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コズミックトラベラー  作者: 星野 ラベンダー
Chapter2「宇宙船で暮らす人々」
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phase7「脱出せよ、危難の船団!」

 『話している時間はない。とにかく厨房から出るんだ。他の者にも言った。とにかくコズミックトラベラー号に行きなさい。一刻も早くだ』


 畳みかけるように言われ、通話が終わる。真っ黒になったコスモパッドの画面を見つめていたが、すぐに振り向き「私、トイレに行ってきますね!」と早口で告げ、厨房から飛び出した。


 美月の台詞を誰も信じていないことは、全員の無表情の瞳からわかった。


 ハルの言葉をすぐに受け入れたのは、美月も感じていたからだ。あの場にこれ以上いてはいけないことを。しかし自分は今、何から逃げるべきだと感じているのか。


 厨房を出て食堂を通り、通路に飛び出す。そのまま走っていると、突き当たりの角からハルの声と、がんがんと何かを叩く音が聞こえてきた。


「一体、どういうことだ!」


 ハルは両開きの扉の前に立ち、その白い扉を叩き続けていた。扉の傍にはインターホンのような装置があり、そこに向かって声を張り上げていた。確か、コックピットへ向かう通路と繋がっている扉だと説明されていた。


「なぜ黙り続けている! 説明をしなさい! その義務が君達にはある! 後ろ暗いことがないなら、全て開示できるだろう!」

「何やってるの?!」

「む、ミヅキか。ここはいい、早く行きなさい」


 ハルがいつもと変わらない声量で応じる。その間も、激しく扉を叩く手を止めなかった。


「いやいや、説明してよ! 何があったの、何が起こってるの!」

「取り締まりだ」

「えっ?」


 説明したほうが早いと判断したのか、存外あっさりとハルは説明を始めた。扉の向こうからの応答はなく、沈黙している。


「恐らく展示会の件で、宇宙警察がこの星域一帯の監視の目を強めているのだろう。それにかかった。サイレンが船内で鳴っていただろうが、それと同時刻に。

簡単に船を調べさせてほしいと言ってきた警察の宇宙船に、この船は、砲撃をした。そうして強引に取り締まりを突破した。現在この宇宙船は最高速度で宇宙空間を飛ばしている。

依頼されていた修理の装置のためが私はたまたまコックピットにいたのだが、その光景を見て、どういうことかと説明を求めた。直後、退出を命じられた。複数名に羽交い締めにされ、こうして外に出された」

「それ、どういう……」

「事実だけを見るならば。警察に見られたら困るものが、この宇宙船内にある。そういうことだろう」


「そう解釈されるとは心外ですよ」


 すう、と沈黙していた扉が開く。立っていたのは、船長のレイハだった。後ろ手に手を組むレイハは初対面の時と同じように、どこか気弱そうな、しかしお人好しさを感じる笑みを浮かべていた。


「後ろ暗いこと……。そんなこと一切ありませんよ、はい。私達は何も悪いことなんてしていませんから。なのに警察に疑われた。ならば、逃げるのは当然ですよ」

「砲撃についてどう説明する? その時点で、既に悪いことをしていると考えられるが?」

「潔白なのに、疑われた。なら、腹が立つでしょう。攻撃をしたのは、そういうことです。この船の、家族も同然の仲間達全てを守るためです。追っ手も振り切りやすくなりますしね。深い意味はない、至って常識的な、普通の行動です」


 美月は言葉を発さなかった。発せなかった。目を見開いて、正面にいる摩訶不思議な理屈をこねる存在を見ていた。気がついたら、後ずさっていた。


「そうか。わかった。では、私達はこれで失礼する」

「まだよろしいじゃないですか。もっともと、おもてなしをしたいのですが」

「不要だ」


 ハルは背を翻すと、美月の手を引っ張って走り出した。


「――あれっ、なんなの?!」

「一つ言えることは、この船にこれ以上滞在していたらこちらの身に危険が及ぶということだ」

「なんで、こんなっ……!」


 美月は走りながら、頭を片手で押さえた。夢だと思った。嘘だと思った。冗談だと思った。有り得ないことだ。なのに、本当に有り得ないと思っているなら、なぜ自分の心臓はこんなに、不安と恐怖と動揺でばくばく動いているのか。


