準備
「あの…料理と言いましたが人族が食糧に火や水を使い食す事ですかな?」
ゴブリン族の長老が文太に聴くとニカッと笑い話す。
「その様子だと料理を知らぬようだな?せっかくこの場所に寄らせてもらったんだ!是非ここに集まっている者達にうまい物を振る舞いたい。」
するとブルテリキングが鼻息を吹きムスッと話す。
『人族の料理とやらは食した事があるがあまりうまくなかった。それならそのまま食した方がいい。』
すると文太は額に手を付けて首を振り嘆く。
「なんて事だ!…本来なら食こそ友好な証とも言えるのに…美味しくない?とんでもない!」
文太は額に当てていた手を開いて前に突きだし…
「ならば!俺がうまい料理を教えようではないか!否!うまいと言わせてやろう!」
プヨンと弾む身体でゴブリン族の長老に切るものと煮る物がないか聞く文太。その姿を見た理子は眼を閉じて首を降る。
「なんでそんな自信が出てくるんだろうねぇ全く。」
理子は本人の後ろで呆れて言ったが文太には届いていないと思った。
「この袋には人族が置いて忘れた物があります。我々には不要な物ですから好きに使いなさい。」
文太に物が入った皮袋を渡す。ガチャガチャと金属音がする。文太が1つ、2つと確認する。
「さすがに包丁はないか…手頃なナイフに鍋もあるか。あとは…ムッ?これは?」
文太は金属の下に敷き詰めた穂種が付いた草を取り出す。
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名:ティンク麦
発見難易度:F
食用:(鮮度65% 腐敗35%)
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「…この場所に麦があるとは…。」
「その草はどこでも生えてる草で実は固いですが食べれない事もない物です。」
「麦は表面が固いから煮て食べないと美味しくない。」
文太は稲穂の部分を触ると実がまだしっかりと感じられる。
「…これはいい。他の食材を見せてくれ!」
後ろで見ていた理子は文太の熱気が伝わり呆れてため息を出した。
(この料理バカは…)
ゴブリン族の長老の後に行くと他と違う木の家あった。
「ここが食糧庫です。この木はとにかく頑丈でブルテリ達の突進にもびくとない不思議な木です。」
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名:硬涼木
発見難易度:D
品質:E ややキズあり
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「このタルの中に食糧を入れてます。」
「ほぉ、なかなか立派なタルだな。誰が作ったのだ?」
文太はバシバシタルを叩き、中を覗くと果物に似た物や草の根が大きい物、怪しげなキノコもあった。
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名:スピルベリー
発見難易度:G
食用:(鮮度90% 腐敗:10%)
名:モラカブ
発見難易度:F
食用:(鮮度90% 腐敗:10)
名:ママメルキノコ
発見難易度:F
食用:(鮮度90% 腐敗:10%)
副作用:生食より倦怠感。加熱により除去。
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「ゴブリン族は人族の文化に興味がありましてな。遠くから見て学ぶ者や人族が置いていく物を真似て趣味にする者もおります。私も人族の言語に興味を持ち学びましたものじゃ。」
文太も聞いておいてまだ食材はないか?とタルの奥を調べる。
「んっ?これはなんだ?」
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名:シュマチュウ
発見難易度:F
食用:(腐敗5% 乾燥100%)
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「見た目は虫に似てますが植物です。食べると渋く苦いのですがカラカラに干からびると食糧の保存がかなり長くなり重宝しております。」
