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72p

■■第三十四章■■

 チクタクと時計が時間を刻んでいた。

リビングのソファの上でむにゃりと寝返りを打ったエリオットは今、すっかり眠りの世界に溶け込んでしまったようだ。


――どこにいるの?

 幼い日のエリオットの声が聞こえる。誰かを探しているのだろうか。

再び世界の全てがモノトーン。エリオットは自身の過去を夢に見ていた。

幼いエリオットは今、豪華な服を着せられて、豪奢に飾られた城内を走り回っている。

 どうやら、これはまだエリオットが王室で育てられていた頃の記憶らしい。


『・・あら、エリオット様、お一人ですか?』

 栗色の巻き毛の若い女中が一人、その背を屈め、エリオットに話しかけて来た。


『・は・・!あ・・のね!マァ・・探してる!!」


 言葉に慣れないほど幼い時分なもので、発することが出来るのは単語ばかりだったが、親切なこの女中は、エリオットの拙い単語の羅列だけで、なんとか意味を把握しようとしてくれたらしい。

『マァ・・ママ?母上様ですか?』

尋ねる女中のその言葉に、エリオットはぶんぶん頭を横に振って答えた。

『ちがう!・・わんわの・・マァ!』

必死でそう伝えると、女中は全てを悟ったようにニッコリ笑って、エリオットの小さな手を引いて歩いてくれた。


 連れて行かれたのは、謁見の間。普段は常に人の出入りがあるこの部屋も、国王が留守にしている今現在は、静かなものだった。

そう、この時、城内に国王はいなかった。確か、隣国との外交に出向いていたのだと記憶している。

 父親は留守で、母親は仕事が忙しく、なかなかエリオットの相手をしてくれない。

女中たちは、エリオットのやんちゃを止めようとするばかりだから、遊んでも面白くないし、かといって、同じ年頃の子供が城内にいるわけでもないので、エリオットはすっかり退屈してしまっていた。


『マァ・・は?どこ?』

 広い謁見の間をきょろきょろと見渡しながら、尋ねてくるエリオットに、

『さぁ。いつもはここでお姿をお見かけするのですがね。』

女中も同じくきょろきょろしながら答えた。

 そんな彼女の視界に、真っ黒いフサフサの毛玉が飛び込んでくる。

『・・・・あ!』

叫ぶ間もなく、毛玉は彼女の手を掴んでいた筈のエリオットを地面に押し倒してしまった。

『っきゃ!大丈夫ですか!?エリオット様!?』

 大慌てで足元に転がる少年を覗き込んだ女中は、地面に転がったままケタケタ笑い出すエリオットを見た。

相変わらず少年の上から退こうとしない黒い毛玉の正体は、エリオットが探していた『マァ』そのもので、国王が留守の間に、すっかり、エリオットの遊び相手が定着してしまった。

マァは見た目だけなら、街中にありふれた子犬と変わらない姿をしているが・・

『エリオット様・・そのコはこの国を代表する、魔物なんですよ?』

 魔物が特に危険というわけではないのだが、彼らは人間とは相容れない瘴気を糧にして育つ生き物だ。

時折、魔物の呼気に混じって瘴気が漏れることがあるので、小さな子供はあまり近づくべきではないとされている。

 この女中も、エリオットに瘴気が移ることを心配したのだが・・


『やだ!・・マァと一緒・・いる!』

 ようやく地面から上半身を起こしたエリオットは、マァを胸に抱き寄せ、真剣な顔で女中に抵抗した。

そんなエリオットの腕の中で、マァは楽しそうに尻尾を振っている。

 幼少期の魔王は、子供と相性が良いのだろうか。マァはすっかり、エリオットの心を捉えてしまったようだった。


『・・仕方がありませんね。マァと遊ぶなら、お庭に出てくださいませ。

 マァが暴れると、お城の中が汚れてしまいますからね。』

溜息交じりな女中の言葉に

『わかった!』

エリオットは元気に答えると、立ち上がり、マァと一緒に部屋を出て行ってしまった。


『・・魔王とあそこまで仲良くなった王子は初めてかもしれませんね。』

 ぼそりと微笑ましい気持ちで呟いた女中は、伸びを一つし、本来の役目である城内の清掃作業へ戻っていった。


――・・魔王?あれが?

