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異世界よ!飯なら俺の飯を食え!  作者: 霜降りトマト
1/8

【プロローグ】 二人

見てくれましてありがとうございます。

この物語は財宝や地位、魔法や伝説の武具と言った異世界の世界に転移する御話。先ずは転生を承ける前に(さかのぼ)る…




20××年 初秋 ★★高等学校 家庭科室



「フ~ンフフン、フンフ~ン♪」


家庭科室のキッチンに鼻唄交りで片手に持っているフライパンを上下に振り、食べ物と思われる具材を宙に浮かしてはフライパンの上に着地させる。具材はほどよく焼き目が見え始めていた。


「ン~いい色だ。」


男は満足気に近くに置かれていた皿に具材を盛り付けていく。


「仕上げに青のりをヒトツマミ…完成だ。」


見ればホカホカの野菜炒め。さっそく食べる為に椅子に座ろうとした時、家庭科室のドアがガラガラと音をたてて開く。


「尾田巻!昼休みの終わりの予令がなって皆が授業してるのにお前は何をしてんだ!」


「やぁ、先生。いいタイミングだ。料理が完成したので出来栄えを確かめてくれませんか?」


にこやかに担任と思われる教師に味見を頼む男。

尾田巻文太(おだまき ぶんた)は昼休みの終わりの予令など眼中になく皆が次の科目を勉強している中、一人で料理を作り満足気に浸っていたのである。


「出来栄えだ?そう言う事は生徒指導室でご託を言うんだな!」


「いい返答ですね。味の評価は多い方がいい。素晴らしいです先生!」


文太は担任に親指を立てて平然といい放つ。それを見た担任がイラっとしながら文太の首もとを掴み生徒指導室に連行していった。その両手にはできたてホカホカの野菜炒めと一緒に。


その後生徒指導室に入ると図体の大きな体育専攻の教師が椅子に座っていた。


「やぁ、浦部先生。いわれのない罪を受けにきましたよ。」

「黙ってろ。先生、反省文の監視お願いします。」


生徒指導顧問の浦部はタメ息を出しながら文太に言う。



「お前な…今月に入って4回目だぞ。別に料理を作るなとは言ってないぞ。家庭科顧問の倉野先生に異例だが昼休みのみ作っていいと言ってるのだぞ。」


「先生!自分の中に燃えたぎる料理愛が止まりませんでした。倉野先生との約束を破る形にはなりましたが…しかし!俺の正義が『作れ!お前はやれる!』と訴えてきまして。」


「お前はヒーローじゃなくて生徒だ。尾田巻、お前には倉野先生に対しての謝罪文も追加で書くように。」


文太はタメ息を出しながら近くにある文机に座った。


「あっ、先生。先程いい出来栄えの野菜炒めを作ったので試食してほしいのですが。少し冷めましたが…味は大丈夫です!」


浦部先生と担任の教師は諦めのように文太を見てさらに深いタメ息をはきだした。



生徒指導室の罰則が解かれて教室に戻る事を許された文太。

五限目の授業が丁度終わり教室に入ると数名のクラスメートに囲まれた。


「尾田巻!高3になって料理作るなよ。」

「文ちゃん。確か就職希望だっけ?」

「オデン!昼飯サンキューな。助かったぜ。」


クラスメートの矢継ぎ早の返答に笑いながら答えていく。

ちなみにこの尾田巻文太は何故かクラスメートの信頼が厚かった。「オデン」は友達から貰ったあだ名である。


「フッフッフ。野菜炒めは先生に献上して罰を軽くしてもらったのは計算通りだ!皆にもプレゼントはあるぞ。クッキーだ。」


「これが狙いだ」と言わんばかりに懐から袋を取り出した。文太はクラスメートに手作りクッキーを配り始めた。


「いやいやクッキーって!お前は女子か!」

「でも文ちゃんのってマジ美味しいよね。」

「何故こんなヤツが生徒会長になれるんだろうな…あり得ねぇ」


尾田巻文太は高3にして生徒会長に抜擢されていた。

親友の差し金もあり立候補したら他の立候補者を引き離す票数で当選してしまったのだ。

その投票結果を見た教師一同は校長に再選挙を志願したらしいがその情報が大多数の生徒の耳届き、猛反発を受け却下された事があるのは生徒達の生きる伝説になっていた。何故尾田巻文太が生徒会長に抜擢されたのかは一人の親友(あくゆう)が元凶であった。