 直後、ハルが勢いよく振り返った。


「危ない!!」


 ばあん、と音がした。通路の壁が両側とも、板のように外れていた。空いた壁の向こうから、人影が現れ飛びかかってきた。


 床に叩きつけられる。二人の人影が、倒れた美月の体をあっさりと取り押さえていた。一人は両手首を後ろに回させて固定し、もう一人は足を押さえた。どちらも体重をかけており、ばたばた藻掻いても意味を成さない。


「何するの、離してよっ!!」


 誰がこんなことをと、首を後ろに向けて拘束している人物の顔を見ようとする。


 しかし、顔はわからなかった。袖や襟などに赤の差し色が入った、黒いフード付きのマントで全身をすっぽり覆っていたからだ。なぜか、どこかで見た気がすると感じた。


 その瞬間、ばちばち痺れるような感覚と共に、視界に短い光が走っていくのが見えた。うっと呻き声を上げて、美月を取り押さえていた二人の力が緩んだ。精一杯の力を使い、慌てて抜け出した。


「変身しなさい!」


 少し前に立つ、間一髪奇襲から逃れられたハルが、電流を纏った右腕を伸ばした状態で声を荒らげた。美月は大きく頷いた。


「コスモパワー、フルチャージ!!」


 画面に人差し指を当てるのと同時に、美月の腕が掴まれる。しかし変身完了のほうが早かった。


 振り向きざまに掴んできた手を振り払いつつ、先程美月を拘束してきた二人の腕をそれぞれ掴み、そのまま後ろへ投げる。


 だが遠くへ飛ばされた相手は動揺する素振りを見せず、空中でひらりと回転し、両足で着地した。


「姉ちゃん、ハルさん!」


 その二人の後ろから、弟の声が聞こえてきた。通路を走ってこちらに向かってくる姿が見える。変身はしていなかった。


 穹、と呼ぼうとして、脳に危険信号が鳴った。美月は「危ない!」と叫んだ。


 え、と穹が立ち止まると同時に、マントの二人が一気に穹に近づいた。瞬きの合間に、穹は二人の手によって動きを封じられた。拘束され、青ざめた顔で見回す穹など構わず、二人は奇襲のときに出てきた壁の穴の中に戻ろうとする。


 その時、空中をレーザーが駆けていった。光はマントの二人の顔面、ちょうどすれすれをすり抜けた。即座に二発目が撃たれる。びくり、とマントの二人がよろめいた。


「ソラ、早く! 変身です!」


 ハルの背中から、レーザーガンを構えたアイが叫んだ。穹が急いで二人のもとから抜けだした。変身の口上を述べ、白いスーツ姿に身を変える。


 この場では不利と判断したのか、マントの二人は何も言わず、壁の穴に姿を消した。


「アイ、ありがとう……!」

「お礼を言うのは後ですよソラ! 皆さん、早く逃げましょう!」

「ね、ねえ未來は?! 未來とココロは!」

「ああ、二人ともすぐに合流しなくては」


 4人で廊下を走りながら、ハルは未來に通信を入れた。どうやら未來もココロも無事のようだった。しかしかなりの追っ手が来ているということで、現在逃げている最中だという。


