プロローグ
客観side
ここは森の中にポツンと建つ一軒家。
「次の人生は……人に囲まれたいのぅ……」
そこで床に伏したお婆さんはこの家の住人であり、今にも死んでしまいそうだった。
しかしそんなお婆さんを看取る者もいない。しわしわな手は空を切る。
このお婆さんは千年生きた伝説の魔女。魔力量によっても寿命が変わるこの世界で千年も生きられるのは珍しい。
魔力を持たない普通の人間の平均寿命はだいたい百年程、
魔力を持つ人間の平均寿命は百五十年程。
それを考えるとどれほどの魔力量があったのだろうか。推測の域を出ることはない。
更に魔法の才能があり過ぎる故に、国から新しい魔法の開発を任されていた。
誰一人寄り付かない森の奥にたった一人で。
「はぁ、誰か……いないかのぅ……ワシを看取ってくれる者が。」
新しい魔法の報告を聞きにくる人間以外との交流もない。あまりにも大きな魔力を持つこの魔女は皆から恐怖の対象と見なされてきた。
その目から逃れるためにも森の中でひっそりと暮らしていたのだ。そんな魔女を看取る者などいるはずもない。
家族ももう何百年も前に死んでしまっている。天涯孤独とはこれいかに。
「次の人生の目標は……人に囲まれて……孤独死しないこと、じゃな……」
もう目を開けていられないようだ。
魔女は一粒涙を落とす。その涙が枕に落ちた瞬間、ずっと人の温もりを探し上げていた手も一緒に落ちていった。