転移
神から【運命の歯車】を外す事を頼まれた文太と理子だが神からさらに話す。
『ワシ自ら外そうと試したのじゃが…はるかに長く供にいた為かなかなか情が邪魔してのぉ。頼んでもよいかの?既に歯車には了承しておる。』
神の真後ろに浮かんでいた白と黒の歯車が動き出して文太と理子の掴める位置にピタリと止まる。
すると文太と理子の脳内に苦しむ声が聴こえた。
≪外して…くれ…もう……友…を……こま…らせ…たくな……い。≫
『…すまぬ。今までよく働いてくれた…願いは聞いてやるとも。ゆっくり休め。友よ。』
文太と理子は神の顔を見た。白い髪で顔の表情はわからなかったが覚悟を決めたように二人を見て頷いた。
「よく分からんが、稲…やるぞ。」
「大丈夫。俺が理解してるから。」
文太と理子は歯車の両端を掴み、
1、2、3! ガコン!
お互いの身体の方へ引っ張るとくっついていた歯車が取れる。
≪ぁぁ…やっと……≫
脳内に苦しむ声が報われた様な微かな元気がある声に変り…聴こえなくなった。文太と理子が外した歯車は溶けるように透明になり消えていった。
『二人供。良くやった。これで運命に左右される人はいなくなる。お主らも黄泉の河に悠然と行ける訳じゃが…』
歯車を解放した束の間、文太と理子は自分たちが既に死者であり霊でもある事を実感する現象が起こる。足がジワジワと透明になってきていた。
「文太。短い人生だったな…」
「稲…そうだな。」
二人がもうすぐ消え行く姿を見つつ気持ちが沈む。
『お主らにはまだ黄泉に行く以外の選択はあるぞい。』
二人は驚きながら神を見た。
『この惑星での転移、転生は生を愚弄する為ダメじゃが他の惑星なら可能じゃぞ。』
文太と理子は神に飛び付く勢いに顔を寄せた。
「神さん!先に言ってくれ!」
「本当だよ…ったく。」
神は最初はキョトンとするが二人が生きたい事がわかると笑いながら答えた。
『ホッホッ。それはすまぬ。この惑星には戻れんが構わぬか?』
文太と理子は思う未練はなくはない。だが何も知らない人生が終わる事は嫌だった。
「まだ自分は知らない料理もあるうちに天に逝くのは困る!」
「俺もまだ生きれるなら…。」
『あいわかった。お主らを別の惑星に転移させよう。』
神は両手をパンっと鳴らして合掌する。すぐに両手を放すと真ん中に木でできた筒が現れた。見ためはおみくじに似ている。
『お主らの惑星にはこれと似たようなもんがあるじゃろう?ワシが人に真似させて造らせた物のひとつでの。この中には運命の歯車の分子が組み込まれており、良き導きになろう。』
神は二人に交互に持たせて振らせていく。振り終わると筒が宙に浮いて横にゆっくり回転する。その回転はまさに歯車の様にカクカク回った。そしてピタリと止まると神にキラキラした光の玉を出した。
『生きる物を他に移す分は簡単じゃがワシ自ら移す為に神力を使わなければならない。なかなか疲れるが友を楽にしてくれた恩を返そう。さて…ムッ?何と!?……お主らの生きる場所が決まったわい。』
神が1度驚くがすぐに冷静になり話す。
『お主らは惑星トゥーラに決まった。』
二人はポカンとしながら少し考え口にする。
「「トゥーラ?」」
『場所はブラックホールの先を経て、二つの丸い惑星が隣接し惑星同士が癒着している惑星じゃ。大きさは二つ合わせるとこの惑星と同じくらいかのぉ。』
神が説明するが聴いた事がない場所を言われても全く想像できなかった。
『フム、惑星トゥーラはお主らが描く物語やお伽噺がかなり近い世界じゃろう。惑星には魔素と呼ばれる気があり、様々な人に似たような生き物もいれば獰猛な生き物もおる。さらに魔素を使って生を生きる人や生き物もいる。』
神から話される場所に流石の文太も驚く。理子も自分が考えるキャパシティがいっぱいになり苦悩の表情を浮かべる。
『まあ無理もない事じゃが…これも運命なのか。お主らが来る少し前に一人、転生として惑星に送っておる。』
神から意外な話を聞き文太はさらに驚く。理子は会話の中での『3人』と言った事を思いだし整理する。
「…何故転生?今のままで転移はダメなのか?」
『詳しい経緯は省くが本人は死んで喜んでおったわ。』
神が説明を終えると二人の前に立つ。
『この惑星に転移させても生きるのが大変であろう。1つ恩恵を授ける。好きな望みを言うがよい。』
理子はイマイチ考えがまとまらなく悩むと
「神さん。俺は料理が好きだ。料理が出来る男ならそれでいい。」
文太が言うと理子は納得したように文太を見る。
「俺は…男にナメられない強さ…でいいかな。」
二人が希望を言うと神は頷きながら話す。
『ウム。ならばその様にして惑星に送るがよいかの?』
すると理子が神に近づき小声で話す。文太は不思議そうに理子を見る。すると神がにこやかに頷き、両手を広げると二人の身体は光りに包まれた。
『では、小田巻文太、稲本理子。次なる人生を謳歌する事を祈っておる。さらばである。』
光は大きくなり、宙に浮かび…そして音もなく消えていったのであった。
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なんだか暖かな風が頬を伝わる……草の香りも漂う。
文太は眼を覚ますと青空が広がる。わずかに光が眼に入り片手を上げて遮る…が文太は違和感を感じる。
横には眼を閉じている理子がいた。
「ムッ、稲、稲!」
「んっ…あれ?ここは…」
「どうやら着いたようだな。」
文太が言うと理子が文太を見る。理子が立ちあがり眼を擦る。
「文太…お前…。」
「なんだ?俺のどこかへんなのか?」
文太が自分で顔を触る。以前よりムチムチした感触が伝わる。
何か…変だ⁉どうした?俺?
キョロキョロ見渡すと近くに水たまりがあった。近寄ると光の反射により鮮明に今の文太を映す。
「なっ、なっ、これは…俺…か?」
「プッ、ククク…マジかよ…神様…」
理子は堪える笑いを手で隠し身体を震わす。
そう以前はガッチリ体型でスポーツマンであった文太だが今はものすごく…太っていた。
「プッハッハ、昔の文太じゃねえかよ。」
理子はプヨプヨした文太をペタペタ触る。
「稲…やけに落ち着いてるな…送られる前に神さんに言ってた事ってまさか…」
「なっ?そんな訳…ないぞ。俺の美貌を残してくれって言ったんだよ!」
理子は後ろに向いてムスッとする。
しかし最後に神に小声を伝えたのは…
「あの…よければアイツを太らせてくれ…」
『フム?できん事ないが…』
「ガッチリ体型は嫌いなんだよ…その…太った方が…そのまだケンカしねぇから…さ。」
意外な発言。神も驚く話だが理子の真意は今後話される…だろう。
次回:まとめ①