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■■第十一章■■
新しい一日の始まり。
アユミはまだ気だるい身体を精一杯伸ばして、ベランダに向かう。
時は六時で、外にはまだ朝焼けの気配が残っている。
アユミはこの時間の空が好きだった。
「おはよう!ポチ。」
ガラリとガラス戸を開け、そこにいるポチに話しかける。
「わん♪」
まるで挨拶を返すように、ポチは一声鳴いて、アユミを振り返った。
ベランダの柵の前に座り込んで、朝日に照らされた町並みを眺めるポチの様子はどこか人間くさい。
「散歩に連れて行けてないもんなあ・・。」
アユミはポチの隣にしゃがみこんで、一緒に眼下の景色を見つめる。
片手でポチの頭を撫でてやると、ポチは嬉しそうに喉を鳴らした。
「外に出たいよね。早く皆の敵がいなくなればいいね。そしたらいっぱい、散歩できるね。」
もうしばらくしたら、トウヤが動き出してくれて、また新しい発見があるだろう。
敵の居場所へは、きっと確実に近づいていけてる。アユミにはよくわからないが、他の三人の様子を見る限り、順調なのだと思える。
「さ、今のうちに洗濯物干しちゃおう!トウヤさんが動いてる間は、ベランダに出れないしね。」
ぽんっとポチの白い毛並みを軽く叩いて、アユミは立ち上がった。伸びをもう一度。
この時間だけは、エリオットたちが来てからも変わらず、平和なように思えた。
――ピピピッ♪
不意に、アユミのポケットの中の携帯が音を立てた。
「おわっ!」
ちょうど伸びの最中だったせいで、一瞬前のめりに倒れかけてしまったが、なんとか立ち直す。
「こんな時間から・・誰だよー・・」
悔し紛れにブツブツと呟きながら、アユミは携帯を確認する。
メールが一件届いたようだった。
『FROM:トウヤ』
「・・・え?」
そしてその文面は、アユミのこの幸せなひと時を完璧にぶち壊すものだった。