第1話 日常
よろしくお願いします
「…以上、『電脳少女』の皆さんでし…」
ピッ……
夜の11時、カフェの締作業を終え、誰もいない無音の店内での一服は今日1日の疲れを吹き飛ばす最高の時間だった……
さっきテレビに映っていたキラキラしたアイドルとは違って、俺には明日も今日と変わらず同じような日が続くのだろう。
そう思いながら2本目のタバコに手をかけた。
東京に出てきて3年、小さい頃からの夢だったカフェをオープンすることが出来たのだが、それは自分の理想とは少し違っていた。
小学生の時、初めて母のために作ったコーヒーの味を褒められ、嬉しかったのがカフェを開くという夢のきっかけだった。
そんな単純な理由だった……
都心の人目につくような場所で、落ち着いた雰囲気の店を出したかったのだが、現実はそう上手くはいかない……
高校を卒業してすぐ、カフェで5年ほど働いた後上京した俺にはそんなお金は無かったのだ。
立地の良い場所は田舎者の想像を遥かに超える額で、今でもその衝撃は忘れていない。
しかし、人目にはつかないものの、落ち着いた店を出せている事には満足している……
3本目のタバコを吸おうと手を伸ばしたが、先程の1本が最後だったようで、時刻はすでに23時30分を超えていた。
「…そろそろ帰るか…」
そう独り言呟き、重い腰を上げて戸締りをして店を出た。
もうすぐ12月になるこの時期の夜はとても肌寒く、息を吸うたび体の中から冷やされるような感覚だった。
マフラーに顔を埋め、前方斜め下を見ながら帰路を最短距離で歩く。
もうどれほど空を、星空を見上げていないだろうか。
あるはずのものが見えない寂しさにはもう慣れてしまっていた。
〜〜〜
……ガシャンッ
暗い裏路地にある自販機でホットコーヒーを買い、少し休憩することにした。
どうも今日は身体が重く、足が進まない。
相当疲れが溜まっているのだろう、今日は帰ってすぐにでも寝よう……
そう考え事をしている時だった……
「助けて!!!」
突然の声に心臓が止まりそうになった。
近い…後ろの方だろうか……
暗闇の中、助けを呼ぶ女性の声が俺の耳に響いた。
読んで頂きありがとうございました!
では!