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翼の物語  作者: イベリア
一節 ラー・エル・ソナー(再び、繰り返し、何度でも・絆を・結ぼう)
2/3

リベル(龍)

水のブレスとか、傍から見ると嘔吐シーンです。本当にありがとうございました。

今後も主人公の魔法は大半が口から出てきます、本作のギャグ要素です。

 少女についていくとそこには小さな集落があった。そこに暮らしているのは少女と同じ浅黒い肌の耳の長い種族だった。中には少年と同じ胸のふくらみのないものも居た、当たり前の話だ、男と女がいるというだけのことだ。

「おぉ、鱗なしがいっぱいだ! 俺と同じだ! お前の言ってたリヴマーってやつか?」

 少年は大いにはしゃいだ。こんなにもたくさんの、自分と同じ形をした生物を見るのは初めてだったのだ。

「そうだ、ここはリブマーの集落だ。お前と同じ人種だな。少し話をしてくる、待っていてくれ。」

 そう言って少女は自らの村へと向かっていく。

「おう! よろしくな!」

 愛も変わらず脳天気に少年は近くに木を見つけるとそこに寄りかかって心地よさそうに目を細めている。

「ディア、帰ってきたのか! 帰りが遅いから心配していたんだ。」

 村の男の一人が少女に話しかける。

「すまない、少しヘマをしてしまってなあそこの少年に助けられたんだ。聞いて驚け! 彼はアルマーだ、我々に水をもたらしてくれるそうだぞ!」

 ディアと呼ばれた少女は嬉しそうに返答した。

「それはありがたい、でも報酬に払える金なんて大してないぞ?」

 男は困ったようだった。それを少年は見ていた、見ていたから男に詰め寄っていった。

「な……なんだ?」

 少年は屈託のない笑みで答えた。

「金って食えるのか?」

 男は困ったような顔にさらに困惑の色をにじませ、ディアは大口を開けて笑った。

「はっはっはっはっは、コイツはこういう奴なんだ。私の傷も無償で直してくれた。最高だろ?」

 男はそれを聞いて安心したのか困ったようではあるが少し笑った。

「じゃあ、ため池に案内しよう。そこに水を入れてくれ。」

 男がそう言うと、ディアは少し困った顔をして言った。

「すまん、その件なのだが私が連れて行く。みんなは帰ってきた時に報酬替わりの料理を作っておいてくれ。リヴマーの自慢の料理できっと満足してくれるからさ。」

 そう言いながら少年に対してついて来いと目線を送って先導していく。

「飯の前の一仕事だな! 溜池いっぱいになるまで頑張るぞ!」

 歩いてすぐのところにあったその溜池にはもはやほとんど水がなく底に少し残った水も腐ったような色合いでひどい有様だった。

「着いたぞ、これが私たちリヴマーを支える水源だ……。」

 少年はその事実に目を覆いたくなった。彼女たちは、リヴマーたちはその水を飲んで暮らしているのであろう事実がかれの心に深く刺さった。

「こんな水でどうやって……?」

 問わずにいられなかった、それは余りにも残酷に見える。

「こんな水だから人種には毒だ。それでも、植物達には毒にならないんだ。植物たちはその木の根で、この汚れ切った水を濾過して私たちにも飲めるようにしてくれる。そこにある低木が私たちの水を支えている。だが、この池が枯れればこの木も枯れてしまうだろうな。」

