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アユミがようやく家に辿りついた時、携帯の画面に映る時刻は、午前三時近かった。
「うわ・・マジで深夜徘徊しちゃったよ。ちょっと神社までいくだけのつもりだったのに・・」
なんだか自分が不良にでもなってしまったような気持ちにドギマギしながら、
アユミはポチを抱きかかえ、まずベランダに行った。
「ごめんねー。こんな遅くまで歩かせて。ゆっくり休むんだよ。今日はありがとうね!」
感謝たっぷりにその白い毛並みを撫でた。
本当、ポチがいなければ今日は自分、正気でいられなかったかもしれないのだ。
「・・まさか、あの男に会ってしまうなんてね・・」
やはり迂闊に行動するべきではないなと再認識した。
あの男、何やら色々とアユミに教えてくれたような気がするが・・
「エリオットさんたちに伝えた方がいいんだろうけど・・」
ベランダから台所に降り立ち、アユミは考えた。
果たして、彼らは今何をしているのだろうか。
見たところリビングにも廊下にも彼らの気配はないし。
もしかしたら、未だにカーティスの夢の中で試行錯誤しているのかもしれない。
そっとカーティスの眠る部屋に入ったアユミは、そこで思ってた以上に微笑ましいものを見てしまった。
「あれま・・」
呟き、今ではすっかり眠りこけている三人に近づく。
カーティスの寝顔は、出かける前に見た時とくらべ、随分穏やかに見えた。
引いていた血の気も今ではすっかり元通り。ほんのり紅潮した頬は、まるで小さな子供のようだ。
そしてそのカーティスの手の大きな手をしっかりと掴んだまま眠るピアに、カーティスの膝元に頭を乗せ、安心したように蹲っているエリオットの姿。
「・・友情通り越して、まるで家族って感じだな。」
思わず顔がほころぶのを感じた。先程まで全身を包んでいた緊張感が嘘のように消えてなくなっていた。
アユミは本棚の置くにある押し入れの中から、客用の布団を二枚取り出すと、エリオットとピアそれぞれに掛けてやった。
あまり長居すると、三人を起こしてしまうかもしれないので・・というよりも、折角の微笑ましい光景を台無しにするのが嫌だったので、静かに部屋を出る。
「なんか・・羨ましいや。」
廊下に出たアユミは、ぼそりと呟いた。
自分の求めるものを、既に持っている彼らに少し嫉妬してしまったのだ。
「いいもん。私にはポチがいるし・・お母さんも・・」
そう言って、自分を慰めてみる。しかしその言葉は口にした途端に虚しいものに成り下がったような気がして、直ぐに口を閉じた。
・・疲れてるんだな。寝よう。
涙が出るのは、眠いからなのだ。そうに決まっている。
アユミは自室に戻り、ベッドに横たわった。
目が覚めたら、まず風呂に入らないとな・・などと思いつつ、瞼を伏せる。
そのまま朝日が昇るまで、アユミは深い眠りに落ちていた。