9
あれから数日が経った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ワシは今何をしていると思う?
そう、屋敷の中を走っているのじゃ。何故って? そんなの決まっているじゃろうが。
「レタア様! 待ちなさい!」
家庭教師の先生から逃げているのじゃよ! もうワシに勉強は無理じゃ!
誕生日の日、お母様に勉強頑張ると言ったが、やっぱり無理じゃ!
「ひー!」
あの先生は鬼の生まれ変わりに違いない! 宿題の量もえげつないし、覚えていないと雷(という名の説教)が落ちる。あの先生は鬼じゃ! 鬼じゃ!! (大事なことなので二回言う)
バタバタと廊下を走り、空いている部屋に入る。鬼とは少し距離もあったからまだ余裕がある。今のうちに……!
存在消し魔法と気配消し魔法を自分に掛けて息をひそめた。その瞬間バタンと入ってきた鬼はキョロキョロと辺りを見回す。
「くっ、どこ行った!?」
そう言って鬼はバタバタと部屋を出て行き、屋敷の中をまた探しに行ったようだった。
よし、このまま庭にでも出て隠れていよう。先程までとは打って変わってのんびり廊下を歩く。姿も見えないし気配も消した。そんなワシを見つけられる人間などいやしない。
鼻歌を歌いたい気分になったが、音を立てれば見つかってしまう。じゃからまず庭に出よう。
ふんふふーん
庭に出てきたワシはさてどこへ行こうかと彷徨く。
……あ、この木の上とか良さそうじゃ。一応ペチペチと木を叩いてみる。うむ、五歳児が乗っても(太い部分なら大人でも)折れなさそうじゃ。
「うんしょ、うんしょ、」
じゃが、ワシには筋力も無かったらしい。登れん。今の状況を説明するなら……ただ木にしがみついているだけ、かのぅ。まあ、姿は消しているからの、周りからは見えないじゃろうが。
仕方ない。あまり使ったことのない飛行魔法を使うかの。しかしこれ、バランスを取るのが難しいんじゃよな……。
ふらふらと空中でバランスを取る。よし、このまま木の上にふわりと……
「よっと。」
タン、と太い幹に足をつける。と同時に存在消し魔法を解除する。気配消し魔法は継続中なり。気配を辿って見つかったらおしまいじゃからの。
「ふー……」
幹に座り、風を感じる。今日は天気も良いからの、とても気持ちがいい。す、と目を細める。
「ふんふふーん、ふふーんふん、」
先程まで沈んでいた気分が上向きになる。足をぶらぶらと揺らし、楽しさを表現する。
ああ、こんな日はピクニックでもしたいのぅ。じゃが魔法では作物を作り出すことは出来ないから……どうするかの。作れてせいぜい水がいいところ。
生態系だか何だかが崩れるかららしいから作物は作れんらしい。前世でも何度か挑戦したが無理じゃった。
まあ、作物の育成を促進する魔法ならあるがの。そこら辺の基準が分からんな。
「ま、水でいいかの。」
すっと水を魔法で作り出し、それを飲んだ。うん、うまい。




