先輩、やっぱりこっちの方がしっくりきます。
ある日の昼休み、私は小学校の時からの友達、内川まやと、真島奏多とたわいもない話をしていた。
「そういえば京子、ゴミ箱さんとのことなんだけど…。」
あの日、大失態を犯した私は、このゴミ箱事件について誰にも話すまいと思っていたが、小さい頃からずっと一緒にいた彼らには、様子が変だと疑われ、尋問され、仕方なく話した。それからまやと奏多も彼の事をゴミ箱さんと呼んでいる。
「またゴミ箱さんの話?あの日の事は忘れたいのにー。」
「ごめんごめん、でもね、よくよく考えてみると、そのゴミ箱さんってあの人なんじゃないかなって」
「あの人?誰だよそれ」
どうやら奏多も聞いていない話だそうだ。男のくせに私以上にキュートなお顔が疑問を浮かべている。かわいいな、奏多。
「えっと、私の勝手な想像だけど…」
ガラッ…
「五味京子はいるか」
教室がざわつく。
(えっ、なんで間宮先輩がここに?)
(なんであの間宮先輩が五味さん呼んでるの?)
(やっぱかっこいー)
(うわっ、やっぱ先輩かっけー、オーラ持ってんな)
教室に残っていた生徒達が騒ぎ出す。女子はキラキラ、男子もキラキラ。いや、教室観察してる場合じゃないって。ゴミ箱さん、今私のこと呼んだよね。ゴミ箱さん、間宮っていう名前なのか。うーんなんかしっくりこないな。やっぱゴミ箱さ「おい、ぼーっとしてんじゃねぇ。俺はお前を呼んでんだよ。前も思ったけど、お前ほんとに俺の声聞こえてんのか?」
「ゴミ箱さ…あ、ま、間宮先輩。なんのご用でございましょうか。」
いつの間にか長ーい足で私の目の前に来ていたゴミ箱さん。周りがさらにざわついてきた。こんなに近くで顔を見たのは初めてで、あぁ、本当にお綺麗な顔だ、と思っていた。あ、はい。あなたの声はしっかり届いていますが、得体に知らない恐怖とイケメンを間近に感じた興奮で頭が働かないのですって。
「ちょっとついてこい」
「あ、あの待ってください。ついてってどこに、なんで?」
「黙って」
そう言って腕を取られた私は教室中の視線を集めたままズルズルとひきずられていった。掴む力強い。痛い。どうなるのよ私は。教室を出る直前に見た奏多の顔はやっぱりキュートだった。
お読みいただきありがとうございます!