5-54 討伐隊員Q
俺は魔術師軍所属の討伐隊員Q、今年魔術師軍に配属された新人でもある。所謂モブ、とか言われるような奴だ。細かいことは気にしなくて良い。
ただ、今回の討伐に参加する名誉を得るために今まで血の滲むような努力を積み上げてきたプライドはある、とだけは言っておきたい。魔術師軍の志願倍率も、求められる実力も、高すぎるからな。
さてさてそんな俺のことはどうでもいい。それよりも大事なのは今回特別参加したというレットとか言う男のことだ。
そいつはなんか見ていて変な感じがする。気持ち悪いというか……。とにかく変なのだ。
それが何故か考えてみると、俺の中で二つの結論に達した。
まず一つ目、レットと呼ばれる奴には何かしらの魔法が纏わり付いていること。魔力がある程度ある奴なら大抵見えているだろうそれが、もはや呪いのようにしか見えず、なんかこうしっくり来ない。さらに言えば呪いを掛けられるような人間がのうのうとこの場所にいることにも納得できないとも思う。
そして二つ目、魔法の援護をメインに、だなんて宣いやがったんだ。俺達魔術師軍を軽んじているようにしか聞こえない。
というのも、そもそも魔術師軍は他の部署よりも魔法適正がある人間しか配属されないという事実がある。そんな俺達に向かって魔法の援護、だぞ? 他の奴らも良い気分ではないらしいことはその表情から窺い知れた。
しかし魔術師団長様から紹介されたということもあり、誰もがおおっぴろげに不満など言えるはずもなく。悪い雰囲気のまま討伐は始まることとなる。
今回の討伐では人間の居住地と森とを隔てる壁の付近まで向かう。ただ、そこまで行くには通常馬車でさえも数週間かかる。
ということで魔術師団長が補助的な魔道具を用いた転移魔法を駆使することになったようだ。俺はなかなか出来ない経験だな、と何とかテンションを上げようと試みた。
その時もレットとか言う奴と魔術師団長は揉めていたようだが、何が不満なのやら。いちいち行動が五月蝿くて嫌だな。ああ、こんな風に考えてしまう自分も嫌だ。
と、そんな余計なことを考えている間にもパッと壁の前まで転移していたようだった。この浮遊感は慣れないと酔う人も出ると聞いたことがある。しかしどうやら俺は酔わずに済んだらしい。
ラッキーだったな。そう自画自賛して──そうでもしないと心身ともにエリートであり続けられないんだ──自分を鼓舞する。
「魔物だー!」
「かかれー!」
転移したと思ったらすぐ討伐が始まった。その数、目視出来る範囲だけでも数十。気を引き締めて掛からなければ。そう意気込んだと思ったら……
ぐわん
膨大な魔力が動いたのがこの目で確認できた。何だ、これ……
しかしそうこう言っているうちに魔物は目前に迫り、膨大魔力移動に意識を向ける暇すら無くなった。今はまずこの魔物を討伐することのみを考えなければ。
感知魔法を埋め込んだ魔道具は俺達の後方で魔物の魔力量を測量してくれているはずだから。
ザンッ
ドォン……
各々魔法を放ち剣を振るう。今まで討伐してきた魔物と同じ姿形をしていても、やはり魔力量が変わったからか手応えが違う。
「くっ……」
前よりも刃の入りが悪いのだ。まるで体が強化されたかのように。魔力保有量によってここまでの差が出るとは。侮ってはいなかったつもりだが、それでも想像と現実の差は激しかった。
今までより一匹倒すのに時間がかかってしまう。これではいずれこちらの体力が尽きて──
そんな最悪が頭をよぎった瞬間、
「もう調べ終えたし、もういいか?」
今の今まで忘れていた──何せ交戦中だからな、目の前のことで手一杯だったのだ──あの嫌な奴の声がふと耳に届いたような気がした。




