第20話 悲しい過去
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「瀬良さん、何だか眠そうですね。昨日眠れなかったんですか?」
朝9時、みんなで少し遅めの朝食を食べている時、向かいに座っていた千尋が食べる手を止めて聞いてきた。
「そ、そうか?…別に眠く無いんだけどな…」
「嘘だ〜。だって…さっきから欠伸の回数が尋常じゃ無いですよ?」
「朝は大体こんな感じなんだよ…」
見栄を張っているが、千尋の言う通り本当はめちゃくちゃ眠い。
昨日の一件がずっと頭の中でリピートされている。
零が来なかったら俺は一体どうしていたのだろうか……斜め前に夏花さんが座っているのだが、気まずくてお互い目があっても逸らしてしまう。
まるで付き合った翌日の男女みたいだ。
「瀬良さん…ちょっと来てください。」
朝食を食べ終わり後片付けをしていると、光莉がコソコソ手招きをして俺を呼んだ。
「どうした光莉?」
「しっ…声が大きいです!私がまた殺されそうになったらどうするんですか?」
「わ、悪い悪い……で、なんの話だ?」
俺が声量を下げてそう答えると、光莉は周りを気にしながら小声で話を始めた。
光莉と俺とではかなり身長差があったので、俺は膝に手を置き身をかがめる様にして話を聞いた。
「瀬良さん…夏花さんと零さんの様子がどうもいつもと違う気がするんですが…何か知りませんか?」
やっぱり夏花と零の話だった。
昨日は散々俺のことを突き放していた光莉だが、あの2人の事となるとそんなことはどうでも良いのだろう。
「さ、さぁ…2人とも昨日の疲れがまだ残っているんじゃないか?」
理由は知っている…が、俺はその事を口外するわけにはいかない。
「そうですよね…あなたに聞いた私が間違っていました。0.0000001%の可能性に賭けたんですが、やっぱり瀬良さんはダメですね……」
俺に対する光莉の煽りスキルが格段に跳ね上がっており、いつ俺のメンタルが破壊されるのか心配になって来た…
「今からあの2人の前でお前素顔を暴露してやる……」
「そ、それだけはやめてください〜〜」
光莉は目をウルウルさせながら必死で俺を止めようとしてきた。
どうやら俺は、光莉の弱点を見つけたらしい。
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「おい海斗、ちょっと来い。」
今度は康平に呼び出された。
俺を呼んだその声は怒りに満ちており、顔も鬼のような形相になっている。
「な、なんだ?」
俺は恐る恐る返事をし、康平の方へと近づいた。
「お前……何て事してくれてんだよ。」
明らかに怒っている。
でも心あたりが無いぞ…千尋をおんぶした事も昨日謝ったし……
まさか…一晩寝て、彼女をおんぶされた事に対する怒りが改めて芽生えたのか?
確かにおんぶする程の怪我ではなかったかも知れないが、あの状況では仕方ないじゃないか……
「わ、悪かったよ康平。でも千尋の怪我が悪化するとまずかったから…」
「は?何言ってんだお前?」
「え?千尋をおんぶした事を怒ってんじゃないのか?」
「何でそれで俺が怒るんだよ。抱っこするなりおんぶするなり好きにしろ。」
こ、こいつ……自分の彼女の事を何とも思っていないのか?もう手遅れかもしれない。
「…じゃあ何に怒ってるんだよ?」
恐らくここで俺が怒っても康平の特殊性癖は全く変わらないだろう…そう思った俺は話を続けることにした。
「さっきお前、光莉様を悲しませていたな…?」
「ひ、光莉様…?」
「お前如きが光莉様を悲しませやがって……俺はそれに怒ってるんだよ!」
「いやお前キレるポイントおかしいだろ!」
「俺の天使が悲しんでるんだぞ!?怒るのも当然だろう!!」
「怒るなら千尋の事で怒れよ!」
「何でそこで千尋の話になるんだよ?」
「…お前には嫉妬という感情が無いのか?」
「海斗…お前会話のキャッチボールもできないのか……もう話しても無駄だな。だが、今度光莉様を悲しませたら末代まで呪うからな!」
そう言って康平は2階へ上がっていってしまった。
最近、康平との会話が噛み合っていないのは気のせいだろうか……
➖➖➖➖
昼前にはロッジの片付けや荷物の整理が終わり、俺たちは帰ることになった。
「じゃあ、帰りは俺たちが先に出ますね。千尋を病院に連れて行くので…今日はここで解散しましょう。」
「…すみませんが瀬良さん、もう少しお付き合いして頂いてもよろしいですか?」
ここに来た時と同様に、2組に分かれてロッジを出ようとした俺たちを、神山さんが引き止めた。
「え?他にまだ何処かへ行くんですか?」
「海斗、ちょっと一緒について来て欲しいところがあるの……時間は取らせないから……千尋も、お願いしてもいい?」
今度は神山さんではなく、零が俺たちにお願いをしてきた。
「はい!もうあんまり痛くないので大丈夫です!」
千尋が返事をし、俺と康平ももちろんOKした。
「3人ともありがとう…」
そうして俺たちは車に乗り、神山さんたちの後ろについていった。
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ロッジを出て少し経った時、神山さんたちの車が止まった。
どうやらここが目的地のようだ。
しかしそこは、施設などでは無く、ただの田舎の交差点だった。
一体ここに何があるんだ?
俺は不思議に思いながらも車から降り、みんなについて行った。
よく見ると、そこの交差点の電柱の横には花束が3つ供えられていた。
誰かここで亡くなったのだろうか。
すると零と夏花さん、光莉の3人が無言のままそこへ花束を置いた。
だからさっき花屋さんに寄ったのか…
零に手招きされ、俺たちはみんなで手を合わせた。
「あ、あの……ここで誰かお亡くなりになったんですか?」
聞きづらくて聞けなかった事を、千尋が零に質問した。
「2年前のこの時期に、ここである女の人が亡くなったの。」
「それって…誰なんですか…?」
「私もその人がどんな人なのかは知らない…」
「じゃあ…どうして?」
「…私たちは2年前、地方も盛り上げようって、この近くで冬のライブを開催したの……」
あぁ、確かあのライブは外れて行けなかったんだっけ……
「そしてその日、私たちのファンの女の子がライブの帰り道で事故に遭って亡くなってしまった。」
「まさか…その子が…」
「そう…今花を置いたこの場所で亡くなった……だから今回長野のスキー場を選んだの。」
「……」
「ごめんなさいね、付き合わせちゃって。人数が多い方がこの子も嬉しいのかなって思って……」
「い、いやいや…私たちも何かの役に立てたのなら嬉しいですし…」
そうして俺たちは車へ戻り、東京へ帰った。
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この2日間、色々なことがあったな。
俺は車を運転しながらそんな事を考えていた。
行きと同様、千尋は隣で爆睡し、康平はぐったりしている。
しかしもうすぐクリスマスか……帰る途中、色付き出した街並みを見てそう思った。
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では!




