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8p

■■第四章■■

『8月1日

 TITLE:緊急速報

 き。き。今日は突然お客さんが3人も来ちゃいました!

 しばらくうちに泊まることになりそうです。

 とっても説明しづらい事態なんで、詳しくは書けないんですけけど、

 とりあえず、一応全員初対面なんですが、いい人たちみたいだし、

 我が家も今、お母さんいなくて私1人だから、

 賑やかになって嬉しいかな、なんて思ってます♪

 ここ最近、ずっとわびし〜い日記ばっかり書いてたけど、

 明日からはもっと楽しそうなこと、書けるかもね。

 忙しくなりそうなんだけどね!』


「・・・うん。まぁ、こんなもんかな。これ以上具体的には書けるわけないしね。」

一人呟き、パソコンの画面にある文面を読み直す。

 

 アユミは趣味でネットにブログをあげていた。毎日一回はマメに書き込んでいる。これが結構楽しいのだ。

閲覧者は大半が学校の友達なのだが、たまに見知らぬ人からコメント入ったりしてると、それだけで一日ニヤニヤできる。


「トウヤさん、またコメントくれるかな。」

ここ数週間で親しくなったHNを呟いてみる。

何でも、トウヤと名乗る人物は、アユミの通う高校のOBらしくて、夏休み前、学校の文化祭関係の日記を書いたのがきっかけでアユミのブログに通ってくるようになった。

アユミのクラスでは文化祭に喫茶店を行い、アユミはそこで会計係兼レジ打ちとして働きまくっていた。

このトウヤという人物も在学中の文化祭でクラスの会計やっていたそうで、久しぶりに母校の文化祭を訪れて、そこで多分アユミと思われる会計係の姿を見かけていたのだそうだ。


『なんか自分の高校時代思い出しちゃったよ。』

 トウヤはそう書き込んでくれた。

今は県外の大学で一人暮らしをしているそうだ。だから縁なんて殆どないのだけども、それでもアユミは、自分より少し大人なこのトウヤという人物に憧れを感じていた。

「トウヤ・・多分男の人だよね。十九歳くらいかなあ・・」

色々と想像して楽しめる。ネットは面白い。

・・とはいっても、あまり長時間画面を見ていてもどうしようもない。アユミは投稿文章にミスがないことを確認して、パソコンの電源を落とした。


 では、現実に戻ろうと思う。ブログにはとりあえず当たり障りのないことを書いたが、実際今日起きた出来事はそんな小さな事ではなかった。

キャスターつき椅子を半回転させて後ろを見る。アユミの部屋には勉強机とその上にデスクトップのパソコンとプリンター。

部屋の中央に小さめのテーブルとソファ、端のほうにはベッドに箪笥、本棚が一個ずつ揃っている。どれも見てて居心地よく感じるよう、整えてるつもりだ。

 そしてその布張りのソファの上には今、ピアが座り、漫画本を眺めている姿があった。

彼女が読んでいるのは部屋にあった西洋ファンタジーの漫画なのだが、面白いのか、先ほどから熱心に眺めている。

字は読めないらしいが、その漫画のキャラクタに自分たちと通じるものを感じたのだろう。

アユミは時折彼女から投げかけられる質問に答えながら、ボウっとした時間を過ごしていた。


 今日からピアにはこの部屋のソファで寝てもらうことになった、

母の部屋をエリオットが使い、リビングのソファをカーティスが使う流れだ。


「本当は、眠る必要はないんだ。」

エリオットはそう教えてくれた。ただアユミの生活のことを考えると、自分たちが起きていても迷惑だろうということで、とりあえず寝る体勢を取ることにしたらしい。

 彼らは生身の人間に見えるが、実際は幽霊みたいなものなのだという。

ようは、彼らが潜り込んだパラレルワールドを実体化させたような存在らしく、彼らの肉体はこちらにはない。

だから、代謝もなく、殆ど疲れないし、服も脱げない。


『それ、脱げないの!?』

思わず尋ねてしまった。もちろん『それ』はエリオットの鎧と剣を指す。

『うん。まぁでも、そのあたりは何とかなるから♪』

明るくエリオットは言っていたが、何とかってなんだ?

 しかし言われて見れば確かに。先程から彼らは土足で家の中歩き回ってるにも関わらず、床はまったく汚れてない。彼らには実体がなかったのだ。


『・・・触れるのにね。』

 エリオットがポチを抱えたことを思い出し、アユミがそう尋ねてみたら、

『我々は物質に触れているわけではなく、そこにあるパラレルワールドと接触しているのです。

 なので単純に触っているのとは違います。我々は自らの意思にない形で接触を起こすことはありえません。』

ピアはそう教えてくれた。試しにピアの背中に向けて手元にあった消しゴムを投げてみたら、それは通り抜けてしまった。不思議な感じだ。


 アユミは熱心に漫画を読んでるピアを見ながら、そうやって色々思い出していたのだが、

「・・あ。ゲームつけっぱなしだったんじゃ・・・!」

ようやくそのことも思い出して、慌てて母の部屋に向かう。電気もったいなかったなぁとか、反省してみたりする。


「エリオットさんー。入りますよー?」

 一応ノックして扉を開ける。部屋は真っ暗だった。寝てるのかな?

僅かに窓から覗く外の明かりが、部屋の様子をぼんやりと映し出した。閉まってた筈のカーテンが開いている。エリオットが開けたのだろう。

足音を忍ばせて部屋に入った。ベッドに目をやるが、誰も居ない。

変だとは思ったが、とりあえずは目的を果たそうと、TVの電源を落とし、一応メモリーカードとゲームディスクも取り出しておく。


「あれ?」

取り出したゲームディスクに何か違和感を感じたが、部屋が暗いので確認できない。

アユミはゲームディスクをケースに戻し、メモリーカードと一緒に部屋に持って帰ることにした。

 部屋を出る前、もう一度ぐるりと見渡したのだが、やはりどこにもエリオットの姿はないようだった。



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