第3話 ありがとう、俺
よろしくお願いします!
「…瀬良さんは…おそらくただの気絶でしょう、今回の怪我とは無関係ですよ……」
今度はおじさんの落ち着いた声で意識が回復した。
やっぱりさっきのは夢か……残念だ。
結城夏花が俺を慕う世界にいられるのなら、永遠に目
が覚めなくてもよかったのに……
俺は、目を閉じながらそんな事を考えていた。
「…よかった。目が覚めたと思ったら急にまた倒れてしまって……」
「大丈夫ですよ。瀬良さんは命に別状は無いんですから。しかし、また何かあれば教えて下さい。私は診療がありますので戻りますね。」
「ありがとうございます……」
え……ちょっと待て……落ち着け俺……
おそらく医者であるおじさんと、誰かが会話をしていた。。
それも、聞き覚えのあるとんでもなく可愛い声……
まさか…さっきのは夢じゃなかったのか???
本当に…結城夏花が……?
俺は未だに寝た振りを続けているが、色々考えているうちに変な汗が止まらなくなってきた。
顔も熱く、赤くなっている気がする。
「…あら??」
まずい!!!目が覚めているとバレたか???
「凄い汗が…よっぽど苦しいのですね……」
よかった、バレてない……
俺の心音はドラムロールくらい早くなっていた。
それと、この声、喋り方、間違いない。
結城夏花だ!
俺がどれだけテレビで、ラジオで、ライブで...(挙げるとキリがないが)この声を聞いてきたか。
あんな事件がある前も、テレビで観てたっけ。
やはり、少し記憶が曖昧になっている。
でも、どうしてこんなところに…?
その時だった。
ピトッ…
冷たい何かが俺の顔に押し当てられた。
「冷たっ!!」
俺は思わず声を出して起き上がってしまった。
「きゃっ…!す、すみません!汗が凄かったもので……」
右手にタオルを持ち、少し顔を赤らめている結城夏花が目の前にいた…
その赤みがかった長い髪と透き通るような白い肌は近くで見ると、より一層綺麗に見えた。
目を開ける前から結城夏花とは分かっていながらも、いざしっかり目視すると、そのオーラや可愛さに圧倒されてしまう。
「よかった……さっきは心配したんですよ?」
彼女に見惚れていた俺はその言葉にどう返答していいのか分からず、沈黙ができてしまった。
俺の童貞はこんなとこでも邪魔をしてくるのか…!
「あ、あの大丈夫ですか瀬良さん??」
「……え?ど、どうして僕の名前を……?」
「さっきお医者さんから聞いちゃいました笑」
か、可愛すぎる。。
そのやんわりとした喋り方で『電脳少女』センター結城夏花が、俺の名前を呼んでいる。
俺は明日にでも死んでしまうのだろうか……
「そ、そうでしたか。…それと、看病して頂いたみたいで、ありがとうございます」
内心パレード状態だが、俺はあくまで冷静を装いながら返事をした。
「いえいえ、むしろしない方がおかしいです!…それと…今度は目、ちゃんと覚めたみたいですね笑」
「ぐはっ…」
「だ、大丈夫ですか!?」
「は、はい……大丈夫……です」
危ない危ない。あまりの喜びでまた意識が飛びそうになってしまった。
彼女といると、心臓がいくつあっても足りない気がする。
「それならよかったです。」
彼女は心配そうに俺を見て言った。
「あ!私の自己紹介がまだでしたね!私、結城夏花と申します。『電脳少女』というアイドルグループで活動しています!」
当然、俺は知っている。
しかし、ここはどうリアクションするべきなんだろうか…??
ファン全開で行くとおそらく引かれてしまうし、知りませんだと世間に興味の無い失礼な奴になってしまう。
「あ!テレビで観たことあります!『電脳少女』さん凄く人気ですよね!僕も何曲か知ってますよ!」
俺は、そのどちらでもないリアクションをした。
大ファンなのは隠していこう。
「嬉しいです!…これ、良かったら聴いてください!
来週発売のニューシングルです!……他の人には秘密ですよ??」
「あ、ありがとうございます!」
サインが入っている上に本人からの手渡し…シンプルにめちゃくちゃ嬉しかった。
「ん?」
俺は書かれたサインを読み、疑問を抱いた。
そこには「命の恩人、瀬良海斗さんへ」こう書かれてあったのだ。
「??どうかされました???」
「この…命の恩人っていうのは一体……??」
「...覚えていないんですか???2日前の夜、襲われかけた私を瀬良さんが助けてくれたんです...あの時は本当にありがとうございました。」
「……え!!あれ結城さんだったんですか!!??」
「はい……」
あの日の俺、まじでグッジョブ!!!!
それと、2日間の意識失ってたのかよ俺。
読んで頂きありがとうございました!
では!