11p
自室に入って即、椅子に座り、パソコンの電源を入れる。早速検索サイトに接続し、キーを打つ。
「SYNAPSE FANTASIA・・っと。」
エリオットたちと関係する筈のゲームの名前を入力した。
手元のゲームディスクは消えてしまったが、最近発売されたゲームだ。公式サイトとか、レビューサイトとか、ある筈だ。
アユミはそれらからこのゲームの世界の情報を得ようと考えていた。だがしかし・・
「・・げっ。ない。」
検索結果、ヒットなし。いや、あるにはあるが、ゲームとは関係ない、ただ単語が合致しただけのサイトのようだ。
「な・・なんで?なんでどこにもないの?」
アユミは慌ててネットの海を探索した。しかしどこにも見当たらない。
ゲーム会社の公式サイトはあるのだが、『SYNAPSE FANTASIA』の文字はどこにもない。
このゲーム会社の最新作の名前は 『STORY OF LAIN 』らしい。名前も内容も、『SYNAPSE FANTASIA』にかすりもしない。
・・そんなわけないのに、そのゲームは確かに昨日まであった筈なのに。そこまで考えてアユミははっとした。
「もしかして・・因果律が歪められてるの?」
過去と未来が一致していない。これは因果律の歪みだ。ふと、アユミは自分がゲームの存在を疑問に思い始めたことに気づいた。
「そんなわけない!だってあの人たちがこの家にいるじゃない!」
頭を振って、その雑念を払う。あのゲームはあった、アユミはそれを通して、彼らの姿と名前を知ったのだ。
必死で、昨日やった「SYNAPSE FANTASIA」の記憶を辿り寄せる。気を抜けば、そのゲームの名前すら頭から飛び去ってしまいそうだった。
「やばい・・覚えてるうちに、何か書き残さないと・・」
アユミはパソコンからテキストエディタを立ち上げようとした。
しかしついうっかり、いつもの癖で、アユミは自分のブログを立ち上げてしまっていた。
「あっ・・?」
アユミは気づいた。最新日記にコメントが一件入ってる。好奇心に勝てず、コメントの内容を表示させた。あったのは期待していた通り、トウヤからのコメント。
『FROM:トウヤ
あはは。何か大変な事態が起きちゃったみたいだね?
とりあえず楽しんでいるのなら何よりだけど、
世の中、色んな種類の人間がいるから、初対面の相手なら気をつけてほしいな。
実は俺、もう直ぐ夏休みに入れるので、その間は帰省して、実家で過ごそうと思っています。
しばらくは「ご近所さん」になるわけだし、
困ったことがあったらいつでも頼ってくださいね。』
「トウヤさん・・こっちに戻ってくるんだ。」
思わず呆ける。もしかしたらこれでトウヤ本人と会う機会があるかもしれない。憧れていたあのトウヤと・・・。
「・・って、違う違う。こんなこと考えてる場合じゃないんだから!」
我に返ったアユミは、とりあえず、急いでテキストエディタを立ち上げた。
覚えている範囲の『SYNAPSE FANTASIA』の世界観やストーリーを書き出し、念のため、引き出しの中にあったノートの紙を一枚破り、そこにも同じ内容を書き写した。
なんとなく、パソコン内のデータというものに不安を感じたのだ。
根拠はないのだけど、電気機器って魔法とかに弱そうな印象がある。何がきっかけでデータが消えるかわからない。
アユミは『SYNAPSE FANTASIA』の内容を書き出したノートの紙を持って、部屋をうろついた。
「うまい置き場所はないかな。もし、私がこのこと忘れちゃっても、かならず見つけられる場所・・」
その目が本棚に差し掛かった時、アユミは一冊の本を見つけた。それは昨日、ピアが寝る前に眺めていたファンタジー漫画だった。
「おあつらえ向きよね。」
漫画の表紙にいるのは勇者と戦士と魔法使いのパーティで、あの三人を連想させる。アユミはその漫画を取り出し、紙を挟みこみ・・次の瞬間、手を叩いて叫んでいた。
「・・・そうか!この手があったんだ!」
絶対に良いアイデアだ。そう確信したアユミは急いでパソコンの前に戻ると、先程のブログを開き、キーボードを叩き始めた。最新記事を投稿するのだ。
アユミは直ぐに記事のタイトルを入力し終えた。そのタイトルは・・
『助けてください、トウヤさん!』