 ディアは少し寂しそうな目をしながら木の肌にそっと手を置く。

「枯れさせない。そのために俺が来たんだからな。」

 無理やり強がって笑って見せた。

「頼む……。」

 ディアはただただそう言うと黙ってみせた。

「よし! 行くぞ!」

 大きく息を吸い込んで一気に水を吐く。まるで水龍のブレスのような水の奔流が少年の口から出ていく。それはとてつもない水圧でため池に流れ込み瞬く間に満たしていく。

 巨大なため池の半分ほどを満たしたあたりでそのブレスは一旦止まった。

「はぁ……はぁ……ごめん……一旦休憩……。」

 口から水を放出している弊害である。息ができなくなったせいで少年は息切れを起こしていた。

「大丈夫か? 辛かったらまた今度でもいいんだぞ?」

 そう言いながらディアは少年の背中をさすった。

「最後までやるよ……。」

 なされるがまま背中をさすられている途中少年は思いついたように口を開いた。

「なんだか、具合が悪くて吐いてるみたいだな!」

 それを聞いて、ディアは少年を撫でていた手を止めて少年を軽く睨みつけた。

「気分が悪くなるからやめてくれ……。そう見えるから私が案内したのだ!」

 少年はディアをもう少しからかうことにした。

「出そう……ウボウェー!」

 まるで吐瀉物を撒き散らしそうなセリフを吐きながらブレスを再開したのだ。

 ディアはそれを冷めた目で見ていた。

 しかし、圧巻の水量であるものの数十秒で溜池の水面は地面の高さを超え溢れ出し始める。多少なら溢れたほうが乾いた大地に潤いを与えられる。そんなことを考えてわざと少しあふれさせて水を止めた。

「あぁ、この水はあんまり飲みたくないなぁ。」

 ディアが小声で愚痴をこぼした。

「濁った水飲むよりマシだろ? それにどうせ、この木が濾過してくれるさ。」

 そう言って、少年はさっきのディアのように木の肌に手を置いた。

 少年の吐き出した水は澄んでいた。口から出されたものだと知らなければ、その水を掬って飲みたくなるほどに、冷たく、透明で、清い水だった。それもその筈だった、アルマーの作る水は神の奇跡の水。それは若干の奇跡を孕んだ至上の水なのだ。

「戻ろう、報酬のお前の大好きな食えるものが待ってるぞ……。」

 ディアは少し疲れたような表情で村の方に戻っていく。村の方からはすでにいくつかの香草や肉や魚といったリヴマー達が自慢する料理の匂いだ。香ばしく、食欲をそそる。

「だな! いい匂いで腹減ったぞ……。」

 そう言いながら少年はディアに続いてリヴマーの村に向かった。

 村に着くと調理用の炭火を囲むリヴマー達が笑顔で少年を迎えた。

「まずは、座って食べてくれ。今日の主役は君だ! あと準主役にこのディアを添えてもいいかな? 俺たちにとってはこいつも立派な英雄なんだ。君を連れてきてくれたからな。」

 ディアは少し困惑したような顔をした。

「私はただ……。」

 少年はその言葉を遮って言った。

「主役とかはどうでもいいぞ。みんなで楽しく飯を食おう! 楽しいのが一番だ!」

 少年が言うと集落のリヴマーたちは一瞬驚いたような顔をして、その後笑った。

「ははははっ、あんた本当にいいやつだな。気に入ったよ。」

 一人がそういい、もうひとりがそれに続ける。

「ほんと、最高だよ。よかったら名前を教えてくれよ、俺らのヒーロー。」

 少年はそれを聞いて思い出したように立ち上がった。

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。自己紹介するぞ! 俺の名前はラー・エル・ソナー。種族はアルマーらしいぞ?」

