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■■第二十章■■
ひぃひぃ言いながら、アユミは歩いていた。もとい、走っていた。
「カーティスさん〜早すぎますよぅ!」
肩で息をしながら、本日何度目かの同じ台詞を吐く。
その度にカーティスは歩く速度を落としてくれるのだが、少しするとまた元の速度に戻ってしまう。
「そうか・・。」
御意の意味で言ってることは理解できるのだが、その言葉すらも、彼が言うと軽い脅迫に聞こえるから反則だ。
背が高いから仕方がないのだろうが、何故か彼の目は常にアユミを見下しているように見えた。
不快と感じる以上に、やはり怖い。
そして怖いから聞けない。先ほどからあなたの背中に現れまくってるその三角形、増えすぎて既に気持ち悪い領域なんですけど、触って大丈夫でしょうか?なんて。
アユミは目の前を歩くカーティスの背中を睨むような形で、歩き続けていた。
三角形の表れるタイミングは、大体、アユミが頼んでカーティスに歩く速度を落としてもらった時だ。
これらの三角にはどんな実況がついてるのか、大変気になっているのだが、何度も言うように、カーティスが怖くて挑戦できない。
「はあ・・。もう、カーティスさんと違って私はチビなんですから。
私に合わせるには、カーティスさん小幅歩き必須ですよ?」
場の空気を和ませたかったのかどうかは自分でも解らないが、思わず着いた溜息と同時に飛び出した軽口に、誰よりもアユミ自身が後悔した。
やべ、どうしよう。明らかに冗談通じない人に冗談言っちゃった。
「・・・そうか。」
カーティスは相変わらずの様子でアユミを見下すと、意外にも本当に小幅で歩き始めた。
ちょっとしたひよこ歩き状態だ。いや、流石にそこまでしなくてもいいっす!
そう伝えるつもりで口を開きかけたアユミは、次の瞬間、目の前の背中に新たな三角が現れたのを見た。
このタイミングなら聞ける気がして、アユミは勇気を出してみる。
「あの・・さっきから、背中に凄い三角出まくってて。すっげー気になるから、触らせてもらいたいんですけど・・。」
言ってみる。カーティスは少し驚いたような顔で・・やはり眉間に凄い皺寄せた顔でアユミを一睨みすると、ぶっきらぼうに片手で、背中についた埃でも振り落とすような仕草をした。
「・・あ、そんな一気に・・」
アユミが驚く暇もなかった、カーティスのガサツな仕草のおかげで、彼の背中に群がってた三角が一気に起動した。
『ピンコーン♪カーティスの優しさが7上がった!』
『ピンコーン♪カーティスの優しさが3上がった!』
『ピンコーン♪カーティスの優しさが5上がった!』
『ピンコーン♪カーティスの優しさが2上がった!』
・・以下略。
「うわあああああ!」
「最後の悲鳴はアユミか?」
騒音としか思えないほどの能力上昇の嵐に、思わず絶叫したアユミに、カーティスは顔を向けることもなく尋ねた。
どうやら、この騒音に驚いたのはアユミだけらしい。やはり恐ろしいくらい冷静な男だ。
「あ、でも優しさのパラメータが上昇しまくってましたね? 実は物凄く私に気使ってくれてたりします?」
ふと気になって聞いてみる。
「・・・そうだな。」
相変わらずぶっきらぼうな返事。
しかし、その背中に再び現れた三角が、彼がただ不器用なだけであることを語っていた。
『ピンコーン♪カーティスの優しさが1上がった!』
ポンとカーティスの背中を叩いて、アユミはようやく笑った。
「よかったー♪カーティスさん、思ってたより怖い人じゃないんですね。シャイなだけなんだ♪」
「・・・あ?」
反射的に、カーティスはアユミの顔を睨みつける。
しかし、アユミはニコニコ笑ったまま、もう一度カーティスの背中を叩いた。
『ピンコーン♪カーティスの優しさが3上がった!』
「この急激なパラメータの上昇は、単にカーティスさんのレベルが上がりやすいからなのか。
普段優しいさパラメータを殆ど鍛えてなかったからなのか。どっちですか?」
「知るか。」
『ピンコーン♪カーティスの優しさが4上がった!』
「・・というか、そろそろ放って置いてくれないか?」
心底疲れきった声を出して、カーティスが頼んできたので、
アユミも今後はこの会話での三角の出現は無視することにする。
「でも、どうして背中にばっかり出たんでしょうね。カーティスさん、男の優しさは背中で語ると思ってる?」
「・・・どういう理屈だ?」
「こっちの世界の渋い男ってのは、その背中で全てを語るものらしいんですよ。」
「そうか。」
・・へへっと、嬉しくなってアユミは笑った。
一応何とか、カーティスとの会話も繋がるようになってきた。
