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ミネル家族にワシの前世の話をした後。ワシは今日もミネル宅に泊まらせてもらうことが決まった。というか家に帰らせてもらえなかった、という方が正しい気がする。うん。
というのも、まだワシの調子も戻っていないし、このまま帰したら魔法を使い出すだろうから、という理由らしい。体調の回復ウンヌンというよりも監視の意味合いの方が強かったな。主にヴァリアス先生の指示じゃ。
それにしてもあの眼光は『魔法を使ったら罰するぞ』と言いそうなくらいのキツさじゃったな。殺気すら感じたような気がした。気のせいだと思いたい。思い出してぶるりと体を震わせる。
「……それにしても、なんか忘れているような。ええと、ええと…………あ、そうじゃ!」
そうじゃ、何故忘れていたのやら! ディエゴとの約束! 魔物討伐参加!
四日も経っていたら、ディエゴから連絡が来てもおかしくはない。今からギルドに行くか……
ミネルに言伝してから向かうことにしよう。さすがに家主に無断で出歩きは出来ん。
思い立ったが吉日。ワシはピョンと椅子から飛び降り、部屋の外へいざ行かん!
「むむ……」
意気込んだは良いが、しかし扉を開ければ廊下が広がるのみ。所狭しと扉が並んでいる状態。かつての我が家を彷彿させる様相だが、ここはミネル宅で、それもいつも通されるミネルの部屋とは全く違う場所。もしかしたら階層も違うかもしれん。
さて、その中からどうやってミネルを探し当てるか。……無理じゃな。うむ。
そもそも人様の家でウロチョロするのはいかがなものか。そこに行き着いたワシは一旦部屋に戻る。
珍しく『魔法を使ってはいけない』ことを覚えていたワシは、大人しく椅子に舞い戻る。
「あー……暇じゃ……」
ミネルが来てくれるまで待っていよう。うむ、そうしよう。
そう決めて手持ち無沙汰になった瞬間、どうしようもなく魔法が使いたくなった。何故魔法を使ってはならないんじゃ!
……あ、魔法を使いすぎたからか。自業自得か。ぐわあー、魔法使いたい魔法使いたい魔法使いたい!
ワシの頭は魔法を使えないストレスで荒ぶってしまった。




