第4話 まさかの2人目
よろしくお願いします!
「そ、そう言えばあの時、結城さんの他に誰もう1人倒れていませんでしたか??あまり覚えていないのですが……」
途切れそうになった会話を俺は必死に繋ごうと、咄嗟に話を結城さんに振った。
「その子なら、昨日意識が戻りましたよ。今はぐっすり寝ていますが……」
そう言って、結城夏花はその細く綺麗な指で隣のベッドを指さした。
「良かった、2人が無事なら僕も報われます…」
俺は結城さんが指差した方を見ながら呟いた。
!!!!!!???????
こんなに綺麗な二度見は生まれて初めてだった。
彼女が指を差した隣の窓際のベッドの上には、また俺の知っている人物が気持ちよさそうに寝ていた。
風見 零。
この子も『電脳少女』のメンバーで、その美しい顔立ちとクールさで結城夏花とセンターの座を競っている。
肩につかないくらいの青髪で、超絶美人だ。
俺の中で結城夏花と風見零は、まさに『電脳少女』の中の太陽と月という感じだった。
この2人と同じ空間にいること自体夢のような話だが、俺がその2人の命を救ったという事実の方がもっと信じられなかった。
……落ち着け俺。
目が覚めてから衝撃の連続で、脳が麻痺してしまいそだ。
べ、別に悪いことをしてるんじゃないんだ。
この状況をファンに知られたら人生詰むだろうが……
しかし……彼女たちは国民的アイドルグループ『電脳少女』の人気メンバーで、俺は一般人のこじんまりしたカフェのマスター。
そう……立場が違いすぎる。
アイドルである彼女たちが恋愛禁止で、俺に興味なんて全くないのは重々承知しているし、命を救って貰ったところで俺を特別意識することなんてありえないだろう。
だからせめて、今くらいはこの夢のような時間を楽しもうと思った。
それくらい許してくれ、全国の『電脳少女』ファンのみんな…命張ったんだから……
よく野球漫画で、ピッチャーが球を投げてからキャッチャーが取るまでのコンマ数秒の一瞬の間に、バッターの恐ろしいほど長い考察が描かれる事があるが、今の俺がまさにそれだ。
おそらく風見零を二度見してから1秒と経っていないだろう。
「この子は、風見零。私と同じで『電脳少女』のメンバーです。瀬良さんはご存知でしょうか??」
俺の驚くべき二度見の速度に結城さんは少し首を傾げたが、何事も無かったように風見零のことを紹介してくれた。
「えぇもちろん!この前のライブパフォーマンス最高でしたよ!!青髪がよく似合いますよね!!」
「…え??ライブに来てくれてたんですか…??」
し、しまった!!!
つい興奮のあまりこの前のライブの感想を…
さっきと言っていることが違うじゃないか……
俺は咄嗟に、
「…って!友達が言ってました!!」
と、不自然ではあるが強引に自爆を回避した。
「そうだったんですね!」
な、なんとかバレずに済んだようだ…
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「結城さん、あの夜のことを詳しく教えて貰えませんか?あの時のことを、あまり覚えていなくて……思い出したくなかったら全然結構ですので!!」
購買で飲み物を買い、部屋に帰ってきた結城さんに俺は質問した。
「大丈夫ですよ。私も話さなければと思っていましたから。」
「あ、ありがとうございます。」
そう言って結城夏花は、持っていたペットボトルを置き、真剣な顔で話し始めた。
「あの夜、私と零とマネージャーの3人は軽い飲み会の帰り、一緒のタクシーに乗って帰っていました。
酔いを覚ましたかった私と零は家の近くで降ろしてもらい、夜風に当たりながらお互いの家まで歩くことにしたんです。」
「降りる時、マネージャーさんは一緒じゃなかったんですか??あまりにも危険ですよ……」
「2人とも家が近かったので、マネージャーさんには大丈夫と言って渋々降ろしてもらいました。
...今でもその判断は後悔しています。」
「い、いえ、そんなつもりで言ったんじゃ…僕は2人のことが心配でつい…」
「分かっています。…瀬良さんって優しい方なんですね」
「そ、そうですか?そんな事言われたのは初めてです…」
これは本当に初めてだった。。
「他人のために命をかけれるなんて、そうそうできる事じゃないと思います。」
「あ、ありがとうございます。」
照れて何と言っていいか分からなかった俺は、ただそう答えるしかなかった。
「…それで話に戻りますが、そうして零と2人で歩いていると、急に暗闇からバットを持った黒服が現れたんです。」
「顔は見ていないんですか?」
「…はい…暗いというのと恐怖でそれどころじゃありませんでした。2人で必死に助けを呼びましたが、私達には黒服に対抗する術もなく、零がバットで殴られました……」
「その後に俺が助けに入ったと…」
「はい、そして瀬良さんが殴られた直後に警察の方が来て、黒服は逃げて行きました。」
「そうだったんですね……話してくれてありがとうございます。」
「いえいえ…でも実は零も事件当日の記憶がはっきりしていないんです...」
「逆にその方が良いかもしれないですよ。あの出来事を鮮明に覚えているのも辛いでしょう。」
「そうですね…」
コンコンッ…ガチャッ
「失礼します、瀬良さん。夕方の検診の時間です。」
看護師の方と医師が、訳の分からないことを言いながら俺の楽園に足を踏み入れてきた。
「じゃあ瀬良さん、今日は私帰りますね。明日もまた来ます。」
「え、明日も??お仕事大丈夫なんですか…?」
彼女たちの忙しさはとんでもないだろうに……
「後でネットニュース見ておいて下さい。それじゃ」
「はい??」
少し笑いながらそう言った彼女は、厳重に変装をして部屋を出て行った。
「ゴホンッ…検診してもよろしいですか?」
「は、はい」
彼女が帰った途端、一気に力が抜けたのが分かった。
しかし、退院するまでの間は何回か彼女に会えるかもしれない。
そう思っていた……
読んで頂きありがとうございました!
では!