昨日は騒がしいだけに思っていたこの因果律の歪みも、結構役に立つものである。
「カーティスさん、私にあわせて歩くの上手くなりましたね♪」
「・・・あ?ああ。話してると自然とそうなるな。」
「そりゃいいや!じゃあ、話しながら歩きましょうね!」
「・・・好きにしろ。」
背中で語るカーティスは、再びその背に新しい三角を浮かばせて、そう答えた。
それを確認すると、アユミはそっと安堵の息を吐いた。
「ところでアユミ、お前の今日の服とその鞄・・なんだ?」
「え?これ?」
振り向いて尋ねられ、アユミは手に持った通学用の鞄を胸元に掲げた。
「服も鞄も、学校指定のやつだよ。この格好じゃないと、校舎内に入れてもらえないからね。」
今日は時間があれば、校舎内で聞き込みをするつもりなのだと、そう説明してみる。
「・・そうか。確かに敵本体は一度、学校内に現れているしな。」
「うん。やっぱり気になるし。それに、うちの学校の理事長、最近若い女性に代わったって聞いたからさ。」
「若い女か・・」
「ね?怪しいでしょ?」
アユミの言葉に、カーティスは静かに頷いた。
「とりあえず。今日も昨日と同じよう、アユミの好きなように歩いてくれて構わない。」
「え、いいの?だって今日の目的は枯れ葉の親木を探すことじゃ・・?」
アユミは一瞬視線をカーティスの上着の胸ポケットに遣った。そこには、昨日の枯れ葉が一枚、収められている筈だ。
「気にするな。こういうのは意識して探すものではない。」
「いつか説明してくれた。マナが引き合うとか、そういう理屈?」
アユミが尋ねると、カーティスは頷いた。
「探してるのは魔の力の塊。本来俺たちの世界にしかありえないものだ。俺のマナは確実に引き付けられる。」
「・・つまり、カーティスさんの直感が頼りってこと?」
「そういうことだな。」
事も無げにそう断定する様子を見ると、やはり、彼は過去に同じような経験をしているのだと思う。
「そっか。じゃあ安心だね。」
アユミは暢気に笑った。
カーティスは勇者パーティの中で一番見た目が怖いが、同時に一番頼りになることをアユミは理解していた。
「カーティスさんは、この世界で行ってみたい場所とかない?折角だから案内するよ!」
ぴょんとカーティスの前に飛び出して、顔を覗き込んでみる。
カーティスは少し戸惑った顔をした後、答えた。
「それなら、少しこの世界の文明が知りたい。一番発展してる場所に連れて行ってもらえるか?」
■■■■
・・と、いうことで。アユミは今日も再びアーケド街に来ていた。
但し、一緒にいるのはカーティスであり、昨日とはまた違った心境だ。
エリオットは、街の様子が珍しかったのか始終きょろきょろしっっぱなしだったので、今回カーティスがどういう反応をみせるのか、密かに楽しみだったりする。
「なるほど。賑やかだな。」
街に踏み入って第一声。カーティスの言葉はそれだった。
・・あれ?もしかして驚いてない?
「昨日のエリオットさんは、凄いびっくりしてたのに。」
不満気味にそう呟いてみる。
「何か言ったか?」
先を歩いていたカーティスには聞き取りにくかったらしい。
「ううん!何でもないっす。」
そう答えて、アユミは駆け足でカーティスの横に並ぶ。
彼の横顔を見ながら、アユミはふと疑問を抱いた。彼は一体どこに行くつもりなんだろう?
カーティスはどうも、この街を見物しに来たわけではない様子だ。エリオットのようにキョロキョロしてない。真っ直ぐ前を見て歩いている。これは何か明確な目的があるとしか思えない。
不意に、カーティスが立ち止まった。真剣な表情でしばらく目の前の建物見上げると
「・・ひゃく・・か・・みせ・・?」
呟いた。
「お?」
カーティスの視線の先を確認する。そこには地元の百貨店の看板が掛かっていた。
「読めるんですか?」
驚いて尋ねる。
「ゲームで覚えた分だけだ。この世界の文字はまだ殆ど読めない。」
・・いや、それだけでも充分凄いと思うけど。やっぱりこの人は頭良いんだなと実感した。
「あっちの文字は読めます?」
「か・・もの・・や?」
果物屋だ。
「あれは?」
「うつくし・・よう・・しつクリスティーヌ」
美容室クリスティーヌ。どうやら、カタカナは既に網羅していたようだ。
「すっごいや!もうこんなに覚えたの!?」
興奮気味に、アユミは褒め称える。
「これくらいは普通だろ。」
しかしカーティスはつまらなそうにそう言うと、さっさと歩き始めてしまった。折角感動してたのに、この反応じゃ味気ない。
「あっ!待ってくださいって!」
アユミは慌ててカーティスの後を追う。本当に、彼はどこに向かっているんだろう?
