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■■第三章■■

『お探ししました大賢者様。』

 確かに、カーティスは今そう言った。ポチが彼らの探してる大賢者だって?

いや、確かにポチは全身白いし、目も青い、その大賢者様の特徴には当てはまるのかもしれない。


「やっぱり、間違いないんだね。」

若干高揚した声のエリオットがカーティスに言う。

「ああ、間違いない。この方こそが我々が捜していた大賢者様だ。こんなに早く見つかるとは思わなかった。」

真顔の二人のそんな遣り取りを、アユミは微妙な気持ちで見ていた。


――ポチが大賢者、なんて見かけによらない。

 あまりの急展開に、アユミは思わず妙なところに関心してしまっていた。目の前の珍光景はまだ続いている。


「大賢者様。この度は大変な事態に巻き込んでしまいました。全てこちらの不手際です。多大な苦労をおかけしたと存じます。何といってお詫びいたせばいいか・・」

 大層な謝罪文をつらつらと語りだしたのはエリオット。

エリオットはカーティスに代わり、ポチの目の前に膝を着いた。その姿を見てると、やっぱり彼がこのパーティのリーダーなんだなと思う。

しかし、相変わらずポチは好き勝手にじゃれついているのだから、威厳もへったくれもない。


「・・どうぞ安心してください。我々は今回、貴方様を守る役目を担ってここまで参りました。

 貴方様がもとの世界に戻るためのお手伝いをさせていただきたく存じます。」

 お手伝い。不意に聞こえたその単語に、ポチのふさふさの耳がピクンと動いた。


「・・・あ。」

芸を仕込んだ当人、アユミにはなんとなく次の展開が予測できてしまう。

 ポチは自分と視線を合わせたこの人間を見つめ返した。すっと、ポチの表情が変わる。無邪気な犬からプロフェッショナルの鋭い視線へ。

しゃんと背筋を伸ばしたポチは、優雅にその白い手をエリオットの目の前に差し出した。

「!!!」

その出来事に、明らかに驚愕の表情を浮かべる後ろの二人。ああ、彼らに言ってやりたい、あれはお手という芸なのだ、と。

 しかしそれを伝えるのが忍ばれるほど、感動しきった様子で、エリオットはポチの手を握った。

「まさか人間だったころの記憶がおありなのでしょうか?」

そんなわけない。アユミはもう笑いを堪えていた。

「エリオット、大賢者様は無事見つかったのだ。これ以上ここにいても意味はあるまい。」

カーティスの言葉に、エリオットは頷き、彼を見る。

「帰ろう。元の世界に。」

 エリオットは立ち上がる。ポチを胸に抱き上げて。同じく立ち上がり、杖で宙に何か描き始めるピアの姿。

犬ながらに、なにかおかしいと気づいたのか、エリオットの腕の中でポチが暴れ始めた。


「・・きゅーん♪」

その愛らしい泣き声に、アユミはようやく我に返った。

「・・っは!?ちょ・・え!?」

まさか、まさかとは思うが、こいつら、ポチを連れて行くつもりなのか!私の大事な家族を!


「君にも迷惑かけちゃったね。本当、ごめんね!」

 最後に一言と、エリオットの顔がこちらを向いて無邪気に微笑む。

しかしアユミは既に、そんな彼の挨拶を聞いている気分ではない。

 いや、ポチは置いていけって、絶対それ、大賢者様とかじゃないから。ただの雑種犬だから!!

アユミはポチの傍へ走ろうとした、しかし、たどり着くより前に、見えるもの全てが、激しい閃光に掻き消されてしまった。


「ポチを・・・!!ポ チ を 連 れ て 行 く な あ あ !!」

 何も見えない真っ白になった視界のなかで、アユミはありったけ叫んだ。

しかしその叫びはもう、彼らに届かなかった。届く筈なかった。その筈だったのに・・・


「・・・え?」

ほんの数秒で光は消え、アユミの目の前には、ベランダに敷いてある人工芝のグリーンに夕焼けの赤、そして、いなくなってる筈の三人と一匹の姿があった。

アユミも呆然としていたが、彼らほどではなかっただろう。


「ど・・どういうことだ?」

不自然に長い間があって、カーティスが呟いた。


「キャンキャン!」

ポチがエリオットの腕の中から暴れて抜け出した。もう、誰もポチを止めようとはしなかった。

「ポチ!!」

アユミは帰ってきたポチを抱きしめる。怖かったね!守ってあげれなくてごめんね!


「ありえない・・」

続いて口を開いたのはピアだった。

「干渉があったの、私の転送魔法を邪魔する反術。こんなことができる奴が、こっちの世界にいる筈ないのに。」

「・・魔王・・あいつの配下がこっちに来ているんだな?」

エリオットの言葉に、ピアは黙って俯く。

「このままじゃ、帰れない。反術を唱えてる相手を倒さない限り私の術が使えない。」

淡々と、ピアの唇は事実を紡いだ。そんな彼女の様子に、カーティスも項垂れ、溜息を着いた。

「仕方ないな・・もうしばらく、ここで調査を続けるしかない。」

カーティスは言う。

そして三人は息を合わせたように一変に、その視線をこの家に住む少女の方へ向けた。

今なお飼い犬との再会を喜び合っている親バカの姿へ、三人はじっと視線を注いだ。


「後は・・」

気まずそうなカーティスの言葉を、エリオットが引き継ぐ。

「家主である彼女が滞在許してくれるかどうかだね。」

三人は黙り込んだ。多分、自分たちのやったことをこの少女は許してくれない。

 過ぎたテンションの再会シーンを見続けるうちに、

彼らのその予感は、げっそりしそうなほど決定的な確信に変わっていったのだった。

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