「はて?これと似た物を見たことあるが……あ~あれか。」
文太は地球で暮らしていた時にリース=ギャロップにこれと似た物を見せてもらった事があった。しかも味も苦いならなおさら近い。
「…これだけあればある程度は作れるな。」
「おい、文太。何を作る気なんだよ?」
さすがに理子がしびれを切らして文太に話しかける。
「気になるか?まぁ任せておけ。それより理子、外で火とキッチンみたいな土台を作れるか?」
「だから何を作るんだよ!教えたら協力してもいい。」
文太はタメ息を出して渋々理子に作る料理を耳打ちする。
「……それって作れるのか?」
「当然。しかし火と土台は必要…協力するよな?」
文太は理子に話したから手伝うよな?と眼で理子を見る。
「わかったよ。」
理子のOKが取れた所でゴブリン族の長老とブルテリキングに話す。
「すまないが手が足りん。美味しい料理を作る為、協力してもらえないか?」
「わかりました。手伝いましょう。」
『同胞の飢えを静めるなら手を貸すことも構わない。』
「ならゴブリン族の数人は火と土台を、ブルテリ達は食材と木を集めて欲しい。集めて分だけ皆にうまい料理を振る舞おう。」
それぞれの者達は文太の言葉と族のトップの指示に従い行動を開始する。
「数が多いゴブリン族から一人、俺の手伝いを貸してくれ。」
「は~い。ならあたいある~。」
一人のゴブリン族の女の子が声と手をあげる。
「あたいその~りょーりってヤツさ…てつだいたい~。」
「いいぞ。まずは…っとそう言えば名前を聞いてなかったな?」
「なまえ?そんなのないよ~。ゴブリンはちょうろういがいはみなゴブリンだよ。」
「そうなのか?ならば「いちこ」と呼ぶとしようか。真っ先に手伝いに参加したからな。」
文太の適当なネーミングはともかくゴブリンの女の子改めいちこと呼ぶ事にした。いちこはありがとう~と緩い返事を返した。
文太はいちこに指示を出す。
「まずはこのティンク麦を大量にここに持ってきてくれ。持ってこれたらこのタルに水を目一杯汲んできてくれ。頼んだぞ。」
いちこは返事をすると走るように行動を開始する。
「さて、このスピルベリーの味は……ほぉ、トマトに近いな。」
食材を爪先程度に食して味を一通り確かめると袋から取り出したナイフ、すり鉢、丈夫そうな木の棒、使えそうな鍋を2つ出して作業に入る。
「この世界に鍋やすり鉢があるとはな、有難い。」
文太はティンク麦の稲穂の部分をナイフで切り落とし、木の棒を稲穂の上から押し付けて上下に転がしていく。すると稲穂から実が飛び出していく。
「調理法はこの世界でも大丈夫だな。」
飛び出た実をすり鉢に入れていく。この作業を繰り返してすり鉢にある程度に実が入るといちこに言う。
「次にこの棒ですり鉢の実を粉にするんだ。」
いちこはは~いと返事をしてすり鉢の中にある実を木の棒を押し付けてゴリゴリと潰していく。
文太は先程の作業を繰り返してゴリゴリと潰しているすり鉢に追加の実を入れていく。
「そろそろ大変に、おぉ!ぼぼ粉に近い程になっている。ゴブリンとは力が強いのか?」
「あたいはこの住み処では一番弱いよ~。なんか凄く力が腕に湧いてくるの。こんなに力出したの初めて~。」
いちこはびっくりしながらもゴリゴリと実を粉にする。
「即席であるが小麦粉の完成だな。後はキッチンが…あちらも出来たようだな。」
文太が理子に火と土台みたいなキッチンの制作が完成した声が聴こえてくる。
「おーい!一応完成した。見てくれは気にするな。」
理子が文太に報告すると文太ニカッとして答える。
「上々!後は俺の腕前で満足させてやろう。」
「でも、本当に作れるのか?」
「先程、小麦粉は完成した。後は肉が欲しい所ではあるがな。」
文太は両手にガチャガチャと出来上がったキッチン土台に道具を運んだ。
「さて、いちこよ。鍋に水を入れて火の上に吊るすのだ。」
「は~い。あの?何作るの?」
いちこは色々としたことがない手伝いをした事で文太の料理に一段と興味が膨らみ作る料理を聞いてみた。
「作るのはパスタ。肉が手に入ればミートスパゲティを作る。」
次回:協調