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35p

■■第十七章■■

「・・・これは?」

 目の前には紅の柱。いや、これは門なのだろうか。

エリオットの左右には太い円柱の柱が聳えており、その柱を見上げれば、二本の柱を繋ぐ二本の棒が見える。

その奇妙な形の門は、エリオットにとって今まで見たことのないもので、少し怖いような気がした。


 エリオットたちが学校を抜けてしばらく歩くと、魔法陣は再び反応し、左手に見える長い石段を指した。

それに従い、石段を上がると、突然、目の前に赤い門が現れたのだ。

 日は暮れ始めており、既にそこは紅の影に覆われている。

目の前に聳えたつ紅の門は、そんな日の光の中で、一際不気味な影を落としていた。


「これはね、鳥居っていうんだよ。神様の世界と、人間の世界の境目を表す役目があるみたい。」

エリオットの隣で、同様にその柱を見上げていたアユミが、そう教えてくれた。

「神様・・・?」

アユミに促されて、門を潜ったエリオットは、その先にある古びた建物を見た。

木造の・・この世界の民家によく似ていると思うのだが、家の前に置いてある大きな木箱と、その真上の屋根にぶら下がる銅の鈴、釣り下ろされた紅白の綱が明らかな違和感を放っている。


「ここはね、神社っていうの。・・・えーと・・」

耳慣れない言葉に首を傾げたエリオットに気づいたアユミは

「この国にある・・教会と似たようなものかな?」

と、説明してくれた。

「ああ!教会ね!」

馴染みのある言葉で、ようやく納得する。教会なら、エリオットたちのいた世界にもあった。

 不意に、アユミは悪戯っぽく笑ってみせる。

「ただし!ここでは冒険の記録もつけられなければ、毒の治療もできません♪」

「え!?できないの!?」

自分たちの居た世界とは異なる常識に、エリオットは思わず声をあげた。

アユミはどうやら、その様子が面白かったらしく、ひとしきり笑い声を上げた後、ちょこちょことエリオットに歩み寄って、エリオットの手元、魔法陣を覗き込んだ。


「・・って、笑ってる場合じゃないんだよね。これ、どうなってるの?」

アユミに言われて、エリオットも魔法陣に目を落とす。

先程まで一定の方角を指し示していた筈の魔法陣の矢印が、この神社に着いた途端、再びグルグルとひっきりなしに回転している。


「・・敵を、見失ったんだと思う。」

 気が抜けたような、ほっとしたような、微妙な気持ちでエリオットは答える。

魔法陣はエリオットの目の前で、回転を止めると、徐々にその輝きを失い、ただの黒いペンで書かれた模様に戻ってしまった。

「ええ!じゃあ、行き違いになっちゃったのかな・・」

アユミも、エリオットと似たような心境なのだろう。残念そうな口調の割りに、その表情は安堵に満ちていた。

「多分ね」とエリオットは頷いてみせる。

「この神社の近くで、敵は魔法を発動させたみたいだね。」

「・・・あれ?」

敵の姿を探してか、辺りをきょろきょろ見回していたアユミが、突然声を上げた。

アユミの視線は神社の前にある大きな木箱に集中している。

「何でだろう・・?」

そう呟きながら、アユミがその木箱の方へ駆けていくので、慌てて後を追う。

「どうしたの?」

尋ねてみると、アユミは不思議そうな顔をこちらに向けて、木箱の下に積み重なった、数枚の枯れ葉を指差した。

枯れ葉自体は珍しいわけではない。神社の周りには数本の背の高い木が生えており、風が吹けば、その木の葉が辺りに舞う。


「・・本当だ、変かも・・。」

 しかし、そこに積み重なっている枯れ葉にはエリオットも違和感を感じた。

周囲に生えている木は、全て扇型という特殊な形の葉を茂らせているにも限らず、目の前の枯れ葉はありふれた涙型。


「イチョウの木の下になんでこんなのが落ちてるの?」

アユミはそう言い、涙型の枯れ葉を一枚拾い上げると、再び辺りを見渡した。

「どこからか飛んできたのかな・・。」

「いや、違うと思うよ。」

エリオットも、足元から一枚の枯れ葉を拾い上げる。

そこに落ちている数枚の枯れ葉は全て、綺麗な涙形のまま、虫に食われることもなく、褐色に染まっている。

まるでドライフラワーのように整ったその姿には、違和感を感じた。

それに、エリオットはこの葉をどこかで見たことがあるような気がしたのだ。


――とりあえず、カーティスに見せてみよう。

 エリオットはそう思い、魔法陣と共に枯れ葉をポケットにしまった。


「ありがとう、アユミちゃん。日が暮れてきたし、今日はもう帰ろうか。」

隣で自分の顔を見上げているアユミに、そう笑いかける。

アユミはエリオットの言葉に笑って頷いたかと思うと、次の瞬間、

「・・そうだ!」

何かを思いついたように、ポケットの財布から、銀貨を一枚取り出した。

そしてその銀貨を大きな木箱の中に放り投げると、両手で紅白の綱を揺すり、銅の鈴をガランガラン鳴らした。

「エリオットさんたちが、魔王に勝てますように!」

手を合わせて、そう願いを口にする。


「・・アユミちゃん・・?」

 驚いて彼女の名前を呼ぶと、アユミは振り返り、にっこりと笑ってから教えてくれた。

どうやら、ここに祭られている神様というのは、地元の高名な武将だったらしく、祈れば勝負運が上がるとか。


「へぇ!それはいいや!」

 是非ご利益にあやかりたいと、エリオットも真似して手を合わせる。

――敵に勝って、元の世界に戻れますように・・!

目を瞑り、強く願って、再び瞼を開く。きょとんとしたアユミの表情がそこにあった。

「・・?」

無言で額を指差されて、彼女の意図に気づく。

今朝から何度も、自分の身体の上に謎の三角形が現れていたというが、それがまた出てきているらしい。

興味深々なアユミの様子に、エリオットは無言で頷くと、少し首を屈めて、アユミに額を触れさせた。


『ピンコーン♪《武器+聖剣Lv50》チャレンジしますか?』

「チャレンジ・・?」

聞こえてきた言葉に、首を傾げるアユミ。

「聖剣って・・?」

エリオットも首を傾げた。すると、今度はその首のところに三角形が現れたらしい。

アユミに触れてもらうと、再び声が聞こえてきた。


『ブブー♪エリオットにはスキルが足りない!』

――スキルって・・なんだ?

エリオットと同じ疑問を感じたらしい、

「・・スキルってなんだよ・・。」

ぼそりとアユミが呟く声が聞こえた。

・・・どうやら、その後三角形が出てくる様子はなかったようで。

エリオットは消化不良な感覚を抱きながらも、「行こう」と、アユミに促されるままに、元来た鳥居を潜り、神社を出た。





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