 リヴマーたちはそれを聞いて驚いた様子を見せた。そして口々に言った。

「まるで龍の名前だ。」

 少年はそれを聞いて笑いながら言った。

「ディアだったかな? に自分がアルマーだって知らされるまで自分が龍だと思ってたんだ、俺の名前は龍に付けられた。俺は龍に育てられてたんだ。」

 それを聞いて一番に口を開いたのがディアだった。

「龍たちはもう何年も前に人間を見捨てたんだ。私たちが戦争に明け暮れている間に。私たちは、リヴマーはそれが悲しくて仕方が無かった。なのにどうしてお前は……?」

 人間を見捨てた龍に育てられたなどとどうしてそんな嘘をつくのか。嘘で無いにしてもなぜ龍は彼を育てたのか、疑問がいくつも重なって上手く言葉にできなかった。

イース、シーア、(これは両親が語って)レフォーセ、ミーア。(くれた昔の物語だ。)エル、リベル、マー、(絆を持って龍と)ルー、ソナー。(人は手を結び。)ベル、ホルン、リブ、(楽園は愛の証で我ら)ディ、メイ、ナー。(の故郷となった。)ノー、セラ、(でも、それも今は昔)イース、フィ、(のことで炎が故郷)ナ、リー。(を包でしまった。)ケーゼ、マー、(何故人は命を流し)カミラ、サナー。(てしまうのだろう?)メイ、ディ、(私たちは人の幸せ)ベル、マー、(を愛しているとい)リベル、マー。(うのに、人と龍の。)ラー、ディ、(再び愛を、)ルー、ソナー。(手を結ぼう。)イース、リータ、(昔に帰ろう、)ベル、ミーア、ライ。(幸せを語り合おう。)

 彼は歌った。龍たちの歌、彼の母が歌っていた歌だ。

「なんの歌だ!?」

 リヴマーは古くから龍との関わりが最も深い種族だった。故に。その意味を知って。期待を込めてディアは激昂した。これが龍の歌だとそう言って欲しいと願いながら。

「もう一度いう。俺の名前はラー・エル・ソナーだ。意味はわかるか?」

 ディアの望んでいた回答だった。

「再び、絆を、結ぼう……。」

 それが彼の名前、その意味だ。

「そうだ! ますは手始めにリヴマーだ。俺たちと、龍と再び絆を結ぼう! 武器なんて置いてしまえ!」

 しかし、リヴマーたちにはそれはただの夢物語だった。

「俺たちだってそうしたい。でも、豊かになったこの村はきっと襲われる。武器を持たずどうやって家族を守れというのだ?」

 至極当たり前だった。

「なら、このくだらない戦争を終わらせよう。」

 そして、彼はその夢の続きを平然

と真面目な顔で語ってみた。それは、最も龍に近い心を持つリヴマーたちの祈りであり、やはり夢物語であった。

「そんなこと、出来るならやってみろ。」

 一番に言いだしたのはディアだった。

「やってやるさ。」

 決意を固めて放った言葉でもそれは、彼自身以外には子供の語る夢とさして変わりはなかった。それがわかって彼は一人でその集落を後にした。折角名乗った名前を誰にも呼ばれないまま。

 彼がたどったのは龍たちの帰路、空の道だった。南方の密林の奥深く、切り立つ崖の中、そびえ立つ踏破不可能の山の奥。そこにははるか天空に座す龍の街があった。翼なきものには決してたどり着けない、それ故人種の侵入を許すことなく、争いから目を背けた龍たちの楽園。そこに彼は帰った、彼を育てた両親の元、エル・ディ・ルーとベル・フェオ・ルーの待つ彼の家だ。

「エル・ディ・ルー、帰ったぞ……。」

 彼は力のこもっていない声でそう言った。

「お帰りなさい、ラー・エル・ソナー。どうかしたの? 元気がないみたいだけど。」

 リヴマー達の集落で起きたことが、彼の心にはかなり答えていたのだ。

「俺、友達ができたんだ……鱗なしの俺と同じ人種の友達が……でも怒らせたみたいで、きっともう友達じゃなくなって……。」

 エル・ディ・ルーは黙ってそれを聞いていた。聞いて答えた。それは龍としての祈りではなく彼の母としての祈り、それを彼の名前に隠したほんの小さな隠し事。

「ラー・エル・ソナー、あなたの名前あなたが龍族なら意味がわからないわけじゃないでしょ?」

 エル・ディ・ルーは優しく諭すように語りかけるように問う。

「俺は人種だったよ……龍族じゃないんだ……。」

 エル・ディ・ルーはそれを否定した。

「いいえ、あなたは龍族よ、半分ね。大切な私とベル・フェオ・ルーの一人息子。龍の世界で育って人間の心の形で龍の心の色を見て、龍になろうと努力した。結果、あなたは誰よりも優しさを、絆を愛するようになった。龍と人と両方の心を持っているあなたならわかるはず。どうしたらいいのかしら?」

