表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コズミックトラベラー  作者: 星野 ラベンダー
Chapter2「忍び寄る影」
10/409

phase2「置いてあったゲーム」

 その翌日のこと。美月は学校帰り、穹に案内されて、古本屋に向かっていた。


 昨日、学校で穹に近道を使ったことがばれ、黙っておく代わりに本を買ってほしいという取引を持ちかけられたのだ。交渉の末、古本でということで取引を成立させた。


 穹は不満そうだったが、買ってあげるという約束を取り付けたのだから、やたら張り切っており、わくわくとした様子を隠せていなかった。今もそうだ。


 近道をしたせいでこんなことにと美月は少し悔しい思いをしていた。弱みを握られると、何かをねだられたり、こちらが不利なことを持ちかけられるのは覚悟しておかないといけない。美月も穹に何度かやった。


それと同時に、別のことも気にかかっていた。

一体、あの機械はなんだったんだろうか。


 あの機械の詳細を話した途端、ハルの様子が明らかにおかしくなった。

詳しいことはまるで教えてくれなかった。しかし、ハルはあの機械のことを何かしら知っているのは間違いない。


 心の中に、ざわざわとこれから強くなりそうな風が吹いているような、そんな気分だった。胸騒ぎとでもいうのだろうか。


 もやもやとしていると、いつの間にやら目的地である古本屋についていたようだ。

考えるのに夢中になるあまり、気づかず通り過ぎてしまいそうになったので、「姉ちゃん、どこまで行くの?」という穹の声に、やっと現実に戻れた。


 ここだよと穹が指さす先には、年季を感じる木の看板が掲げられた、木造の二階建ての家があった。

看板の下には藤色ののれんがかかっており、その向こうに磨りガラスのはめられた木のドアが見える。


 ワゴンの上に置かれている、塔のごとく高く積み上げられた本に驚く美月を置いて、穹は慣れた様子でのれんをくぐり、ドアを引いて中に入っていった。


 遅れて中に入った美月は、更に驚いた。

六坪程度の小さくこぢんまりとした本屋だったが、壁と中央に鎮座する書棚には、びっしりと隙間なく本がしまわれている。


 少し薄暗い店内に、古くなった紙やインクの独特の匂いが漂う。

穹の「この匂い、大好きなんだ」との台詞に、さすが本の虫だと美月は感心した。


 奥の小型レジスターが置かれている番台に、源七と同い年くらいの男性が座っていた。

深緑の着物を着ており、ぱっと見では店主というより小説家に見える風貌だった。


目が合ったので、美月は軽く会釈をした。

穹はこの店主とかなり親しいようで、こんにちはとお辞儀した。


「今日はガールフレンドと一緒かい?」「違います、姉です!」というやりとりを交わしている。

「やっぱりな」とからかうように笑った後、店主は二人を交互に見て、「ゆっくり選んでってくれよ」と言い、顔を下げた。


 よく来るの? と美月は尋ねると、かなりの頻度で来ているのだと穹は頷いた。


 もう既に絶版されていたりなどで、希少価値の高い本を見つける事が出来たりするのだと。

思いもよらない掘り出し物が発見できたり、古本なので普通に買うよりも安く手に入ることが出来るので、読書好きとしては宝島のような場所なのだと、穹は熱量は伝わるが小声で語った。