「ミライ一人では荷が重い。急ぎ落ち合わなくては」


 ハルは未來に逃げる方向を教え、合流しやすくするよう誘導した。


 やがて、にわかに騒がしくなってきた。肌が、空気の揺れているような感覚を察知した。


 突き当たりの角を曲がると、通路の向こうの方から、こちらに向かって走ってくる人影の集団を見つけた。


 集団の先頭にいるのは、変身した未來だった。片手でココロを抱え、もう片方で刀を持っている。


 その後ろを走るのが、五人ほどいる先程の黒いマントの集団だった。身長も体格もばらばらの面々は、塊になって未來を追いかけていた。


 未來のブーツが床を蹴り、壁に着地した。そのまま天井へ飛び跳ね、もう反対方向の壁へと伝う。


 しかし未來の撹乱と全く同じ動きを、即座に相手も行った。仲間の中で一番高い機動力を持つ未來に、難なくついて行けていたのだ。


 助けなくてはと走り出そうとした美月と穹を、ハルが制した。


「アイ、援護するぞ!」

「はい!」

「避けろミライ!」


 ハルが右腕を、アイがレーザーガンを真っ直ぐ前に突き出す。ハルの手の先から電撃が、アイのレーザーガンの銃口から光が飛び出した。


 未來が地面から飛び上がった。電流と光線は止まることなく進んでいき、黒色の集団に向かって行った。


 当たらず避けられたが、マントの面々を立ち止まらせるには充分だった。ハルとアイが更に追加で攻撃を行うと、マントの面々は引き返していった。


「未來、無事?!」

「け、怪我はないよ! びっくりしてるけど……!」

「すぐに逃げよう」


 ハルがココロを預かり、今まで美月達が逃げてきた道をUターンしようと振り向く。


 その瞬間だった。ばあああんと音が鳴り響き、天井が破れた。


 欠片と共に落下してきたのは、人だった。やはり黒いマントで身を包んでいた。三人いるうちの一人が、一番近くにいた美月を掴みにかかった。美月は急いで避けながら、いきなりなんなのかと相手を見上げた。そうして、まさしく、頭が真っ白になった。


 フードを被っているので、顔には影がかかっている。けれど近くで見れば、さすがに相手の顔はわかる。それは、美月にとって知った顔だった。


「ちょっと……なんで? 何を、してるんですか?」


 船団に来てから毎日のように厨房へ手伝いに行き、そこで顔を合わせ、言葉を交わす日々を送った。なので厨房の人達の顔も声もちゃんと覚えている。


 だが、今目の前で自分を掴む人と厨房の人が同一人物だと、どうしても信じられなかった。


「色々作ってくれたけど」


 手を掴み続けながら、相手が無表情に口を開いた。いつもにこやかに、穏やかに、明るく優しく笑って料理を教えてくれていたというのに。表情が無いだけで、全くの別人のようだった。


「オムライスとか、あんまり好きじゃなかった。大きなお世話だったよ」

「どれもこれも味が濃すぎるから、私達種族の舌に全然合わなかったしねえ」

「それに、手際も段取りも慣れてなさすぎて。やっぱりよそ者って、頼りにならないわね」


 他のマントの人達が口々に喋る。全て知った声だった。ほぼ無感情な声で、だからこそそこに混じる軽蔑の感情が、より際立っていた。


「そこをどきなさい!」


 風を切るように、ハルが突然割り込んできた。片腕を、珍しく刃に変形させていた。


 切っ先をマントの人達に素速く突き付ける。いきなり刃物を向けられて、さすがに一瞬怯んだらしい。相手がわずかに強張った隙に、一気に駆け抜けてその場を離れた。


「武装は解除しないように! 最大限警戒しつつ逃げるんだ!」


 目的地はコズミックトラベラー号だ。しかしそう簡単に辿り着けるわけがなかった。


 壁や天井、床などを破って、次から次へと黒いマントの人が襲ってくる。屋内なので集団で一気に襲撃するというわけではなかったが、その分頻度が高かった。振り切ったと思った次の瞬間に、また別の人が現れる。


