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99/108

89p

 辺りは真っ暗で、既に今は深夜なのだろうと感じた。

そしてこの夜が、自分が意識を失ったのとはまた、別の日の夜であることも、アユミは気づいていた。


――あれから・・どれだけ眠っていたんだろう。

 長い夢を見てしまった。おかげで、アユミは全てを理解した。

そっと上半身を起こす。

寝かせられていたのは自室のベッドの上だった。

恐らく、エリオットたちが運んでくれたのだろう。

 ふと、自身の掌を包み込む温かいものに気づき、視線を向ける。

アユミの手をしっかりと握り、ベッドにしがみつくように眠っているエリオットの頬に、涙の跡があった。


「・・皆。また・・傍にいてくれたんだ。」

 部屋を見渡し、アユミは微笑んだ。

ソファにはピア、壁にはカーティス。皆今は静かに眠っていて、アユミはそんな彼らをとても愛しく思った。


――・・それでも。もう行かなきゃ。

 そっとエリオットの手を離し、アユミはベッドを降りた。

辺りは静かで、誰一人アユミの目覚めに気づいていない。


「・・ありがとう。皆・・」

アユミにとって彼らは、本当に、大切な仲間だった。


――ピアちゃん・・

 何考えてるのかはちょっとわかりづらかったけど・・

いつも仲間を思い遣っていた、賢くて優しい少女。


――カーティスさん・・

 物騒で凶暴で、最初はとことん戸惑ってしまったけど。

彼が何事にも真剣に、真面目に取り組んでいた事を知っている。


――エリオット・・さん・・

 私の・・誰よりも・・大好きな人。


 床に降りたアユミは、ゆっくりと一人ずつ、顔を覗き込んで、その安らかな寝顔を脳裏に焼き付けた。

彼らを起こすことのないよう、静かに部屋を出る。

暗い廊下の向こうに、白い淡い光を放っている小さな生き物がいるのが見えた。


「・・・ポチ。」

 お座りの体勢をしたポチは、空色の瞳を輝かせアユミを見上げた。

嬉しそうに尻尾を振っているのが見えて。アユミは微笑んでその白い毛並みを撫でた。

触れた瞬間、電流のようにアユミの記憶が覚醒する。

 千年以上の命を繰り返してきた記憶が、誰よりも、王国を愛していた思いが。


「・・くぅーん」

 ほんの少し寂しそうに、ポチは目を細める。

アユミは今までの彼女がよくそうしていたように、ポチを抱きしめた。


「ありがとう・・ポチ。皆のこと、よろしくね。」

アユミの言葉に、ポチが尻尾を振って見せたのがわかって、アユミは身体を離した。

行かなければ。もう時間が・・ないんだ。


 玄関を出た。空の上で星はキラキラしていて。

アユミはそれを見つめながら、ゆっくりと階段を下っていった。

一階の階段を降りる時、アユミはその下にインフィニティが立っていることに気づいた。


「・・・アユミちゃん・・。」

 彼女はほんの少しだけ戸惑ったように、目を見開くと。

階段を降りるアユミに、手を差し伸べた。


 その手が小さく震えていたので、アユミは思わず笑ってしまう。


「待っててくれたんだね。ずっと、ずっと心配しててくれたんだね。」

――・・一番大変だったのは、貴女だったんだ。

  辛かっただろうに、苦しかっただろうに。気づけなくてごめん。

 

「ありがとう・・。貴女が居て、良かった。」

呟いて、彼女の手を取る。

インフィニティの瞳から、涙が零れて煌めいた。


「・・行きましょう。」

呟き、彼女はアユミの手を引いて一緒に歩いてくれた。


 星明りの照らす夜道に二人の影が並ぶ。その影は道の遠くに溶け込んで消えていった。





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