「で、穹、どれにするの?」

「今選んでる最中。ああどうしようかなぁ……」


 小説と書かれた札が置かれている場所で立ち止まった穹は、うーんと眉をひそめながら

目についた本を手にとっては眺め始めた。


「あれもいいし、これもいいしなぁ…」

「あんまり沢山は買えないよ?」

 念を押したものの、穹は「わかってるってば」と心ここにあらずな返事をするだけだった。


 長くなりそうなので、美月はしょうがなく本棚を眺めた。

美月は読書嫌いというわけではないが、穹ほどの本の虫とは程遠い。


 狭い店内をゆっくり歩き回っていると、ふと星に関する専門書が目にとまり、何となく気になったので読んでみた。

 専門書ではあるが、玄人向けの難しいものではない。

読みやすかったし、中々面白かったので、買うことに決めた。


 また店内を一周しようとした時、穹が駆け寄ってきた。手には一冊の本がある。


「姉ちゃん、決まったよ」

「えっ、珍しいね、穹がこんなに早く決めるなんて」

「ちょっと気になってたのが見つかったからさ」


 美月の前に、本を差し出される。

ロボットと歯車が印象的な表紙だった。少なくとも今の美月には、印象的だった。


「……ロボット?」

「そう、ロボットに関する色んな話が収録されてるんだよ。姉ちゃんも読んでみる?」

「い、いや、遠慮しとく」


 本はかなり古く、著名の所には外国の人名が書かれている。

恐らく小説の中でも古典に入るものなのだろう。

何となく難しそうな、自分にはとても読めなさそうな気がして、美月は苦笑しながら首を振った。


「そう? でも、気になったらいつでも言ってよ。貸すからさ。ってあれ、姉ちゃんも本買うの?」


 美月の持っていた本の表紙を見た空は、「また難しそうなの買ったね……」と、感心と呆れが混じったような表情をした。


「え、そうかな?」

「さすが姉ちゃんって感じだね」


 どの辺りがさすがなのだろうかと思ったが、結局聞かなかった。

穹のも含めた本二冊を買い、古本屋をあとにした。




「ありがとね、姉ちゃん」

「ううん。それにしても、穹がSFなんて珍しいね」

 現代小説を好んで読む穹が、なぜ新しいジャンルを開拓しようと思ったのか。

聞いてみたところ、穹の好きな作家が、この前の新作でSFを書いたのがきっかけだという。


「面白いんだよ~。ロボットが世界を冒険する話なんだ」


 弾む声で、穹はあらすじを説明する。

 しかし内容がやけにタイムリーに思えて、美月の体を冷や汗が伝った。


 そういえばハルも、自分は旅人とかなんとか言っていたような気がする。

とても他人事には思えなくて、美月はなんだか落ち着きがなくなってきた。


「この小説、続き物なんだよね。このロボットは敵に追われてるんだけど、その敵の偵察隊がじっと見つめてるシーンで終わってるんだよ……。凄く不気味に書かれててさ、ちょっとトラウマになりそうだった。やっぱり敵って、不気味に感じちゃうものだよね」