 夢を見ている十六歳のエリオットはふと首を捻る。

今、この女中はあの犬を魔王と呼んだ。

城内で犬と遊んでいた記憶はあったが、その犬が魔王だったなんて、考えたこともなかった。


「・・・う・・ん?」

 ソファの上で目を覚ましたエリオットの頭は、夢の終わりから引き続いて混乱していた。

「・・起きましたか?」

ふと近くから声を掛けられ、慌てて上半身を起こす。

「っわ!ピアちゃん、いたんだ!?」

見ればテーブルの向こう、椅子に腰掛けいつもの漫画本を読みふけっているピアの姿があった。

 どうやらエリオットは、彼女がこの部屋に来たことにすら気づかないほど、熟睡してしまっていたらしい。


「あっちゃ・・。寝るつもりはなかったんだけどな・・。」

 くしゃくしゃと頭を掻く。一度眠ったおかげで頭はすっきりしていたが、なんで今日はあんなに眠かったのだろうか。

「・・エリオットは、カーティスの夢の中で怪我を負っていましたから。

 そこから彼の瘴気を取り込んでしまったのかもしれませんよ?」

 漫画本から視線を上げたピアは、その瞳に僅かな不安の色を覗かせた。

「悪夢は見ませんでしたか?」

そう尋ねられて、エリオットは首を横に振った。

「それは大丈夫。・・でも、また昔の夢見ちゃったな。

 あんまり見すぎると・・マズイんだろうけど・・」

苦笑いでそう白状すると、ピアは興味深そうにエリオットに向き直り、尋ねた。


「また、大賢者様が出てきたんですか?」

 どうやら、夢を見てしまったエリオットの身を案じる以上に、ピアはその登場人物が気になったらしい。

 そういえば、ピアだけが未だ、この世界にいる大賢者様に会っていないことになる。

やはり一度弟子入りした身としては、師匠の存在が恋しくもなるのだろうか。


「ん〜・・残念ながら。今回は大賢者様の夢じゃなかったんだ。

 俺がまだ城で暮らしていた頃の・・随分昔の夢。」

「そうなんですか・・。よくそれを・・覚えてましたね?」

 ピアの言葉に、エリオットも頷いて答えた。あんな古い記憶を、まだ自分が持っていたとは思わなかった。


「・・そういえば。夢のおかげで思い出したんだけど。

 ピアちゃんは、幼少期の魔王に会ったことあるのかな?」


 思いついて、尋ねてみる。ピアは突然の質問に不思議そうな表情を浮かべ、答えた。

「はい・・。王室の方が街中を散歩させている姿を拝見したことがあります。

 私も幼かったので、あまりはっきりとは覚えていませんが・・。

 周囲にいた子供と並んで、その毛並みを撫でさせて頂いたこともあるかもしれません。」

ピアのその言葉に、エリオットは掌を顎に当て、考え込むように遠くを見た後、言った。

「・・その魔王って・・黒い・・子犬みたいな姿してた?」

「ええ。魔王は幼少期、本当ただの子犬みたいな姿をしていましたね。

 子供の中にはそれを本物の子犬と勘違いしているコもいましたよ。」

コクリと頷き、そう答えたピアの様子に、エリオットは遂に頭を抱えて顔を伏せてしまった。

 ヤバイ。なんか恥ずかしくなってきた。


「・・・どうか・・したんですか?どこか、苦しいんですか?」

 こちらの様子を心配してくれたのか、椅子を立ち上がろうとしたピアを、エリオットは片手で押し留めて言った。

「違う・・。俺、勘違いしてたんだよ。

 俺、城にいた頃、魔王のこと、ただの犬と勘違いしてた。

 何も知らずに、普通に一緒に遊んでた・・。勝手に名前まで付けてさ・・」

 どおりで城内の人々から笑いを買っていたわけだ。

魔王をただの飼い犬同様に扱う王子なんて、今まで存在しなかっただろう。

無知だったとはいえ、今考えると堪らなく恥ずかしい。

