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「実際の魔力を誰にも見せないために魔法を掛けていたのか……すごいっす!」
「まあ、ワシのことは置いておいて良い。それより、これ以上進むとなると隣国に入らなければならない。さて、どうするか……だな。何かいい案でも無いか?」
「師匠、何言ってるんですか? 五百年前の戦争で我が国は隣国サルベーノを吸収したじゃないですか! なので取り敢えずここら辺で言えば向こうの魔王城がある辺りまでは我が国です。」
「なっ!?」
そういえば五百年前と言えばワシが一度死んだ時に合致するか。ということはその後すぐに起きたと歴史書にも書かれていたアレで……
「……? 変な師匠。歴史を習った時に絶対覚えさせられるくらい有名な出来事でしょうに。」
「あ、ああ。思い出した。そうか、その時の……」
ワシの不甲斐なさが招いた事件故に、どうも暗い感情が胸を占める。今度は間違えないようにしなければ、そんな思いも共に。
ああ、いや、今はこんなこと考えている暇はない。
「そうだ、オリウェンド。気分は悪くないか? ここには空気にも魔力が満ちているからな、」
「あ、いえ、だだだ大丈夫です……」
「嘘は付かなくていいからな?」
「……えと、目が……魔力、見えすぎて……気持ち悪いです。」
「そうだよな。見えすぎるほど満ちているからな。」
でもそれならどうするか。辛いなら無理にこれ以上連れて行きたくはない。が、だからといってここに放置する選択肢もないし、一度戻るのも時間のロスだ。
それなら……?
「ふむ……あ、そうだ。」
魔力が見えすぎて辛いと言うのなら、少し試してみるのも良いかもしれない。一つ良い案が頭に浮かんだ。
「少しいじってもいいか?」
「……何を?」
「その目を。先程までワシ自身に掛けていた感知阻害魔法を掛けてみてもいいか?」
「は、はあ……まあ、良いですけど。」
「よし、じゃあ……」
オリウェンドの目に手を翳し、その魔法を彼の目に掛ける。そしてその手を離し、どうだと聞くとオリウェンドは驚いたような表情を見せた。
「わあ……! 随分楽になりました! でもここの魔物達は相当魔力を持っているからか、そっちの魔力は見えます! これなら役立たずにならなくて済みそうです!」
「そんなに気にしなくても良いのに。」
「いや、レット師匠にばかり負担を掛けたくないんです! ……まだ力不足ではあるとは思いますけど……」
「そんなことはない。ワシはどうも記憶力が無くてな。オリウェンドは知識も豊富だし魔力を見れるし、充分役に立っているぞ?」
「そ、そう……です、か……ありがとうございます……」
「ん。じゃあ引き続きよろしくな。」
「はいっ!」
さて、ここよりも向こうに行くとなると、もう魔王城しか無いんだよな。ということはそこが発生源……?
「まあいいか。もっと進んで行こう!」
「はいっ!」
もう一度ここよりも魔力が多い場所を目指して転移する。
すると目の前にあったのはやはり件の魔王城だった。
「やっぱり、ここ……だよな。」
「ですね。ここが一番凄まじいです。師匠に魔法を掛けてもらって尚、空気中に魔力が薄ぼんやり見えます! それに見回してみた感じだと、ここが最高潮みたいです!」
「ふむ、そうか。……しかしここに住む魔王は封じられていなかったか?」
「はい、そのはずです。」
「……」
「師匠?」
ここの主はワシが生きていた頃、鍵魔法を使って閉じ込めたことがあったような無かったような。
「いや、何でもない。じゃあ乗り込むか。」
「え、ちょ、待っ!?」
「ん? どうした?」
オリウェンドはワシを止める。む? 何だそんなに焦って。
「そんな丸腰で入って良い場所では無いじゃないですか! 魔王が封じられているとはいえ、それ以外の魔物達は今まで以上に強いし、そもそも魔王が復活でもしていたら俺達生きて帰れませんよね!?」
「あ、最後のそれはない。」
「何故そう言い切れるんですか!」
「いや、だってあいつの封印?が解けて自由に動けるとしたら、もう既にお出まししているはずじゃからな。」
「は!?」
オリウェンドは意味が分からないと言うように聞き返す。うむ、そんな反応になるわな。ワシも目を逸らしたい事実だからなぁ……。何と説明すべきか。
ウンウンと頭を捻るのだった。