 すると穹は、ふいに美月の顔を覗き込んできた。


「どうしたの姉ちゃん。顔が真っ青だよ」


 しかし美月は答えない。答えられなかったのだ。

心臓が忙しなく動いている。


 ハルの、急に変化した様子。あの、見かけた機械の尋常でなく感じた不気味さ。

今それらが結ばれ、一つの線になったような気がした。


美月は顔を上げた。その目線の先には、あの裏山が見える。


ハルの元に向かう必要は無い。用事も特にない。

しかし……。


「ごめん、穹。用事思い出した。先帰ってて!」


 次の瞬間美月の足は、そちらへと向かっていた。

穹の混乱したような声が聞こえてきたが、それはどんどん遠ざかっていく。


とにかく、いてもたってもいられなかった。

嫌な予感。胸騒ぎ。

穹の言葉を聞いた瞬間、それらは明確な形となって、美月の身に降りかかってきたのだ。




「ハルー?! いる?!」


 宇宙船の前で思いっきり呼んでみるが、応答は無い。

ドアの所まで行ってノックをしてみるも、無反応だった。

いないのだろうか。

肩を落とし、きびすをかえしかけたその時、いきなりドアが開いた。


「あれ? いるの?」


 開いたということは、やっぱり中にいたのだろうか。それとも自動ドアだろうか。

しばらくうろうろとその場を歩き回った後、結局中に入った。


 ハルがいなかった場合、戻ってくるまで少し待つつもりだが、中々戻ってこなかったら帰ろうと思った。さすがに勝手に探検することはしない。

興味はあるが、それでもし何かあった場合のことを考えると、勇気が出なかった。


 記憶を頼りに廊下を進んでいくと、リビングルームと書かれたプレートが下がってあるドアがあった。開けると思った通り、何の変哲もないリビングがそこにあった。

あまりにも普通のリビングすぎて、逆に違和感がある。

ここに来るのはまだ二回目だが、この前来たときと特に変わっていないように見えた。


 いや、違った。

テーブルの上に、真っ黒い四角形のものが置かれているのが目にとまったのだ。

近づいて見てみると、それはタッチパネルのような端末だった。


「タブレット? ……より大きい? ハルったら、いつの間に手に入れたんだろ」


 手にとって、適当に画面をタップしてみると、暗転していた画面が切り替わった。


 どうやら起動したらしい。そこに表示された画面を見て、美月は首をかしげた。

ゲームらしきスコアのようなものが表示されていた。

赤いドット字で『14.79%』と表示されてあり、その隣に『HAL』の文字があった。

その下に大きく『RESET』と書かれてある。


 とりあえずそこをタップしてみると、画面がまた切り替わった。

青色のドット字で大きく『BATTLE TEST』と表示されており、

その下に『START』の文字もある。


その後ろで、やはりドット絵の白い宇宙船のようなものが飛んでいる画面が映っており、ピコピコとした軽快なBGMが流れていた。

レトロゲームというやつだろうか。


「……何、これ? さっきのってハルのスコア?」


 ハルもゲームをするのか。

それにしても、随分と悲惨な数字だなと正直感じた。だがもしかすると、これはとんでもなく難しいゲームなのかもしれない。


 美月はちょっと考えると、ソファに腰掛け『START』のドット絵をタップした。

 単に暇を潰したかったからというのもあるし、ハルに悪い意味であのような記録を出させるゲームがどういうものか気になったのだ。


 パソコンのキーボードのようなものが表示されている画面に切り替わった。

名前を入力する画面らしく、入れた文字の変換は出来ないようだ。

MIDUKIと自分の名前をローマ字で入力し、『決定』ボタンを押した時だった。


「指紋認証致シマシタ。挑戦者、MIDUKIサマ」という合成音声が流れた。


指紋認証という響きにやや恐怖を覚える。やめたほうがいいだろうか。

しかし、どこをタップしても止まらず、やめ方がわからない。

美月は諦めて、極力深刻に考えないようにした。


 と、切り替わった真っ黒な画面に、『NO CONTINUE』と赤い文字が大きく映し出された。

この字はドットでは無かった。重要なことらしい。

やり直しができないということか、挑戦できるのは一回だけということか。


「あれ、これって操作方法は?」


 次に画面が切り替わったとき、宇宙らしき場所をバックにタイトル画面に出ていたドットの宇宙船が出てきて、不安になった。

見た所、もうゲームは始まっているようだ。操作方法を教える画面は出てきていない。

どうしようかと焦ったが、画面内をよく見た瞬間、不安は杞憂に終わった。


 画面の下に、上下左右の矢印と、『アタック』『ガード』という文字が表示されている。

なんとなく操作方法がわかったし、どういうゲームなのかもプレイしていくうちにすぐに掴んだ。


 これは、いわゆるシューティングゲームだった。

縦スクロールで、敵の黒い宇宙船から放たれる攻撃を避けながら、その敵を攻撃してやっつけていく。


 アタックをタップすると攻撃ができ、それで敵をやっつけると、右上に表示されている数字が加算される。逆に攻撃を受けると数字が減る。

これが最終的なスコアになるのだろう。


黒い宇宙船のサイズは大中小とあり、サイズが大きい程一発では倒せないし、攻撃も強い。


ガードは、使えば相手の攻撃を弾けるが、一度使うとガードの文字が薄くなってしばらく使えなくなる。


また、こちらに体力ゲージのようなものは無かった。

やられてゲームオーバーということは無いらしい。


以上の繰り返しで、美月は気がついたらすっかり集中していた。


 3分程プレイすると、ボスらしきとても大きな宇宙船が現れた。

攻撃の弾幕が凄まじいが、美月は慎重に避け、確実に当てていく。


 一分ほど攻防を繰り返した後、大きな効果音と共に、ボスの宇宙船が消え去った。

明るいBGMが流れ、七色の文字で、『CLEAR』という文字が現れる。


「あ、終わった」


 特に苦戦するところは無かったように思えた。

次に画面が切り替わった時、緑色の文字で『84.25%』と表示され、その横には

『MIDUKI』と書かれていた。


「ハル、どこで苦戦したんだろう?」


 もっと慎重にいけば、多分パーフェクトもいけたように思える。

いちいち考えるのが面倒くさくて、あんまり『ガード』を使わなかったのだ。

そのせいで、時々被弾してしまい、スコアが減ってしまった。

しかし至って普通の、簡単なゲームに思えたが……。


「ま、いいか。にしてもハルとココロどこにいったんだろう……」


 一人言を呟きながら、端末をテーブルに置いた……つもりだった。


「……ん?」

 端末が、手から離れない。


「は? あれ?」

 ぶんぶんと手を振ってみる。

落ちない。


思いっきり引っ張ってみる。

離れない。


「……え?」

 美月が、端末を凝視した時だった。


「オメデトウゴザイマス、MIDUKIサマ。見事BATTLE TESTノ合格ラインヲ越エマシタノデ、証ノ品ヺ贈呈致シマス」


 端末からそのような合成音声が流れた、刹那。

クリア画面が突如として暗転した。


かと思ったその時、そこに光が灯った。

その光はどんどんどんどん強くなっていき、ついには端末の外にまで溢れだした。

眩い光が、端末の全身を包みこんだ。


 少しも目を開けていることが出来ないほど、強烈な光だった。

目がチカチカとし、痛くなってくる。

美月は強く目を閉じ、腕で覆った。


 一体どれくらいそうしていたのか。

そっと目を開けると、あの猛烈な光はおさまっていた。

若干目がしょぼついたものの、それもしばらくすると治まってきた。


「……なんだったの?」


 両の手を見た。端末が無くなっている。

ざっと辺りを見ても、部屋のどこにもなくなっていた。

美月は息を深く吐き出した。


 良かった。何が起こったかはわからないが、あのまま取れなかったらどうしようかと思っていた。

左の手首に何かついてるだけで、あとは何も……。


 そこまで考えた所で、美月はじっと手首を見た。


 黄色い腕輪のようなものが、左手首に巻かれている。

ブレスレットともバングルとも違った。


 輪っかの部分はつるつるとした素材で出来ている。

そして、小さい液晶画面のようなものが、その腕輪についている。

ちょうど、先程の端末を縮小したような見た目だった。


改めて、その腕輪を見た。

取り外せそうなスイッチやボタンは見当たらなかった。

引っ張ってみる。びくともしない。



 勢いよく立ち上がった。ガンとテーブルに思いっきり足をぶつけてしまったが、

その痛みには気づかなかった。

美月は廊下を走り抜け、外に出た。


「なにこれえぇぇ!!!!!!!!」


 山の中を、美月の悲鳴が駆け巡る。その声に、鳥が一斉に空へと羽ばたいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