 思わず熱くなる頬を掌で冷ましていると、ピアの笑い声が聞こえてきた。


「・・エリオット・・それは随分・・貴方らしい。」

 驚きに顔を上げれば、そこには珍しいほど愉快そうなピアの顔があった。

必死で、笑いを最低限に抑えようとはしているらしいが、俯いた彼女の瞳にはうっすら涙も浮かんでいた。

「魔王は仮にも、何百年と生きている老輩ですから・・いつも落ち着いて佇んでいた印象がありましたが。

 子供と戯れるような一面もあったのですね。エリオットとは気が合ったのかもしれません。」

感心しているとも、面白がってるともい取れるその言葉に、エリオットはこっそり唇を尖らせながら呟いた。

「・・でも、そうなると俺・・魔王を倒す自信・・なくなっちゃったな。

 あいつ、すごく良いやつだったんだ。本当、俺たち兄弟みたいに仲良くってさ・・」

――なんで・・そんな魔王と戦わないといけなくなったんだろう。

 くしゃり、髪を掴むエリオットを見て、ピアはふと笑うのをやめた。

「エリオット・・。貴方は今の王室のことを、どう思っていますか?」

「・・え?」

 唐突に、真剣な眼差しを向けられて、エリオットは戸惑う。

ピアは僅かに瞼を伏せると、続けた。

「既に多くの国民は危機を察していると思います。

 王妃の身の回りを固める贅沢品への多大な出費に、国政を傍観するばかりの国王陛下。

 極めつけが王国中をとりまく魔王の呪いです。

 国民が反乱を起こそうが起こすまいが、このままでは間違いなく、我が王国は衰退するでしょう。」

 古き時代の契約により生まれた、最古の歴史をもつこの王国の栄華も、既に限界が来ているのだと、ピアは言った。

「最強と謳われる紅鴉一族の力すら、今の王族に使わせればただの浪費です。

 時代が変わるに連れ、王族の欲望が増幅しすぎたのかもしれません。

 今の王族には、何の威厳もない・・私は・・」

・・私は、このまま魔王が、国を滅ぼしてくれたほうがいいと考えたことがあります。

 そう言うピアの声は、聞き取るのが困難な程に震えていた。


「ピアちゃん・・?」

 エリオットはようやく気づいた。普段冷静な筈の彼女の様子が、今日はなんだかおかしいのだ。

 王国内に渦巻いている国政への不信感は、既に誰もが気づいていた。

それでも、エリオットたちは王国を救うための旅に出る道を選んだ。

魔王を倒し、王国の平和を取り戻す。そう決めた以上、エリオットたちは王国の衰退の可能性を、あえて考えないようにしてきた。

特に誰かが言い出したわけでもないのだが、互いにその手の話題を持ち出さないよう、気をつけていたのに。何故、今になってピアはこんなことを言い出したのだろうか。

 不意に、自らの瞳を押さえたピアの掌から、透明な雫が流れを作るのが見えて、エリオットは気づいた。これはピアの情緒が乱れているのだ。

 情緒の乱れ。それは、異世界の人間がこの世界の因果律から最初に受ける制裁ともいわれている。

気をつけなくては。ピアがこの世界から消される時が近づいている可能性がある。

 怖くなって、エリオットは腕を伸ばし、テーブルの上に置かれたピアの手に一瞬だけ触れた。

エリオットの手が触れた瞬間、ピアはビクリと身体を震わせたが、ゆっくりと瞳から片手を離し。涙の跡の残る顔で、エリオットを見つめた。

「もし・・貴方が・・」

 戸惑ったように大きく開かれた、綺麗な瞳。

「貴方が王になることで、救われる人がいるとしたら?」

ピアの声は、今まで聞いたこともないくらい不安そうで、随分と幼く聞こえた。

「・・え?」

質問の意味を汲みかねて、首を傾げたエリオットに、ピアはゆっくりと続けた。

「大賢者様がおっしゃってました・・。エリオットこそが、真に王位を継ぐものとして相応しいと。

