第7話 電話の相手
よろしくお願いします!
鳴っているスマホを取り出して画面を見てみると、見慣れた名前が目に入った。
あっ……心当たりがある俺は恐る恐る電話に出た。
「…もしもし?」
「はぁ…やっと出た…」
「…ど、どうかしたか千尋?」
「……勝手に店を閉めてその反応はないでしょう!!しかも何の連絡もよこさないなんて、一体どこで何をやってたんですか!!??」
そうやって電話越しに4歳も年上の俺を怒鳴りつけるこいつは椎名千尋、うちのバイトリーダーである。
と言っても、うちの店は小さいため俺を含めて3人で店を回しているのだが……
千尋は大学4年生で授業も無いため、ほぼ毎日出勤してくれている。黒髪セミロングの清楚系で人当たりもよく、彼女目当てで来るお客さんも少なくない。
て、こんなゆっくり紹介している場合じゃ無い!
画面を見てみると確かに千尋から鬼のように大量のメッセージが送られいた。
頭を打った衝撃と人気アイドルの出現…衝撃の連続で店への連絡を忘れるという、社会人としてあるまじき事をしてしまった……
本当に申し訳ない事をした……
「…ほ、本当にごめん!!色々あってそれどころじゃなかったんだ!!」
「へえ〜、丸3日も……?私がどれだけメッセージ送っても既読すらつけないなんて、よっぽど大事な用事だったんですね!!」
千尋が怒るのも当然だ。
自分がバイト先に出勤した時に店が閉まっており、店長とは連絡もつかなければ誰だって不機嫌にもなる。
「どんな言い訳かじっっくり聞かせてくださいね!」
嫌味が混じった可愛い声で千尋は俺を追い詰めてくる。
「実は3日前……」
俺は許して貰うべく必死に弁明を始めた。
「え〜〜?大の大人が自分の失態を電話で弁明するつもりですか??」
「っ……」
「しかも今、ちょうどお腹ペコペコなんですよね。何か美味しいものでも奢られたい気分だなぁ〜……それも瀬良さんに」
「お前、それが狙いか……でもそうだな、今回の事は俺が全面的に悪いし、何かご馳走させて貰うよ。」
「え!いいんですか!?ダメもとで言ったんですけど、案外言ってみるもんですね。」
「…食べ物で機嫌が良くなるなんて、お前って案外ちょろいのな…」
「何か言いました……?」
先程まで元気だった千尋の声は一転し、気温のせいでは無い何か別の寒気が俺の身体を襲った。
「い、いや空耳じゃないのか?…と、とりあえず今から店の近くの駅前に出て来れるか?」
「分かりました!少し時間がかかるので、1時間後でも大丈夫ですか?」
「あぁ、急がなくて大丈夫だ。俺も今から帰って体を洗いたいし…」
「あ、朝帰り…?けだもの……」
「ち、違う!誤解だ!!」
ブチッ…
そう言って俺はケダモノ認定され、言い訳する暇もなく電話が切られた。
すっきりしない気分のまま、俺は3日ぶりに自分の家に帰宅した。
朝から晩までカフェで働いているため、寝るだけの場所となっていた少し狭い俺の家は、たった3日帰らなかっただけで何故か別の場所のような居心地がした。
そんな今まで感じたことの無い違和感を覚えながら、俺は傷口に細心の注意を払いシャワーを浴びた。
〜〜〜
シャワーを浴び終わり、千尋との約束の時間までまだ時間があった俺は、久しぶりのタバコを吸いながら考え事をしていた。
そういえば、こんな形ではあるが千尋と、いや、女性と2人で食事に行くのは生まれて初めてかもしれない。
…そう思うと一気に緊張してきた。
いやいや、何を緊張しているんだ俺は。
相手は4歳も下の、しかも自分の店のバイトの子じゃないか。
それにさっきまで結城夏花や風見零といった超絶美人と一緒にいたんだ、何も恐れる事はない。
出発までゆっくりしよう。
……とはなる訳もなく、俺は結局焦りに焦っていた。
どんな服で、どんな感じで、どんな店で…色々考えながら初めての悩みに苦しんでいた。
女の子と会う時って、毎回こんな苦労するのか…
何の努力も無しに彼女が自然にできると思っていた学生時代の俺に教えてあげたいくらいだ。
そうこうしている間に、出発の時間が来てしまった。
まずい、結局何も決まっていないままだ…!!
しかし待ち合わせの時間に遅れるのが1番まずい気がした俺は急いで家を出た。
俺の人生初の女性との食事が、失態の弁明の場になるなんて今日はついてないのかも知れない。
読んで頂きありがとうございました!
では!