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「む、この魔力は……レタアさ……ぁん!?」
「よっ」
シレッと紛れ込んだはずだったのだが、やはりディエゴにはお見通しらしく。すぐバレて目の前に立たれた。数分も持たなかったな、と少し残念に思ったのも仕方なかろう。
そして彼は一応魔術師団の団長だ。そんな人がワタワタとワシを見て慌てふためく様は異様で、とても目立ってしまっていた。
くっ、目立たないように紛れ込んだと言うのに! ディエゴめ!
と、人の目がある中でそんなことはもちろん言えるはずもなく。内心に秘めておいた。ワシ偉い!
……まあ、それは良いとして。ワシを敬うような素振りをディエゴが見せなかったのは不幸中の幸いだったな。
そんなことを人前でしてみろ。一気に噂も広まるだろう。魔術師団長が敬うあの人は誰だ! みたいな。
「おい親父! 油売ってないで早くこっち来いよ!」
「お、オリウェンド……わ、分かったから待ってくれ!」
わあ、ディエゴの息子さんもここに来ていたのか。ワシよりは年齢が二、三高そうだが、それくらいだ。つまり子供だ、ということで。
その子も今日の討伐に参加するつもりなのだろうか。はたまた見送りか。前者なら相当腕が立つのだろうが、はたしてどうなのか。出発するまでは分からない。
「ああ、そうだ。皆にも紹介しよう! 今日、特別にこの方が参加してくださった! ……名前はそのままでよろしいんですか?」
後半は小声で問うてくる。ああ、そういえば見た目を偽っているなら、名前も偽っておいた方が良さそうだったな。何せ性別までも変えて身バレを防ごうとしているのだから。
しかし、
「……考えてなかった。」
ワシはどうにも爪が甘いところがあるらしい。そこまで考え付かなかったのだから。さてどうしよう。少しだけ焦る。
「……ではレ、レ……レットさん! そう、レットさんです! この方は魔法に秀でた方ですので、特別に参加していただきました!」
「あー、ええと、レットです。よろしくお願いします。魔法での援護をメインに今日は頑張ります。」
ディエゴが咄嗟に名前を考えてくれた。それを有難くそのまま使い、今日一日をやり過ごすことにした。本名と似ているから覚えやすくて良いな、というのが第一印象。
ちなみに魔法での援護、とは感知魔法を使っていくぞ、という意志を込めている。うむ、これで印象も良く映ってくれたじゃろう。
完璧な意気込みを言葉に出来た、と内心ホクホクしながらいよいよ討伐へと向かうことになった。




