過ち
……っ………んたぁ…文太!
文太は暗闇から音を聴いた。その音を聴き続けると声とわかった。その声は徐々に大きく、明確に聴こえる様になりその声が誰なのかがわかった。
文太はゆっくり眼を開けると暗闇やみから一転して真っ白な空間が広がっていた。すぐ隣に声の主がいた。理子だ。
「やっと起きたか!」
「ウーン…稲。無事だったのか。そうかそうか…俺は助けに間に合ったのか。」
文太が満足気に言うと理子は呆れた表情を浮かべる。
「これが助かった状況と思うか?目が覚めたら白い場所いるし、文太は起きねぇし…訳わかんねぇよ。」
『醒めたようじゃな』
理子は額に指を当てながら状況を整理して理性を保っているとどこからか老人と似た声がする。しかし二人は驚きながら辺りを見ながら身構えていた。その声は近くで話してる声ではなく直接頭の中で響いてる声であるからである。
『そう警戒するんでわない。』
「ならば姿を見せてほしいのだが?」
「文太。落ち着け。」
姿が見えない為か文太の顔がしかめた顔で答えた。理子が文太の顔を見るとすぐに肩に触れて文太を落ち着かせる。
『ホッホッ、それはすまぬ。さて人の姿は久しくなっておらんが…』
老人と思われる声が途中から消えると二人の向いている前の空間に渦が現れると瞬く間に二人の身の長を超えて大きく広くなる。
その渦の真ん中からスタスタと歩いてくる老人が見られた。
頭の上からスッポリと被ったかの様な白い服、今の時代にはあまり見られないわらじ草履。縦長な顔立ちだが髪が長く口元は白いヒゲで覆い隠され、眼も眉から生える白毛で隠され表情が分からない。だが二人はそれよりもただ一点を見つめている。
背中に純白な翼があったからだ。
『先ずはこの場所が何処なのかが話すべきじゃろう…』
翼の老人が片手を軽く挙げるとその近くから真っ白なイスと思われる物体が現れた。見ためはモコモコした綿菓子のようだ。
『少し長くなるからのぉ。』
翼の老人がモコモコしたイスに腰を下ろすとほどよく沈み丁度いい高さで止まる。二人も腰を下ろすと驚く程柔らかく適度な高さに安定する。老人が咳払いをして話を始めた。
『さて…この場所は天と獄の狭間に現れる運命の道。本来なら霊魂がここに渡ると天か獄に分かれるのじゃが…極めて稀な事に運命が不明な霊魂が現れる。』
翼の老人がそこで話を止めて二人からの言葉を待った。
「ん~分からん!稲は分かるか?」
理子は眼を閉じながら老人が言った言葉を整理する。眼を開けたとき片手をこめかみに当てながら真っ青になった顔を下に向ける。
「…あり得ない。俺はここにいる…文太も…」
「稲、落ち着け。何の事なんだ?」
『そちらのお嬢ちゃんは察しがええのぉ。二人は霊魂。現世の地球では二人は…死んでおる。』
その言葉に文太が立ちあがり抗議する。
「あり得ない!何故自分がここにいるのかは分からないがちゃんと姿が見えてるではないか!」
『フム、その問いはすぐにわかるわい。先程から身体から薄い煙のような物が見えるじゃろう?その煙は霊煙といい簡単に言うたら霊になった証。生を受けた人の体内でエネルギーとして働き、死を迎えると霊となった物から外に抜け出す。確か人は「氣」と言葉の解釈しておったかなのぉ。』
二人は自分の身体を眼を凝らして確認する。かなり見にくいがかなり薄い煙が身体から上に向かって昇っているのがわかった。
『ようやく納得したかのぉ。』
「いや、しかし…ウムム。」
文太は頭の整理が追い付かず混乱しかけている。すると冷静さを取り戻した理子が質問をする。
「じいさん。あんたは何者なんだ?その翼といい、今、俺達が置かれてる状況が分からないんだけど?」
翼の老人が長く伸びた白いヒゲを触りながら返答する。
『ワシは管理者。この惑星の「生命」「死滅」を管理する役割であり、星々からはいろいろな言葉で言われておる。この星では「神」、「仏」、「悪魔」などさまざまじゃから好きに呼べばよいわ。』
文太は驚き口が開きっぱなしになり、理子は何となく察していたが緊張した顔つきになる。当然にも人が信仰する者が二人の前に座っているのだから無理もない。
理子は文太がポンコツな分、自分がこの状況を少しでも把握しなければならないと思った。先程この老人こと神様はこの場所の名を教えた時…行きたくもない名を話したからであった。
理子は知らぬ間に口内に溜まった物を飲み込んだ。死んでいても汗や唾液は感じ取れる…理子は静かに質問した。
「あの…どうして俺…私達をこの場所に…その…連れ」
理子は緊張して普段は使わない女子の口調で話すが言葉がたどたどしくなる。
「稲。随分片言だな。なぁ神さんよ、この場所に連れて来た理由は何なんだ?腹が減ったのか?」
まるで友人の如くズバズバと質問する文太。理子はあり得ない文太の言葉に頭を抱えた。流石に理子は文太に怒る。
「バカ!相手は神様だろうが!」
『ホッホッホッホッ。』
まさかの神の笑い声に理子の怒りが止まる。
『いやはや愉快じゃ。…さて連れて来た理由じゃがな、お主らはあの事故では死ぬ定めではなかった。無論助けた子供もじゃ。しかし子供は生きお主らが死を迎えた。これにより【運命の歯車】がちとまずい事になってのぉ…。』
翼の老人こと神様が立ちあがり頭を下げた。
『すまぬ。ワシの過ちで二人を巻き込んだ。』
まさかの神の話と謝罪に理子は困惑して神を見つめた。すると文太が立ちあがり神の肩に手をかけた。
「神さんよぉ。俺はあんたの話はサッパリ理解できんが悪いと思い謝った。だから俺は許す。理子も頭がいいから既に許してるはずだ。」
文太がニカッと歯を見せながら理子に顔を向ける。理子は一瞬文太を見て何か言うつもりだったがひと息ついて神に話した。
「私は…いや、俺は子供が生きてるなら悔いる事はない。けどやはり生きていたかった…運命なのかな…。」
神は頭を上げて何か言いかけたが咳払いをして話す。
『…ごほん。すまぬな。本来なら黄泉の河に向かうのだが黄泉全体が止まっておる。理由は【運命の歯車】が原因である。』
神は片手を挙げると神の真後ろからその場所に最初からあった様にバスケットボール位の大きさな白い歯車と黒い歯車が噛み合っていたが動いてはいなかった。
『この歯車はお主らが住む惑星が誕生して生き物が現れた時に創った物じゃ。淀みなく一定に動く事で生き物は生ある限りの運命は決まっておった。
しかし生きる運命は数多く増えるにつれ運命の歯車は分散し生き物の体内入り生き物が決めるかたちに動き始めた。
この歯車は意思を持ち始め自ら動きを止まるようになったしもうた。
歯車はワシに止まるのは自らの生命が終わる為だと言うがワシは納得はしなかった。
しかし歯車はお主らの事故をきっかけに動きを止めた。ワシは歯車の意思を納得しなかったばっかりに運命が止まった人を3人も死ぬ運命に変えてしもうたのじゃ…。本当にすまなかった。』
神は二人再度頭を下げた。
『そしてワシからお願いがある。あの歯車を二人で外してくれぬか?』
次回:転移