 その否定は、彼の言葉の否定であり人生の肯定だった。

「もう一度聞くわ、あなたの名前の意味は?」

 ほんの少しだけ強い声で諌めるように、叱るように再び。

「もう一度、絆を、結ぼう……。」

 彼は答えた。答えに対し、エル・ディ・ルー少し嬉しそうな、少し辛そうな表情をした。

「優しいあなたは、きっと龍の夢を一緒に追いかけてしまう。やっと結べた絆が解けてしまったときあなたはきっと迷ってしまう。だから、どうしたらいいのかこの名前に隠したの。私とベル・フェオ・ルーの最初の贈り物。大切にしてちょうだい。」

 エル・ディ・ルーはそう言って一度口をつぐむ。それでなおもうつむいている彼に諭すように語りかけるように。

「解けてしまったなら、結び直せばいいの。もう一度、繰り返し、何度でも。ラーとはそういう意味よ。」

 奥から、地鳴りのような足音を響かせて巨大な龍が顔を出す。顔を出して、彼を諭した。

「今の今まで言わなかったがお前は人種だ。ならば他の人種のように貪欲であれ。だがお前は龍だ、龍ならば龍のように待ち続けろ。貪欲に、求め続け待ち続けてこそ人の形をした龍族だ。」

 それは彼の父だった。地上最強の龍、そして、最も優しい龍だった。

「ベル・フェオ・ルー……。もう……わからないよ、人に人だと言われて。龍には半龍だと言われて。俺は一体何ものなんだ?」

 ベル・フェオ・ルーは笑いながら答えた。

「ははははっ、馬鹿なことを考える。お前はお前だ、私とエル・ディ・ルーの息子でかけがえのない宝だ。そんなに自分の種族が気になるならお前は今日からリベルマー、龍人だ。そんなものでいいだろう。」

 ベル・フェオ・ルーの言うことは正しかった。半ば龍であり、人である。そんな存在がいてもいいのだ、世界は、少なくとも龍たちはそれを許容する。

「リベル……マー……、龍の人。なら、俺は人のように考えてもいいのかな?」

 それには、エル・ディ・ルーが答えた。

「いいのよ、龍のように想うことを忘れなければあなたはいつまでたっても龍でいられる。」

 もう、ベル・フェオ・ルーにもエル・ディ・ルーにも全てが分かっていた。彼が考えていること、その根幹に龍の想いがあると分かっていた。いつかこんな日が来ると思っていた、分かっていた。そして二人は決意すら決めていたのだ。

「ラー・エル・ソナー、お前にこれを授けよう。龍の牙の剣だ。正しく使いなさい。」

 ベル・フェオ・ルーが差し出したひと振りの剣は美しく、それは人の命を奪うために作られたものとは思えなかったし、実際そのために使うことにためらいすら覚えるものだった。反面、その刃は軽く、鋭く、そして丈夫だった。龍の牙、それは地上で最も硬い物質。同じ、龍の牙か鱗でのみそれを加工することができる。考えうる中で最強の剣だ。

「なんで、こんなもの。ベル・フェオ・ルーが……?」

 奪うことを嫌い、殺すことを嫌う龍が決して作らないものをなぜベル・フェオ・ルーが持っているのか、彼にとってはそれが疑問だった。

「戦争を終わらせるなら必要になるだろう。そう思ってな……。だから、正しく使いなさい。」

 そう言って、ベル・フェオ・ルーは再び奥へと戻っていった。

 抜いてみると、そこには龍の文字が刻まれていた。龍の言葉は、文字は古来より力を持つとされている。実際、神の奇跡の力を、魔法を扱うのにこれほど向いている触媒は他にない。そこにはただ一言、“愛する者へ”と龍の言葉で刻まれていた。

リヴマーはダークエルフっぽいけど別に闇落ち種族じゃありません(半ギレ)

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