カーティスは幾度も横道に入るので、気がつけば既にここはアーケード街ではない。
薄暗い裏路地、怪しい露天商とたむろするヤンキーが目に付くデンジャラスゾーン突入だ。
しかも困ったことに、強面のカーティスは、先ほどから周囲の人の視線を集めすぎている。
「ち・・ちょ。ここ、ヤバイですって。めっちゃ睨まれてますって!」
蚊の鳴くような声で、アユミはカーティスに囁く。
「そうか。」
しかしカーティスは一向に気にする様子もなく、道を引き返す様子もない。
・・ひぃ。怖いよぅ。
泣きたい気持ちのアユミは、せめての慰みにと、カーティスの上着の袖を掴んでみる。
アユミが怯えきってるのに気づいてか、カーティスは抵抗しなかった。
怖い怖い怖い。早くこんな場所抜けたい。
顔を伏せ、周囲の視線を避けていたアユミは、目の前に現れた人影に気づけなかった。
――ドンッ
「・・ッテエなあ!」
昼間から酔っ払っているのか、赤ら顔のおじさんが、カーティスに肩をぶつけて来たのだ。
そしてこのおじさん、派手なスーツにパンチパーマといった出で立ちで、明らかにあちらの世界のお方。
加えて最悪なことに、これをきっかけに、先程からカーティスをじろじろ見ていたヤンキーたちが数名、ニヤニヤ笑いながら集まってきた。
「おめぇ、なに堂々と道の真ん中歩いてやがんだ!
ここをどこだと思ってやがるココハ ヤークザドオリ ダヨ!」
――・・・ん?なんだ今の語尾。
一瞬目の前のおじさんが機械的な声を発したことに、アユミは違和感を感じた。
しかし、その違和感も一瞬だけで、直ぐにもとの怖いおじさんに戻ってしまってる。
クドクドとカーティスに絡むのをやめないその様子に、流石に危機感を感じた。
「・・てか、やばいって・・!」
アユミは思わずカーティスの腕を握った。これは逃げた方がいい。
しかし、カーティス当人はというと、目の前にいる自分よりずっと背の低いおじさんよりも、自分の手の甲に現れた新しい三角の方に興味が行ったようだ。
「今度はなんだ・・?」
そう呟き、自らその三角に触れる。
『ピンコーン♪《所持金+3万マガ》成功率90%チャレンジしますか?』
「え・・?」
アユミは間抜けな声を出した。
「何の事だ?」
カーティスは理解に苦しむといった様子だ。
「オイ兄ちゃんよ、無視してくれてんじゃねぇよ。謝罪の言葉もねえ・・」
――ドスッ
「っきゃ!」
突然、カーティスの片腕が空を切った。次の瞬間見えたのは、アユミが掴んでた方とは反対の腕の肘が、おじさんの顔面に突き刺さってるという衝撃的な光景。
『・・・!』
周囲のヤンキーたちが息を呑んだのがわかった。
目の前のおじさんは数瞬後、鼻血を垂らしながらズルリと地面に臥した。
これは間違いなく、気絶してる。
「か・・カーティスさん、これ・・ヤバ・・!!」
テンパって、なにを言えばいいのか分からない。
ただ、この事態が非常にマズイことだけはわかる。今彼は、倒しちゃいけない人、倒しちゃったんだ。
「チャレンジって・・こういうことなのか?」
カーティスは相変わらず、自分が倒した相手のヤバさも知らずに、
興味深そうな顔で、倒れたおじさんの前で腰を落とすと、おじさんの懐を漁った。
――え?
