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「あれ、ユーリは何でワシを無視しなかったんじゃ?」
自分から話しかけておいて聞くのもおかしいが、あれほど徹底して無視されていたこともあり、勝手に言葉が口から零れ落ちる。
「あー、それは……」
頬を掻いて視線を彷徨わせるユーリ。彼女がそわそわと動くたびに若葉色の髪もふわりふわりと靡く。
「レタアちゃんって悪い子には見えないし。確かに窓側一番後ろかもしれないけどさ、すごく素直そうだし。……ね、ニイナ?」
「あ、えと……」
急に話を振られ、ビクッと怯えるニイナ。それを気にすることなくユーリは話し続ける。
「ニイナも悪気があるわけじゃないんだ。本当はレタアちゃんとも仲良くしたいって私に愚痴をこぼすくらいだし。でも……魔力至上主義の奴らがこの学園、ひいてはこの国で幅をきかせているから、魔力が少ない私たちは日陰に身を寄せるしかないんだ。馴れ合いすらも目の敵にされるって言うか……その中でも君は特に、ね。」
ふむ、落ちこぼれのワシと話したくない、以外の理由があったのか。なるほどなるほど。
「じゃが何かの授業でグループ学習があっただろう? それはどうしているんじゃ? あれも一種の馴れ合いじゃろう?」
「窓側はいいんだよ。入学したって言う証明があればいいんだ。その後はどうなろうが知ったことではない、というのが先生の総意。わかりやすく言うなら入学だけはさせて、あとはゴミを捨てるようにポイ。誰も碌に教えてなんてくれないよ。」
そんな腐りきったものだったのか、この学園は。現実を教えられ、いろんな意味で絶句する。
「だからあたし達は授業をサボろうが何しようが、問題を起こさない限り何も言われないよ。見捨てられてるんだもん。だから窓側はグループも作らなくていい。まぁ、それに抗いたくて皆出席はするみたいだけど。」
「ほえー……」
じゃあさっきワシと話すのを拒むために発された言葉は嘘も混じっていた、ということか。
嘘、というよりも『願望』だったのかもしれないが。
フッと目線をユーリから上げる。するとユーリの後ろに座る窓側の生徒が目に入った。よく見ると全員荒んだ目をしている。
それを見て心がキュッと掴まれたように痛み、ワシは思わず提案をしていた。
「なぁ……馴れ合い、してみないか? 窓側全員で」
まさかそんなことをワシが言うとは思っていなかったようで。ユーリだけでなく窓側全員が驚きに満ちた目でワシを見た。