 貴方は真っ直ぐで、いつも誰かのことを思いやれる、優しい人。

 貴方が王になれば・・きっと、王国は持ち直す・・貴方が・・」

「ピアちゃん・・」

真っ直ぐに瞳を見据えられ、エリオットは耐え切れず視線を逸らした。

「無理だよ。俺には無理なんだ。」

まるで自らが吐き出した言葉自体に苦味があったように、エリオットは顔をしかめていた。

縋るように濡れたピアの瞳に、自らの良心がジクジク痛み始めるのを感じる。

 それでも、エリオットは自分の意思を覆すつもりはなかった。


「・・ピアちゃんは買いかぶり過ぎだよ。俺はそんな立派な人間じゃない。

 王になるような度胸も、器もない。ただの平凡な奴なんだよ。」

「そんなこと・・ありません!」

顔を背けたまま、自らを否定するエリオットに、ピアは怒ったように言った。

「貴方は誰よりも清らかな心を持った人。

 そうでなければ、何故自らを追放した王室を恨まずにいられましょう!

 カーティスのことだって・・本当は信用していいわけがないのに・・

 貴方は一度だって、彼を疑ったりしなかった!」

 ここまで熱くなるピアの姿が珍しくて、エリオットは目を見開いた。

同時に、彼女がどれだけ自分のことを信じていてくれたのか、その気持ちが痛いほど伝わってきて・・

エリオットは辛い気持ちで瞼を伏せた。


「・・違うんだ。俺は王室を恨んでいたし、カーティスのことだって・・いつも信じていたわけじゃない。」

 ぽつり、本音を零した。決して今まで、誰にも聞かせなかったエリオットの本音。

瞼を上げれば、そこには驚いたようにこちらを見つめるピアの瞳があった。

 なんだか切なくなって、エリオットは僅かに笑うと、続けた。

「俺はね、王室に戻ることを諦めた人間なんだ。

 城から追い出された時、俺はものすごく悔しかった。理不尽さを感じていたし、いつか絶対、また城に戻るんだって、野心もあった。

 でもね、ある日気づいたんだ。無理なんだ・・って。」

 王室から追放され、突然奈落の底からの生活を始めたエリオットは、その厳しい現実の中で、徐々に自らの野心が冷めていくのを感じていた。

究極の貧しさを知り、王室で育てられた僅かなプライドなど、たちどころに朽ち落ちてしまった。


「無理だったんだよ。最初から、俺は王室に生きる器じゃなかったんだ。

 母さんだってただの平民だし。秀でた才能があるわけでもない。

 俺は一般人として、平凡に生きていくほうが幸せなんだって・・気づいたんだ。」

耐え切れず、再びピアから視線を外す。俯いたエリオットは、呟くように続けた。

「・・それに気づいたら。全部諦めがついて、楽になったんだよ。

 王族に生まれたのも、王室で暮らしていたのも、最初から何かの間違いだったんだって。

 そう考えたら、誰も責めなくていいじゃん。すっごい心が軽くなって・・」

「・・では、勇者として任命された時はどうだったんですか?

 貴方は、貴方の持つ王族の血を利用され、こんな危険な仕事を任されたのですよ?」

――・・それでも、貴方は自らが王族であることを、何かの間違いだと片付けるのですか?

 そう尋ねるピアの声に、エリオットはやはり俯いたまま答えた。


「・・期待しなかったわけじゃないよ。ほんの少しだけだけど、これを切っ掛けに、また王室に戻れるかもしれないとか、そんな空想に浸ってしまったこともある。

 でも所詮はただの空想だよ。現実にはありえないって、わかってるから。」

「・・そんなこと!!」

 ただの空想であるわけがない。エリオットは王室に戻る権利を持っているのだ。

彼にさえその意思があれば、大賢者だってその手伝いをしてくれただろう。なのに、何故諦めてしまう?


