらしかった。
「レタアさん、そろそろ出てきてくださっても良いのでは?」
コンコンと戸を叩かれ、その向こうから聞こえてきたのはディエゴの声。ここに残ったのはオリウェンドでは無かったか、と安堵の息を吐き、ワシはその戸を開いた。その先にいたのは予想通りの彼。
「ディエゴか、良くワシがここに転移したことに気がついたな。」
「そりゃあ、息子より魔力を見る目は鋭いですから。微かな魔力をここで察知しました。」
「流石だな。」
年の功というやつだろう。まあ、魔術師団長ともあろう人が子供に負ける筈もないか、と納得することにした。