多分、アユミも周りのヤンキーたちも、この瞬間だけ、思いは一つだった。
「・・カーティスさん、何やってるの?」
そしてその思いを口にすることができたのはアユミだけで、ヤンキーの中の一人がアユミの言葉に無言で頷いていたのが視界に入った。
カーティスは今、おじさんの懐から高級そうな皮の財布を抜き取り、ようやく顔を上げた。
「何って、何がだ?」
財布の中の紙幣を確認し、三枚選び出すと、カーティスは周囲の戸惑いが一切理解できないというように眉根をを潜めた。
立ち上がり、周囲に群がる派手な頭をした若者を睨みつける。
誰よりも青ざめた顔をしていた一人の青少年に向けて、カーティスは残りの財布を投げつけて遣ると、アユミの手を引き、踵を返した。
「行くぞ。」
「ええ!?」
今の行動に関する説明はなしですかい!?アユミは戸惑いながらも付いていくしかなかった。
――ごめんなさい!おじさん本当ごめんなさい!
心の中で必死にそう謝罪する。恐怖の余り、生きた心地がしなかった。
アユミの唇は青ざめ、カーティスに掴まれた掌は小刻みに震えている。
流石に、ここまで狂人染みた行動をしたカーティスを追いかけてくるような兵はいなかったが、アユミはこの後の報復が怖かったのだ。
だって相手はヤのつくお方だよ。絶対このままじゃ済まない。
そんなアユミの不安に気づいたのかどうかはわからないが、黙ってるアユミに対して、カーティスは言った。
「大丈夫だ。あいつらは直ぐに俺たちのことを忘れる。何が起きたかも覚えていないだろう。」
心なし柔らかい声のような気がする。アユミは恐る恐るカーティスの顔を見上げた。
珍しく、カーティスはアユミの目を見て、話してくれた。
「ピアほどではないが、俺も少しは魔術を齧っている。あの程度の記憶操作くらい簡単だ。」
・・そうなの?と首を傾げたアユミに、カーティスは頷いて見せると。
「・・ここくらいでいいか。」
と、裏路地から大通りに繋がる境目に立ち、今歩いてきた道に向き直った。
「アユミは俺から離れて、大通りのほうに出ておけ。」
そう指示されて、アユミは大人しく従い、何やら呪文を唱え始めたカーティスの背中を見つめた。
どうやら、先程の事件に関する記憶を消す魔法を発動させているらしい。
「フ・・ッ・・!」
息を呑み、カーティスは右手の人差し指と中指で、空を切る仕草をした。
途端、ほんの一瞬、瞬きすれば気づかない程の間だけ自分たちの歩いてきた裏路地が赤い閃光に包まれたのがわかった。
呆けて立ち尽くしているアユミの前に、カーティスは何食わぬ顔して戻ってくる。
「終わりだ。行くぞ。」
「あ・・。」
アユミが我に返るより先に、カーティスは歩き出してしまう。
「ちょ・・!待ってよぉ!」
安心の余り、ちょっと目を潤ませながら、アユミはカーティスを追いかけた。
先を歩くカーティスは、まるで最初からその店を探していたかのように、迷いなく一つの店舗に吸い込まれていった。
アユミも急いでその店の扉を潜る。どうやら、男性向けのアクセサリーショップのようだ。
店は、民家の車庫を改造したくらいの広さで、店内にはガラスケースに入ったアクセサリーで満ちている。
アユミにとっては普段来ることのないジャンルの店である。カーティスはここに何の用があるのだろうか?
店内を目で探る。決して広くない場所なので、直ぐにカーティスの姿を見つけることが出来た。
店主のおっちゃんと話しながら、ガラスケースの中の商品を睨んでいるその背後に、そっと近づいてみる。
「その指輪良いやろ?今一番よく売れてて・・」
関西訛りの商人トークに相手に、カーティスは商品から目をそらさず尋ねた。
「・・で、効果は?」
「MPの消費量を半分に制御デキルヨ。」
うぉおおい。と、心内で突っ込みの手刀を放ってみる。
何だこれ、普通指輪にそんな効果ないだろ。この店にも因果律の歪みが起きているのか?