 不意に、エリオットが顔を上げた。今にも泣き出しそうな瞳は、ピアを見据えて言った。

「・・お願い。もう、何も言わないで。」

 これ以上は耐え切れないのだと。自分がこれまできちんと勇者の任務を果たしてこれたのは、王室に戻ることを諦めていたからなのだと。エリオットはそう白状した。


「もし・・もし俺が王室に戻ることを望み始めたら。その時点で俺は勇者になれないよ。

 悔しいんだ。本当はこんな旅・・したくなかった・・」

「エリオット・・・」

目の前で項垂れる少年を、ピアはじっと見つめた。

普段無邪気に見えていたこの少年が、こんなに深く悩んでいたなんて、思いもしなかった。

エリオットはエリオットなりの考えを持って、この勇者の使命を果たそうとしていたのだ。

 純粋な少年が抱いた僅かな心の闇が切なくて、ピアはもう、これ以上何も言うことが出来なくなった。


「・・すいませんでした。勝手に・・押し付けようとしてしまって・・」

そう謝ると、エリオットは俯いたまま、首を横に振った。

「俺も・・ごめん。だらしなくて、本当・・」

そう呟いたエリオットは、思い立ったように上半身を起こし、パンッと両手で自分の頬を叩いた。

 恐らく、気分を切り替えようとしたのだと思う。その空気を読んで、ピアは話題を変えることにした。


「ところで・・アユミさんの姿が見当たりませんが・・?」

ちらりと周囲に視線をやって、気になったことを口にしてみる。

「ああ・・。なんか、買い物に行って来るって言ってたんだけど・・」

 そう言い、時計に目をやったエリオットは、眉をしかめた。

時刻は既に十六時を回っている。アユミが家を出たのが十三時前だったから・・

「・・思ってたより・・遅いな。」

三時間程外出していることになる。せめてどこまで出かけるつもりなのか、聞いておけばよかったなと後悔した。


「何か・・事件に巻き込まれていなければいいんですが。」

 そう呟くピアと二人、心配そうな視線を交わした後、エリオットは言う。

「・・・俺、迎えに行ってみようかな?」

ついでにポチの散歩も兼ねてあげれば、アユミも喜んでくれるんじゃないかと思う。

 しかし、そんなエリオットの提案に、ピアはゆっくり首を横に振って答えた。

「それは・・困ります。今この家には私とエリオットしかいませんから。」

「・・へ!?」

意外な事実に、エリオットは思わずテーブルから身を乗り出していた。


「え・・カーティスはいないの!?」

 そういえば、カーティスの傍につきっきりだったピアがこの部屋に居ること自体を疑問に思うべきだった。

カーティスはいつの間に目を覚ましていたのだろう。

 戸惑うエリオットに、ピアは淡々と説明した。

彼はほんの一時間前に目を覚まし、先日の戦いの後、魔の森がどうなったか気になるから、一度見に行きたいと言い出したそうだ。


「・・で、本当に出て行っちゃったと?」

 病み上がりの癖に、随分と無茶なことをしたものだ。エリオットは自分の顔が引きつるのを感じた。

 これではアユミ以上に、カーティスの身のほうが心配である。

今直ぐにでも飛び出して、双方の安全を確認したいところだが、この家にピアが居る以上、彼女を守らなくてはいけない。


「・・カーティスは大丈夫です。絶対に危険なことはしないと約束してくれましたから。

 ただ・・アユミさんは心配ですね・・テレパシスを送ってみましょうか。」

 うろたえるエリオットを前に、ピアはようやく元の冷静さを取り戻したらしく、そう提案してきた。


「うん・・よろしく。」

エリオットは頼り甲斐のあるピアの姿に、思わずほっと息をついてしまった。

 と、同時に。こういう時に役に立てない自分に僅かな嫌気を感じてもいた。

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