表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コズミックトラベラー  作者: 星野 ラベンダー
Chapter2「未來の秘密」
45/409

phase3.1

 先頭に立って美月が外に出、その後に続いて、ぞろぞろと皆が出てくる。待っている間、ふいに自分達が今までいた宇宙船を見上げた。


 焦げはすっかり取れて、船中に出来ていた凹凸も平坦になり、ショートして剥き出しになっていた配線も内側に収まり、すっかり見違えるような船になっていた。曇っているので陽の光は出ていないが、船の色である白が眩しく見えた。


「ハルの宇宙船、もうすっかり元通りじゃない?」

「外見はな。飛ばす為のエンジンは壊れたままだし、エネルギーも代替品があるかどうか……」

「でも見た目だけでも綺麗になるだけで、だいぶ違うよね、ハルさん、こんなに格好いい宇宙船に乗ってたんだなあって、感心しちゃうよ」

「へえ、そんなにひどかったの?」


 未來がここに来るようになったのはつい最近のことなので、今までの悲惨な見た目な宇宙船のことを知らない。美月は簡潔に、「黒焦げのでこぼこよ」と教えた。


 初めてぼろぼろの宇宙船を目の当たりにしたときの衝撃は、今でも忘れられそうにない。


「まだまだだが、それでも外見だけでも修復できて良かった」


 梅雨で雨の降りしきる中、夜の暗闇の中。ひたすら黙々と修理をする日々と聞いた時は、さすがに美月も何か力になれることはないかと思った。


だが結局何を言っても、「私とココロを守ってくれている以上、これ以上ミヅキとソラに危険な目には遭わせられない」と、断固として譲ってくれなかった。一人で全部やり遂げたので、もう何も言えないが。



しばらく歩いたところで、突然プレアデスクラスターが「ピーイ!」と甲高く鳴いた。


 ぴょんと美月の腕からジャンプし、四つ足で駆け抜けていく。

周りのことも、美月達のことも忘れてしまったかのように、突き進んでいく。一瞬だけ見えたプレアデスクラスターの目は、きらきらとというよりぎらぎらと表現したほうが良かった。


 小走りで追いかけると、すぐに見つかった。落石か、握り拳くらいの大きさの石が落ちており、その前に立ち止まっていたのだ。ぷるぷると、小刻みに身体を震わせている。


「ピューーーイ!!!」


 遠吠えか、それとも雄叫びか。それくらい高く大きな鳴き声だった。ざわざわと木の葉のさえずる音が共鳴し、様々な鳥の声が上空からこだまする。

プレアデスクラスターは小さな体躯をジャンプさせた。真っ白い毛がふわりと舞う。


ゴリ。


 聞いただけで自身の歯が欠けてしまうのではと案じてしまうほど、硬い音が全員の耳に届いた。


「ピュウ! ピュウ!」


 トカゲのような尻尾を根元からぶんぶんと振りながら、がりごりという音を立てて、石にかじりついていく。


 近くに寄って見てみると、実に幸せそうな顔をしていた。幸せそのものが具現化されたようだった。


 一口を運ぶまでが長い。恐れすら抱いているのではと思う程ゆっくりと口を開けながら近づき、歯をつけるとぱくりと口を閉ざす。咀嚼の時間も長いし、一口飲み込んではじたばたと手や足を動かしている。人間とほとんど変わらなく見えた。


 石一つ食べ終わるのに、かなりの時間を要した。

あまりにも美味しそうに食べるものだから、何の変哲もないその辺に転がってる石が、妙に美味しそうに見えてきたのだから不思議だ。


「ピィ……」


 他にも似たような石は転がっていたが、食べる気配はない。ひっくり返っているその表情は、実に恍惚な笑みだった。


「どうやら、石が好きみたいだね」

「うーん……。凄い美味しそうに食べてたな……」


 穹の台詞に、美月は躊躇いがちに頷いた。

お弁当の時も美味しそうに残さず食べてくれたが、それ以上の反応だった。何となく源七の料理が負けた気がして、美月は少し悔しく感じた。


「プレアデスクラスターの主食は隕石や小惑星。地球の鉱物が好みの味であったとしても不思議ではない」


 その意図ではないだろうが、何だか慰めてくれたように感じ、美月はハルにありがとうと言った。ハルはぽかんと口を開けたが、「どういたしまして?」と疑問形で返した。


 ひっくり返ったまま、眠くなってきたのかうとうとと目を閉じるプレアデスクラスターを、再び腕の中に収める。


すうすうという小さな寝息を立てながら、ぴくぴくと、閉じたままの羽根を動かしている。空を飛ぶ夢でも見ているのだろうか。


「シロ、すっかり寝ちゃったなあ」


 頭をゆっくりと撫でていると、自然に口からそんな言葉が転がり出た。

「え、シロ?」


 聞き間違いか何かだろうかと怪訝そうに聞いてきた穹に、うんと美月は頷いた。


「仮の名前みたいなものよ。やっぱり無いと不便だし」

「そっかあ。美月はプレなんとかさんのことをシロと呼んでるんだね。いや~それにしれもいい寝顔だね、プレなんとかさん! 撮りたいところだけど、ここはシャッター音で起きちゃったら可哀想なので我慢だね。ああでも可愛いなあ、プレなんとかさん」