「そういえば、さっきの怖いおっちゃんも、ちょっとおかしいこと言ってたよね・・。」
あの時はこの通りはヤクーザ通りだとか、そんなふざけた事を言っていた気がする。あれも、カーティスの引き起こした因果律の歪みだったのだろうか。
思い返せばあの言葉はゲーム内によくある台詞である。RPGなら、どの町に行っても必ず一人はいる、案内役キャラの台詞だ。
そして今度は、この店のおじさんがRPGで定番の店主の台詞を言っているわけか。
わあ。因果律って面白ーい。なんて、呆れ半分に思いながら、アユミは目の前の遣り取りを観察し続けた。
「じゃあこっちのピアスは?」
「戦闘中、5ターンごとに体力の10パーセントずつ回復スルヨ。」
「この腕輪。」
「毒避けの効果がアルヨ。」
カーティスは店主にそうやって一通りの商品を説明してもらった後、
「じゃあこの指輪と、こっちのブレスレッドを貰おうか。」
先程怖いおっちゃんから奪った紙幣を使って、剣をモチーフにした銀細工の指輪と、黒曜石の十字架が連なったブレスレッドを購入してしまった。
「毎度!それと、武器や防具は装備しないと意味がナイヨ!」
親切なくらい定番な情報を与えてくれた店の主人に、アユミはひきつった笑顔でお辞儀してから、カーティスに次いで店を出た。
「なに今の!?」
店の外に出て直ぐ、アユミはカーティスに疑問をぶつけた。
そしてカーティスは、既にアユミが質問を予測していたのだろう。淡々とした様子で説明してくれた。
「ゲームから学んで、少し因果律を操作させてもらったんだ。
ゲーム内にあるアイテムを、こちらの世界の特定の店舗で購入できるよう仕組んだ。店の場所自体は俺のマナで探したんだがな。」
「ふぇ。そんなことまで出来ちゃうんだ。カーティスさんは凄いね!」
心底感心してしまう。カーティスは少し肩を竦めてから言った。
「仕組んだのは俺じゃなく、ピアだ。昨日のうちに頼んでおいたんだよ。」
「ピアちゃんかぁ・・やっぱ万能なんだね、彼女は。」
今度はピアへ感嘆の溜息をつきながら、
・・それで、今買ったアクセサリーは何に使うの?と聞いてみる。
「ああ。そういえば装備していないと効果がないんだったな。」
思い出したように、カーティスは持っていた店の紙袋を開いた。
中から取り出された銀の指輪と、黒いブレスレッドをアユミはマジマジと見つめる。
「これはどういう効果があるの?」
「指輪のほうは攻撃力の増幅装置だ。ブレスレッドは防御力を上げる。」
うーんと、アユミは唸った。これは明らかに、戦闘用だ。
「やっぱり、今日は戦うことになると思うの?」
恐る恐る聞いてみた。カーティスは当然のように頷いた。
「俺には敵に対して攻撃の意思があるからな。俺の行動を黙って見ているほど、敵も馬鹿じゃないだろう。」
言いながら、カーティスは銀の指輪を装着する。
装着した指輪の前に例の三角が現れたので、カーティスはそれに触れた。
『ピンコーン♪カーティスの攻撃力が100上がった!』
「おお!上等なアイテムじゃん!」
急激に上がったパラメータに、アユミも軽くテンションが上がる。
「もう一個もつけるんでしょ?」
そう促すと、カーティスはブレスレッドをしばらく眺めてから、首を横に振った。
「これは、お前がつけてろ。」
そう言って、ブレスレッドをアユミの手に落とす。
冷たい鉱石の感触が掌に響いた。
「・・え?」
驚いてカーティスの顔を見つめる。カーティスは自分の指輪の装着状態を確かめながら言った。
「敵はお前を攻撃することはない・・とは思うが。用心しておくに越したことはない。
それは敵からの攻撃を防いでくれるだろう。装備しておけ。」
「でも、カーティスさんはいいの?」
「俺は元々強いんだよ。」
心配するアユミに、カーティスは堂々とそんな返答をかました。
強敵相手に何この余裕。相当自分の腕に自信があるらしい。しかし彼が言うのだから、間違いないのだろう。
「じゃあ、ありがたく頂きますね。」
断る理由も見つからないので、アユミは丁重にそのブレスレッドを左手首に装着した。
男物にも関わらず、サイズはアユミに丁度良かった。
これだと、カーティスには小さすぎるだろうから、最初からアユミに渡すつもりで購入してくれたのだ。
「・・アユミ。そろそろ日が高くなってきたが。」
不意にカーティスが空を見上げた。
「お前は昼飯が必要だろう。どうする?」
そういえば、昨日の探索ではつい昼飯を食べ損ねてしまったのだった。
アユミはカーティスに頷いて答える。彼には悪いが、少し食事の時間を取らせてもらおう。炎天下を歩き回るのに栄養補給は必須だ。
「街の方に戻ってもらっていい?あっちなら安い店が多いから・・」
と、そこまで言ってから、アユミははっとして、付け加えた。
「でも、あの裏路地はもう通らないからね!ちょっと遠回りになるけど、
別の道から行くよ!」
「了解した。」
カーティスは何考えてるのか一切読めない無表情で頷くと、今度はアユミの後に付いて歩き始めた。