 襲ってくる人の中には黒いローブ姿もいれば、私服とみられる姿の者もいた。厨房の人のように何度か挨拶したような、顔見知りの者も少なくなかった。 


「この船の人間達、全員が仲間のようだな」


 襲ってくる者を電流で脅して躱しながら、ハルが言った。襲ってくる人達は、変身の能力もあってどうにかいなすことができていた。


 ただ、数が多かった。船の人達全員ならば、200人以上が敵ということになる。その数を相手にしては、いずれ限界が来てしまう。


 それに躱せるといっても、ぎりぎりの戦闘なのは否めなかった。未來の刀の閃光や、アイの射程や光線の動きが変わるレーザーガンなど、初見で躱すのが難しいだろう戦闘方法を全て避けられているからだ。


 逃げるしかないわけだ。しかし追っ手を振り切りつつ通路を走っていると、突如目の前に壁が現れた。


「行き止まり?!」

「違う、扉だ!」


 ハルが壁もとい、扉を触って軽く全体を見た。


「閉まっている。解錠は不可能だ」

「じゃあどこを通っていけば?!」


 その時だった。ハルの腕の中でじっとしていたココロが、別の方向へ向けて指を指した。


「あっち」


 そこには、もう一つ別方向に繋がる通路があった。


「あっちへ進むと非常口があるわ。その先の階段をずっと下っていけば、一階まで行ける。非常口の扉は特別な装置とかはついていない、普通の扉よ」

「わ、わかるの?!」

「そりゃ、ずっとあちこち歩き回ってたもの」

「ありがとうココロ!!」

「ココロ、今は君の放浪癖に感謝する」


 すぐさま向かえば、確かに非常口があった。ドアには鍵がかかっていたが、美月が一発力を込めて殴ればすぐに吹っ飛んだ。


 非常階段には誰もおらず、下まで長く続く階段があるだけだった。全員でそこを駆け下りていった。


 その間にハルが宇宙警察の取り締まりの下りを、美月以外の仲間に説明した。そんな、と穹達は一様に、驚きに打たれていた。


「でも、確かに……。実は、ずっと変な感じがしていたんだ。完全に安心できないような、変な居心地っていうか……」


 未來が下を向き、すぐに顔を上げる。


「本当に、悪者さんだったなんて……」


 船団に来てから未來の様子がずっとおかしかったのは、何らかの違和感に勘付いていたからか。しかし、未來以外は誰一人怪しいとも思わなかった。ハルでさえ気づかなかった。


「私もここに来てからすぐ、船の人間達が何かを隠している態度や振る舞いをしていることは分析していた。けれど、知り合って間もない旅人に自身の事情を全て明かすケースのほうが少ないと判断し、追求するレベルではないと考えた。このようなことになるとは、一切予想していなかった」

「し、師匠、これからどうするのですか?」

「とにかくこの船から脱出が先決だ。コズミックトラベラー号だが、長距離は無理だが短距離の航行ができるくらいには修理してあるので、距離を取ってから警察に通報する。この船の人間達は、間違いなく“敵”だ」

「……どうして、こんなことに……!」


 ハルに改めて言われてしまえば、認めざるを得ない。この船に、敵がいるということに。


 どうしてこうなったのか。ずっと仲良く、穏やかに生活していたあの時間はなんだったのか。船で振る舞われた、美味しいごはんを食べたあの瞬間は。あれが全て嘘だと思えなかった。何か裏があってほしいと願った。間違いであってほしかった。可能性がどれだけ低くても。


 階段を下りている道中、襲われることもなかった。美月達がこの階段を通ることは想定していなかったのか、それとも。


 最後まで下りきり、非常口の扉を、入ってきた時と同様に殴って突破しようとする。そんな美月を、ハルが制した。


「ソラが開けなさい。同時にシールドの展開を。皆はソラの後ろに」

「わか、りました」


 言われたとおり、穹は扉の前に立つと、勢いよくそこを蹴破った。同時に両手を前に突き出し、円形状の水色の壁を生み出す。


 外れた扉が前に倒れていった直後、幾重にも重なった銃撃音が響き渡った。

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