「いい匂いだな。1つ貰うよ。」


一人の女子が文太のクッキーの袋に手を入れ1枚取り出す。


「稲!すまない。絶品の野菜炒めをご馳走する計画が失敗した。クッキーで諦めろ。」

「ん?俺クッキーでいいって言っただろ?」

「オオ!そうかそうか!よしもっと食べろ!」


文太は笑いながら親友にクッキーを渡す。女は背を向きながら訳ありのような黒い笑みを浮かべた。


稲本(いなもと) 理子(りこ)。口調は男言葉だが成績優秀、運動神経抜群に加えスタイルも顔も女優レベルでスカウトに誘われる事は数知れず校内では月別に査定される彼女にしたい。彼氏にしたい人ランキングが発表されると常にNo.1と男女に人気。

【理子様ファンクラブ】と言われる組織もあるほど。本人はどこ吹く風か興味もない。クールな表情から笑顔を見せないが幼なじみである文太はよく笑うと周囲には答えていた。


「別に昼飯の弁当忘れた位で作りに行くなよ。俺には親切(ファン)な奴らがいるのによ。」


理子が言うと文太がムッと怒る。


「稲!ダメだぞ。周りが許しても俺はダメだ!それに料理の評価も聞きたい俺の願望がある。」

「フフ、冗談だ。感謝もしてるんだけどな~?」


ウムム!?そうなのか?と悩みながら答える文太を見て口元を手で隠しながら笑いを堪える理子。


幼い頃から互いの性格を知ってる為か理子は文太を困らせるのは得意であった。

熱血で愚直なほどわかりやすく困っていたら手助けする優しい男。タマに料理バカになるがそれも長所だと自分で決めるポジティブさは人を和ませる。だから自然と文太には人が集まる。


生徒会長になれば購買室が広く出来るかもと言ったら本当に選ばれたから驚くがそれ以上に面白さもあった。



今日行った科目が終わり、志望大を目指すものは教室に残り勉強し、それ以外の生徒達家に帰宅する。


文太は帰り道に理子に食材を買うから手伝えと荷物要員とかしていた。文太は困り顔も見せるが「食材」と聴きにこやかになる。その二人が歩いている後ろから睨み付けるように凝視する理子様ファンクラブのメンバーが数名いたが知るのは理子だけであった。


よく利用するスーパーの近くに行くと最近事故が多くなった十字路に着いた。事故が多い理由は十字路の先が遮るものがなく陽ざしが強く運転席の目線にかかるからであった。さらに減速標示がイタズラの為か運転席側からは分かりにくい位置に曲げられている。スピードを出したりすると気付いたら衝突する魔の十字路であった。


すると文太達が通り過ぎた後に後ろからガシャーン‼と大きな衝撃音がなり響いた。


「ムッ!事故だな。衝突自体はまだ軽い様だ…が」


さらにスクーターでスピードを飛ばしていた男が横倒しになりながら事故車を避けようとスクーターを手放したらズルズルと進み、近くで逃げていた子供を後ろに乗せた自転車と衝突した。自転車は横に倒れて後ろに乗せていた子供が車道に投げ出された。さらに悪い事は重なった…投げ出された子供の先にトラックが近づいていたのだ。


それを見た理子は咄嗟に子供の方へ走り出した!


「いーーなーー!!!」


文太は理子の後ろ姿を追うよにあられん限り走り出す。

トラックの運転手はブレーキを踏みながら手を振り合図する。

理子は子供を掴み歩道側に投げ飛ばした。子供はグッタリしているが安全な歩道に乗っかった。それを見た理子は文太に振り向きいい放つ。


「文太!来るな!」

「俺は助ける!!ウオオォォォ!!!」


文太が理子の肩に触れた時、トラックは二人を(はね)ね飛ばしたのであった……


文太は身体がコンクリートに当たる感触があるが意識はハッキリとしていない。理子を助けたのか?ダメだったのか?……文太の意識が逃げるように遠退き暗闇が増える。

抗いながらも手を伸ばしたが感覚があやふやになっていく……

そして全てが暗闇になると文太の意識は消えていったのであった……。




次回:過ち

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