 美月と穹は、思わず苦笑いを浮かべた。『プレなんとかさん』が一つの正式名称に聞こえる程だ。未來の中には、プレアデスクラスターという名前は存在していないのかもしれない。何度教えて一度リピートさせても、次の瞬間になると、未來は「プレなんとかさん」と呼んでいる。


「ほら、未來なんて全然名前覚えてないじゃん」

「どうも長いカタカナの名前は覚えづらくて……」


 未來は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「私もシロって呼ぶことにしようかな! これだったら覚えられるし!」

「ハルはどう思う?」

「良いのではないか?」

「ココロは?」

「い~!」

「じゃ、もうシロでいいかな。満場一致で」

「ちょっと待ってよ!!!」


 穹は否を唱えた。全員の視線が集まると、穹は少し口ごもったが、いやいやと首を振って続けた。


「やっぱりさ、名前ってそんな適当につけちゃダメだよ! もっと考えようよ!」


 美月はこんなに名前にこだわるような奴だったろうかと訝しんだ。この感じだと、もしかすると何かに影響されたのかもしれない。


「どうしたの、穹。なんか読んだ?」

「この前読んだ本にさ、名前は大切だみたいなことが書かれてあって……。もうね、格好いい名前ばっかり出てくるんだよ! ってあれ、なんでわかったの?」


 わかるわ、と美月は心の中で突っ込んだ。


「名前をつけるということはね、そのひとがそのひとだとわかる、いわば印のようなものなんだよ。この子がこの子だと、聞いただけでわかる、伝わる。名は体を表すの言葉通り、この子だけの持つ個性が前面に押し出た名前にしたいんだ」

「確かにソラの言うことにも一理あるな」


 珍しく熱弁しているので、美月は興味が沸いてきた。しかし美月が聞く前に、未來が「どんな名前を考えているの?」と好奇心の隠しきれない目で尋ねた。


「実は、色々考えてあるんです。毎日ノートに案を書いてて。例えば……」


 しばらく目を閉じて思案したあと、思い出したのかかっと見開いた。


「ミルキーとか」

「うんうん」

「シリウス、ポラリス、オリオン、」

「……ん?」

「アリエス、タウラス、ジェミニ、キャンサー、ヴァルゴ、リブラ、スコーピオ、ピスケス、カプリコーン、アクエリアスに……」

「ちょっと待って待って!!!」


 何か方向性がおかしい。

美月が止めても、穹はまだ喋り続けていた。どんどんエスカレートしていき、やがてそれは大変な言語へと進化していった。


「で、白銀しろがねって書いてアルギュロスとか、閃光翼と書いてシャイニングフェザーとか……!」

「ハル、穹を止めて! これ以上歴史を作ってしまう前に!」

「ソラ、やめなさい」

「ってなにさ良いとこだったのに……」


 興奮していたのか、頬は紅潮しており、息も上がっていた。その状態で止められたので、穹はひどく不満げだった。隙あらば、また語り出そうとするような、油断の無さも感じられる。


 穹の気持ちもわかる。この子には、格好いい名前をつけてあげたい。だが、限度というものがある。ここは姉として、しっかり導いてやらねばなるまい。


「もうこの子見てるとさ、シロ以外思いつかないんだ。名は体を表すの言葉通りだよ。全身白いし、シロで良いじゃん」

「ダメ!!!」

「ミヅキ、その理論は適当すぎる」


 あまりにも凝った名前は、どこか違う気がするのだ。この子には合わない気がするのだ。しかし、それを言葉にして伝える術が、見つからない。


「プレアデスクラスターなんていうせっかく格好いい種族名なのに! 平凡な名前じゃ勿体ないよ!」


 駄々っ子のようにぶんぶんと首を振る穹に、美月は冷徹な目を向けそうになるのをかろうじて堪えた。その気になれば手足をばたつかせそうな勢いの弟に、引く以外の感情が思い浮かばない。


「ちょっと家からノート取ってくるから! 見せるから、姉ちゃんや皆が良いと思う名前、選んでよ!」

「穹、その行動は物凄い自殺行為だよ!」


 なんのこっちゃと、穹は訝しんだが、すぐに走り出した。ばたばたと山を駆け下りていく。小さくなっていく背中を、止めようとは思わなかった。


 ここは姉として、広い心を持って、好きなように、気の済むようにやらせてあげねば。

冷たい目から一転、菩薩のような暖かい眼差しを向けたときだった。


ドオオォォォーーーーーーン!!!!!!!


 後方から、とてつもない衝撃音が聞こえてきた。

ぐらぐらぐら、と地面が揺れた。木が揺れ、鳥は飛び去り、風が逃げるようにして吹き抜けていった。


 穹がこちらに戻ってきた。美月達も駆け出していた。


 音のする方向。勘違いでなければ、間違いでなければ。

それは、ハルとココロの住む、宇宙船のある方角だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