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転生者達の帰還  作者: カキング
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1話

 異変が起きたのは、物資をあらかた積み終わった時だった。

 鈍い音に続いて、車体がわずかに傾く。

 最悪の場合を想定してとっさに車体から離れると、男は頭をかばいながら地面に転がった。

「…………」

しばしの間。

 何も起こらない。幸か不幸か異常はおさまってくれたようだ。

 悪態をつきながらのろのろと身を起こすと、彼はゆっくりと車体を確かめていく。今のは明らかに愛車に何かのトラブルが発生した音だった。

 いかに品質を追求する日本製といえども、この車はメーカーの想定した耐用年数などとうに過ぎている。どんな問題が発生しているか知れたものではない。

「頼むから、メーカー送りはやめてくれよ」

 そもそも今の日本に自動車メーカーは残っていないし、整備工ですらいるか怪しい。深刻な損傷があったら、即、廃車決定なのだ。

 ぐるりと半周したところで、原因は見つかった。

 後ろのタイヤが一つ、ぺしゃんこになっていた。破片を踏んだ記憶はないので、ただの寿命だとおもわれた。。

 この程度で済んだのは不幸中の幸いだが、予備のタイヤを積んでいるような贅沢な車はもう何年も見ていない。

 男は舌打ちしつつ、いましがた物資を運びだしたコンビニに戻った。

 無人の店内を通り過ぎ、バックヤードに足を踏み入れる。それを咎めるような人間は何年も、ひょっとしたら10年以上も前に姿を消していた。


 目当てのものは、わずかばかりの探索で見つかった。

 ナビソフトの発達とともに需要が減りつつあった紙の地図。店頭に置かれることはなくなりつつあったが、それでもバックヤードに常備されているケースは比較的多い。

 GPSやインターネットが機能しなくなった現在、たよりになるのは昔ながらの紙製のそれである。

 地図は暗いバックヤードにあったために、日光による退色や劣化は免れていた。広げると、かすかなインクの香りが鼻につく。

 男は慎重に指を地図に這わせながら、目的の施設を探した。


 地図で必要な情報を仕入れると、男は愛車の鍵はあえてかけずに歩き出した。

 もし、このあたりに自分以外の生きた人間がいるのならば、存在のアピールになると考えての事だった。

 地図の通りに二ブロック先の角を曲がって、道なりに進んでいく。

 途中ですれ違った猫が、未知の生物を見る目で俺を一瞥して、そして逃げて行った。

 若い猫だ。

 人間を見るのが初めてだとしても驚きはしない。


 たどり着いたカー用品専門店は、無論のこと悲惨なありさまだった。

 大小様々なタイヤで作られたバリケードは無残なまでに風化している。

 とはいえ、それは久しぶりに見る自分たち以外の人間の活動の痕跡だった。もしかすると、という希望が彼の頭の隅をよぎる。

 苦労して敷地内に入ると、はたしてあちこちに集団で暮らしたと思しき痕跡が見つかった。


 痕跡だけが。


 一通り店内を見て回ったが、期待していた人間の姿はどこにも見当たらなかった。

 希望を抱いて裏切られるのは初めてのことではない。

 それでも思わず座り込んでしまったのは、彼がもう決して若いとは言えない年だからかもしれない。

 見上げた店内の壁には、色あせたWURA――国際反転生者連盟のポスターが貼られていた。

 それはまだ地球上に人類の文明と呼べるものが存在していたころの、最後期の産物に違いなかった。

「どうしてこんな風になっちまったんだ……」

 習い性となってしまった独り言は、男のただの愚痴だった。答えが返ってくることなど期待していない。そもそも今更言ったところでどうなるものでもない。

 それでも言わずにはいられないのだ。

「あいつらさえ帰ってこなければ……」

と、


 あの日、一人の転生者が帰還した。


 それが破滅の始まりだったのだから。


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